クローディアス

平 遊

プロローグ

プロローグ

(もう一年か。……早いな)


 目を閉じて手を合わせる。


(成仏してくれ、なんて言えた義理じゃないけど。でも、安らかに眠ってくれ。心から祈ってるから)


 有野家代々の墓。


(この中の誰よりも安らかに……そう祈るから。母さんよりも誰よりも、お前のことを祈るから)


 サクサクと、落ち葉を踏みしめる音が後ろから近づいてくる。


「やっぱりここにいたんだね」

「強太」


 ツカツカと墓に近づき、形ばかりのお参りをして強太は呟く。


「やだな……僕、ここに入るの」


 墓石を見つめる、憎しみのこもった眼差し。

 その激しさに、寒気をおぼえる。


「母さんのお骨だけ出して、僕は違う墓に入りたい。そうしたら」


 言葉を切って、強太が俺を見る。


「兄さんも、僕と一緒の墓に入ってくれるよね」


 ノーとは言わせない、確信に満ちた言い方で。

 強太は俺に笑いかける。


「おいおい……縁起でもないこと言うなよな。俺はまだまだ死ぬつもりなんて無いよ」


 苦笑まじりに曖昧な返答をしてみたものの、実際の所、こうはぐらかすしかない。


(母さんと一緒なのは、嬉しい。でもごめん、強太。俺、本当は……)


 俺はもう一度、有野の墓に向かって手を合わせる。

 中に眠っている、アイツのために。

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