問題のある結婚相談所

冬見雛恋

第1話

「最近悩んでます」

「なにを?」

「タバコ吸ってると鼻くそが黒くなるんすよ」

「きったねえな」

 桜田のわけのわからない悩みに不快感を示し、ここには従業員も客も変人たちばかりくる。就職先間違えたかな。と日並宮古は嘆いていた。結婚適齢期にあぶれて、それでもなおかつ諦めがつかず相手を探したいという人々が来るのだから当たり前と言えば当たり前なのだが。

 宮古は白のワンピとグッチのバッグ、黒いハイヒールで清楚に着飾っていた。季節は春。風が強かった。宮古は晴れ女で、天気には恵まれるがいつも風が吹いているのは不思議だった。今も風が強く吹いて宮古の長いスカートが宙にまった。

「あ、ベージュのパンツだ、おばはんの履くやつですね」

 桜田雄一がめざとく指摘した。

「おばはんいうな。スカートに透けないからあえて履いてんの」

「ならTバックにしたらいいじゃないすか」

「死ねエロ桜田。食い込むしあんなほっそいのパンツの意味をなさないでしょうが」

 桜田は宮古の顔をまじまじと見つめてきた。

「何よ?」

「いえ、日並さん眉毛のメイクが落ちてますよ。般若みたいだ」

「そういうことはもっと早く教えてよね」

 あわてて化粧室にいきメイクを直そうとする宮古。しかし眉毛はちゃんとあった。桜田にからかわれたのだ。あいつ。このやろ。ついでだからとアイラインをひき直す。メイクは濃いめ。自分ではかなりいけてると思っていた。

 閑静な住宅街を横にした穏やかな商店街の古ぼけたビルの3階に当社はあった。来客にはオリジナルのハーブティーを出し、できるだけリラックスしてもらった状態でどんな付き合いがしたいのか、相手に望むスペックは何か、結婚願望を詳しく聞く。ちょっと古すぎる建物の外観はよろしくないが、手の込んだホームページを見て期待に胸を高まらせ高い会費だってなんのその、という客は多い。

 ただ、宮古はここにいるスタッフの中で凄腕とはいえず、むしろややこしい人担当といういわば雑用係兼用の最後の砦的な役割を果たしていた。正直仕事に疲れていた。桜田雄一は宮古の助手。イケメンだが性格に難がある。宮古の扱った結婚成立率は社内で最低。宮古にしてみればこんなにも頑張っているのに何で?といったところで。やはり人を選ぶのだろうなとは薄々感じていたものの、納得いく結果を出せていないのが現状だ。

 クッキーを焼く宮古。クッキーとコーヒーとタバコが目下宮古の精神安定剤なのだ。

「なんちゃって美人ですよね日並さん」桜田が言った。

「どういう意味?」

「ブランドで決めててパッと見雰囲気はいいんだけどよくよく見ると不細工。目の下の隈ファンデーションで隠しきれてないし。顔のパーツは悪くないけど性格きつそうなのがみえみえだし。安い月給を全部ブランド鞄と靴につぎ込んでるんしょ?で、ご飯はカップラーメンだ」

 図星だった。カップ麺をこよなく愛する宮古は健康にはうとい。肌も荒れるわけだ。

「うるさいなあ。お前はハエか。そんなに私のこと好きなわけ?」

 今日の来客は、80歳のじいさんだった。なんでも農家を営んでいて結構な大事主らしいが結婚歴は無し。その年になり何故結婚したくなった?宮古は疑問を隠せない。

「オラはね、植物の気持ちがわかるんじゃ。」 

 じいさんは出されたハーブティーを熱そうにすすりながら語り始めた。

「雨が降ると喜び太陽が照るとイキイキする。風の強い日は我慢して耐え雪の日には嘆く。そんな声が嫌でも聞こえるから農作物たちの要望に答えて育て方を変えてみる。そうすると立派な実をならせてくれるんじゃ。さらに言えば植物には音楽が一番いい。音楽を聞かせるとすくすくと元気に育つ。オラの商品は人気じゃ。有名なレストランにも多数出荷しておる」

 ほうほう、と宮古はきいていた。この国にはそれぞれ特殊能力をもつ人間たちがいる。能力は様々だが、どうやらこのじいさんは能力を最大限活かした仕事をこなしているようで、立派だと感じた。かくいう宮古も晴れ女という特性を持っていた。遠足なんかではちやほやされた。逆に夏の暑い日には文句を言われた。能力を活かすも殺すも自分次第だ。

