My children

@ShobirDm

My children 上


『My children』



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明日会える?

久しぶりに、メシ食いに行こ。


りょ、何時


7時からで


OK


何度この会話を交わしたのかな、

言葉の裏に隠れた目的に付き合わされてから

私は何度も何度も何度も何度も、

自分がわからなくなる。

いや、付き合わされる前から私は、

ずっと自分がわからない。



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朝か夜かも判断出来ない時計を眺める。


外が暗いから多分夜かな。とか思いつつ


ベッドを降りる。


「あれ、この時計止まってるや。


 今何時だろuえ?!朝の5時半?!!」


時計は9時12分を指しているが、


スマホを見ると、朝の5時半だった。


まずい。非常にまずい。


今日6時から部活があるのに。


とにかく10分遅刻するのを想定して、


用意しよう。


確か顧問は午後から来る。


助かったぁ、先輩に連絡だけでよさそう.....


そう思いながら先輩に遅刻の連絡をいれる。


自分は急いでキッチンに足を進め、


冷蔵庫を思い切り開けて


ペットボトルの水を取って鞄に放り込んだ。


部屋に戻ってクローゼットを開け、


制服とカーディガンを取り出した。


急がないと電車に間に合わない。


大急ぎで制服に着替えて玄関に向かったが、


携帯が見当たらない。


しまった、ベッドの上だ。


自分は猛ダッシュで部屋に戻り、


携帯を取って玄関のドアを開けた。




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寒い。冬だからか、朝の風は身に沁みる。


これだから冬は外に出たくない。


そう思いつつ、いつもの道を歩きながら


見渡す。


何も変わらない、いつもの道。


何年も前から変わらない風景。


自分が大きくなればなるほど、


この風景に深い感情と想いがリンクする。


そんなポエマーみたいなこと考えながら


駅へと向かう。


駅は怖い。


少し語弊を生みそうだが、怖いものは怖い。


大きく言えば、自分は人間というのが怖い。


自分も人間だけど。


感情が揺さぶられたらすぐに同族を


裏切る人間が嫌い。


ただの風評被害だ、とある人に私は言われた。


確かに私は大きく話を作っているだろう。


でも、人の意見を完全に否定して


己の意見を突き通すその人が嫌いだったし、


そしてこんなに同族、人間を嫌う私も嫌い。


自分はこの世で本当に生きていけるのかな、


とか馬鹿らしいことを考えてたら


駅に着いた。


電車が来る5分前に着いたから、


自販機でコーンスープでも買おうかな。



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電車でぼーっと10分揺られてたら


すぐ学校だ。


あーあ、結局7分遅刻しちゃった。


まあ先輩に連絡したから特大なお咎めは


喰らわないだろう。


部室に入り、


「おはようございまーす」


とそこそこ大きな声で挨拶をする。


遅刻したから、みんなはもう体育館か。


自分はロッカーを開けて必要なものを


取り出していく。


私は女子バスケ部に入って、一年経った。


一年経ったからか、同級生のメンバーと


仲がいい。


もちろん後輩とも遊びに行くぐらいには


打ち解けている。


ここは私にとって息抜きに丁度いい場所。


かけがえのない空間。


体育館に移動して挨拶をすると、


先輩からバスケットボールを投げられた。


「優愛遅いよー?

 ま、ギリギリ連絡された10分遅れだから

 許そう。PGは3P練習ね。」


先輩はそう言って、ハーフコート試合の


審判に戻って行った。


連絡しておいてよかった、


そんなに怒られなくて。


そう思いつつ、3Pを投げる。


そういえば明日の夜、あいつとの約束がある。


今からでも断りの連絡をいれたい。


でも自分にはそんな勇気はない。


どうして自分OKしちゃったのかな、


ほんとに嫌になってきた。


心が暗くなっていく度に、


シュートを打つ速度が速くなる。


自分の鼓動と同じスピードになっていく。


「優愛?どうしたの、優愛?大丈夫??」


誰かが私に?何を言ってるかわからない、


頭が痛いの、声が出ない、


なにも聞こえない、助けて、誰か........!


[バタッ]


「きゃぁぁぁぁ?!優愛!

 しっかり!!優愛!!!」


その声を境に何も記憶がない。



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目が覚めると、病院にいた。


顧問の先生が救急車を呼んでくれたらしい。


体が寒い。体の外じゃなくて、


中から冷えているような寒さだ。


鳥肌が止まらないし冷や汗も止まらない。


頭の中の不安が絡み合って解けない。


「もうむり、なんで、また、」


自分は枕を殴った。


痛くないけど、心が苦しい。


またやっちゃった、戻れない深い闇。


「はは、あはは、あっはははははは!」


何も笑えないのに面白くなってきた。


病院にいたら、誰かは心配してくれるなんて


ことは必ず起きない。


パパとママなんか来るはずがない。


だって私は、私は!!!


「優愛!!!落ち着け!!」


嫌、やめて怖いの離して!!!


「優愛!!!落ち着け!!俺だ!!

 優斗だよ!!!」


あれ、なんでおにいちゃんがいるの、


今、名古屋にいるんじゃ、


「っ.....おにぃ、ちゃんっ......!」


「そうだよ、お前のお兄ちゃんだよ。

 優愛、なにかあったのか?それともまた、」

 

私は泣きそうになりながら頷いた。


「.......そっか、先生に伝えてお家帰ろうか。」


「え、でも、私今日は流石に入院じゃ、」


「大丈夫、さっきお前の主治医の先生が

 連絡くれて、落ち着いたならお家帰って

 いいってさ。ほんと、あの人には

 頭あがんないわ。」


やった、今日はお兄ちゃんといられるんだ。


「明日まで家でゆっくりできるから、

 今日は少し夜更かししようか。

 優愛の好きなゲームでもやろう!」


お兄ちゃんはいつも私に優しい。


人間が苦手な自分にとっての


唯一安心できる、大好きな人。


「さ、先生呼んでお家帰ろうか。」


「うん.....!」


私達は病室で先生を待ちながら、


お兄ちゃんと色々な話をした。



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私達は家に戻り、リビングのソファで


ゆっくり座っていた。


「優愛、明日なにか用事でもあるのか?」


「あるけど、どうして?」


「いや、なんでもないよ。

 明日用事があるなら俺が途中で名古屋に

 戻っても大丈夫かなって。」


確かに。


ここは東京なのにお兄ちゃんは、


どうやってあの短時間で


名古屋から病院まで来たんだろう?


まあお兄ちゃんが急に帰ってくるのは


いつもの事だし、気にすることはないか。


「明日1人で出かけるのか?