 実は客に出すハーブティーには少しの自白剤が混ぜてある。客は自分のことをありありと語りたくなるという仕組みだ。ついでに言えば、ここの結婚相談所では、惚れ薬とも言える媚薬を使用していた。飲ませるのは相性が良さそうな人同士の顔合わせの時。しかし、この媚薬には賞味期限があって1年しかもたない。だからその後は客次第というわけで、どの人とどの人をマッチングさせてお見合いさせるのかは宮古と桜田の話し合いによって決まる。更に、媚薬をどんなに混ぜても相性がよくない人はいる。そういう人には媚薬はきかない。つまり宮古と桜田の人をみる目が相当試される。

「野山さん、それでは何故今になって結婚を望まれるのですか?それから、相手に求める条件を詳しくお聞きしてもよろしいですか?」

「オラはもう十分社会貢献した。立派な農場も作り上げた。車が趣味で、何台も買い替えていじったりもした。だがね、もう老い先短いと考えると、何か足りない。嫁さんが欲しくなってきたのは最近ではない、もうずっと女を求めてきた。オラの作り上げた農場を継いでほしいという願望もある。つまり子供が欲しくなったんじゃ」

 おいおい、80ですよあんた。子供むりじゃね?という心の声を宮古は封印し営業スマイルを必死でつくった。

「ということは、奥様は若い方がいいと?」

「そうじゃよ、できれば20代の娘さんがいい」

 宮古は頭を抱えた。だからここに来る客はややこしい。自分の商品価値をわかっちゃいない。どこの世界に60歳差で満足する女性がいる?しかも女、ときたもんだ。昭和感丸出しで女性蔑視もいいところだ。自分は風俗で散々遊んどいて今子供が欲しくなったから嫁探しかよ。自己中もいいところだ。

「無理ですよ。おじいちゃん、80でしょ、無理無理」

「桜田!」

 桜田が、せっかく封印した宮古の心の声を駄々洩れにさせて言った。空気読めと宮古は焦る。

「金ならある。若い女は金に寄って来るじゃろ?」

 またきました、女性蔑視の発言いただきました。宮古はつっこんだ。金で女を買ってきた人の考え方だ。この人は相手が人間だとわかっていないのだろうか?

「わかりました。野山さんのご希望は20代女性ということですね。野山さんは農家で車が趣味。能力は農作物の気持ちがわかること。その他付け加えることはございますか?」

「できれば働き者の娘っ子がいい。元気で明るく朗らかで優しい子じゃ。オラにも世間体があるじゃて、金なら沢山あるよってにJAの集会で紹介しても恥ずかしくないような人見知りせん子でよろしくな」

「お言葉ですが、そんな子おらんでしょ」

 また桜田が余計なことを言った。しかしその通りでもある。今のご時世、そんなにいい子は相談所に来るまでもなく同い年くらいのイケメンとすでに結婚している。難しい案件だ、と宮古は思った。ともすればこのじいさんは年会費を払い続けてずっとこの相談所に居座る事故物件になる可能性がある。

「本日の面談はここまでに致します。またこちらから連絡差し上げますので。次回はご希望にマッチングした方を紹介いたしますね」

「ありがとさん」

 苦行の面談が終わった。宮古はコーヒーを淹れ、たばこをふかした。無理無理無理。なんでこんな人を私に回してくるの?所長を恨むぞ。桜田は自家製のクッキーをパクつきながらコーヒーをすする。美味いと言うがそれは宮古の作ったクッキーだ。あまりにもたくさん食べるので太るぞと注意したが俺いくら食べても大丈夫な体質なんですと返ってきた。

「野山さんだっけか、自分のことなんだと思ってるんすかね?」

「桜田、お客様の悪口はご法度だよ」

「だって、完全にいっちゃってるでしょ。年収億の芸能人にでもなったつもりかな。嫁さん探しっていったって完全に介護要員でしょ、子供のことも自分の駒としか思ってませんぜ?」

「正直言って私も無理かと思う。今考えている作戦としてはとりあえずサクラの若い子を紹介してさ、こっぴどく振られてもらおう。そのあともう一度相手に求める条件を聞く。ハードルを徐々に下げていこう」