 それとも誰かと一緒?」


「明日はクラスの子と一緒だよ。」


「なるほどな、これお小遣いな。

 気をつけて楽しんでおいで。」


お兄ちゃんは私に2万円渡した。


ごめん、お兄ちゃん。嘘ついて。


本当は男なの、知らない男の人なの。


ごめんなさい。


私はお金を受け取るのを拒んだが、


お兄ちゃんはお金を私の手のひらに乗せて


頭をぽんぽん撫でてきた。


「ご飯作るから、少し寝てな。」


「うん、」


私はお金をもって部屋へ向かい


ベッドに入って目を瞑った。





目が覚めて、置いてあったスマホを見ると


夜中の1時だった。


どうしよう、


お兄ちゃん起こしに来てくれたかもしれない。


私は焦ってリビングへと向かった。


電気は付いていて、ドアを開けると


お兄ちゃんがパソコンで作業をしていた。


お兄ちゃんは私に気づくと作業をやめて、


かけていた眼鏡を外した。


「おはよう、ご飯食べれそう?」


私が頷くと、お兄ちゃんはキッチンに入って


ご飯をとってきてくれた。


「これ、優愛の好きなコーンスープと

 きのこハンバーグ。サラダも、

 好きなシーフードサラダにしたよ。

 少しでも食べれそうなら、

 ハンバーグ温めてくるよ。」


「ありがとうお兄ちゃん。」


お兄ちゃんはハンバーグをもって


キッチンへと戻っていった。


私は椅子に座ってスマホの通知を遡った。


先輩から5件、部活のグループに13件、


そしてあいつ、柳夏から2件きていた。


最悪だ、LINE返したくない。


私がスマホの電源を落とすと、


お兄ちゃんがキッチンから戻ってきた。


「はいこれ、ハンバーグ。

 カトラリー使うか?」


「お兄ちゃんありがとう。」


「いいって。さ、食べられるだけ食べなよ。」


私はお兄ちゃんからフォークとナイフを


受け取ると、食器の音に気をつけながら


ハンバーグに口をつけた。


「....!!」


「あははっ、感想が顔に出てるな笑」


昔から変わらない、私の好みに合った味。


暖かいご飯に思わず泣きそうになった。


「父さんと母さんから最近何かあったか?」


「.........」


「そっか.....昔からそうだもんなあの人達。」


お兄ちゃんはそう言うと、ため息をついた。


お兄ちゃんの言う通り、


パパとママは何で夫婦になったのかわからない


ぐらいに会話をしないし、顔も合わせない。


家にもほとんど帰って来なかった。


私が中学生を卒業するまで2人は


交互にこの家に帰ってきていた。


でも高校生になってから2年、


2人は帰ってきていない。


一度もだ。


中学3年生の誕生日の時の


母との最後の会話は、


「あなたみたいな子なら、

 産まなければよかった。」


だった。


それから母は来なくなりその3ヶ月後に、


父がやってきて、私が帰ってくるまで


リビングで待っていた。


「誕生日プレゼントです。卒業祝いを

 兼ねてこれを渡しにきました。」


と父は私に小さな赤い箱をくれた。


「あけてもいいですか。」


「好きになさい。」


開けると小さな装飾がされ、


「Y」の文字が上品な筆記体で


ぶら下がっている


シルバーのネックレスだった。


「これは、」


「すぐにわかります。私が後に連絡するまで、

 そのネックレスの事を誰にも話しては

 いけないよ。」


そう言われたプレゼントを私は


お兄ちゃんがくれたジュエリーボックスの


中に見つからないように入れている。


それから早2年が経とうとしているが、


パパからの連絡はない。


来週はいよいよ私の誕生日だ。


実の母親から言われた言葉が身に沁みて、


心から喜べない最悪な日。


あんなの母親と言えるのだろうかと


私は何回も思ったけれど、


どうしようもなくあの人の発言の重さが


赤の他人とは違うように感じる。


血が繋がっているから。


実の母親で最初に見る人だから。


そんなの誰かに聞いてもわからないけど、


あの人の発言が私の首を締め付けるような


苦しみに落とすのは変わり無い。


私が考え込んでいるのを、


お兄ちゃんは心配そうに見つめていた。


「優愛、またどこか痛むのか?」


私はハッとして、お兄ちゃんの方を見た。


「ううんなんでもないよ、

 明日どこへ行こうか考えてたの。」


[ズキッ]


「最近できたお店を巡るのはどう?

 服屋さんもかなり増えてるところあるみたい

 だし、お金はあげるからさ。」


「うん、新しい冬用のコート欲しかったから

 そうしようかな。」


[ドクッドクッ]


「そうしなよ!優愛は何を着ても

 似合うからさ!」


「うん、ありがとう」


「あ、これ追加で5万ね。

 コートの他に可愛い洋服買っておいでよ!」


「そうしてくる」


[ドクドクドクッ]


あ、まずい、


「っお兄ちゃんごめんね、残して。

 ごちそうさまでした。」


「うんうん、大丈夫。おやすみ。」


「おやすみなさい。」


私は急いで部屋に戻って、


棚の引き出しから薬を取り出して飲んだ。


私だけの安定剤。


....................


ね、むい。


私はベッドに入り、


ウトウトした意識の中で


パパが言ってた言葉の意味を考えた......



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今日は日曜日。


夜からあいつと会う。


嫌だった気持ちも寝ればどうにかなるもんだ。


私はそう思って、リビングへと向かった。


お兄ちゃんはもう名古屋へと


向かったのだろうかリビングにはいなかった。


でもテーブルの上には私の好きな


フレンチトーストが置いてあった。


一つのメモと共に。


メモを見ると、


「優愛へ

 おはよう、お兄ちゃんは名古屋へ向かう前に

 少し寄る場所があるから先に出かけます。

 朝ご飯食べたらシンクのの中に

 入れてくれるとお兄ちゃん嬉しいな。

 それじゃあいってきます!

 

 ゆーとより              」


クスッと私は笑った。


相変わらずお兄ちゃんの気遣いが隅々まで


行き届いている、手紙のようなメモだった。


私は少し温かいフレンチトーストに


はちみつをかけて食べた。


香ばしくてほんのりバニラの香りがする、


甘いフレンチトースト。


昔お兄ちゃんにたくさん作ってもらったなぁ、


と想いに耽ながら丁寧に切って食べていった。




時間は午前8時半。


今日は少し早く起きすぎたかなぁ。


でも久しぶりにぐっすり眠れたからか、


体が軽く感じる。


「んーっ」


[ピンポーン]


背伸びをした瞬間にインターホンが鳴った。


嫌な予感がしつつ、インターホンのカメラを


覗いた。


あいつがその場に立っていた。


______________________________


上完結





































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