「サクラっすか。どこから探すんですか?」

「次の面談が若い子なのよ。29歳女性。その人を充ててみる」

「日並さんも悪っすねー」

「ごくごく自然にあきらめるよう持っていくのも私たちの仕事なのよ」

「ちょいとトイレにいってきます」

 桜田のトイレは長い。どうせ中でスマホゲームでもしてるんだろう。宮古も少しもよおしたのでトイレのドアをバンバン叩いた。 

「早くして!緊急よ」

「なんすか?うんこ?」

「バカ。下ネタ禁止!スマホいじってないで早くでなさい」

 ジャーと流れるおとがして桜田が出てきた。

「手は洗ったの?」

「当たり前っす」

「でもどうせズボンで拭いたんでしょ」

「日並さんはエスパーですか」

 12時にやってきたのは若いとても美人な職業モデルだという女性だった。スタイルは抜群。170センチの体重55キロ、スリーサイズは80、50、75といったところか。こんな人が来るとは思ってもみなかった。でもここに来るということは何か裏があるに違いない。現に、女性はとても浮かない表情をしていた。

「こんにちは。ぜひお話をお聞かせください」

 自然と宮古の対応も丁寧になる。

「ホームページを見ました。私、今モデルなんですが引退を考えていまして。どうしても寿退職したいんです」

「それはまたどうして?」

「私はこのスタイルを保つため痩せ薬の調合をすることができます。それが私の特殊能力です。ですが痩せ薬には副作用がありまして、重度の鬱状態になるんです。苦しくて苦しくて、カメラの前では笑顔ですが家に帰るともう死んだように布団に入って動けなくて。死にたい気持ちが消えないんです。モデルの世界では1グラム単位で痩せることが求められています。だから私はトップでいるために痩せ薬を飲むしかないんです。痩せ薬がなければ鬱にはなりません。でも今は毎日希死念慮と戦っていて這って職場に行く状態です。もう疲れました。結婚して養ってもらいながらもうモデルはやりたくないんです」

「それはお辛いですね。こんなにお綺麗なのに大変な思いをしてるんですね」

「もう、辛いししんどいし苦しくてほんとに自殺してしまいそうなんです」

 宮古はかわいそうに思った。必死でトップモデルとして頑張ってきたのだろう。鬱は今や現代病だ。わざわざ痩せ薬で鬱になるなんて。プロ意識も行き過ぎるといかなるものか。

「お姉さんなら俺、結婚したいっすよ」

 桜田がまた空気を読まない発言をした。宮古はコーヒーを桜田のズボンにわざとこぼした。あちあち、と退席する桜田。

「お相手に求めるスペックはありますか?」

「ありません。どんな人でもいい。今すぐ結婚したいんです。仕事を辞めたい」

「では、専業主婦を求める方がいいということですね?養ってもらえるような」

「そうね」

 鬱の女性に例の野山さんを紹介すべきだろうか?余計に精神を病みそうだ。宮古は逡巡したが言った。

「ちょっとしたお願いがあります。80歳の農家の男性が若い方を求めています。1度お会いしてみますか?でも多分似合わないでしょうから、速攻でお断りしてもらって結構なんですが」

 80代?とモデル女性は仰天した。そんな人もここに来るんですか?相手は誰でもいいとは言いましたがさすがにちょっとと、表情がますます曇った。

「いや、実はこちらも手を焼いておりまして。あなたみたいな美しい方に一度降られる経験をしてほしい方なんです。会うだけでいいです。断ってくださって大丈夫なんで」

「わかりました。一度会ってみます」

 モデルさんは聞き分けがよかった。野山さんもモデルに振られればちょっとは目を覚ますだろう。宮古はさっそくセッティングしますと言って今回はお開きになった。

 桜田が着替えて戻ってきた。どうでした?と聞くので宮古はうまくいったとつたえた。それにしてもセクハラ発言は控えなさいよと注意すると桜田は何のことですかとわかっていないようだった。

「だいたいね、完璧な美少女は食パンくわえて学校に遅刻しそうで走ってたら曲がり角でイケメンにぶつかりそこから恋が生まれるわけよ。あるいは自動車がエンストしてヒッチハイクしたらいい男がうじゃうじゃくるわけだ」

「なんすかそれ」

「そのイケメンはちょっとぶっきらぼうで意地悪なんだけどほんとは優しくて素敵なジェントルマンなの」

「つまりこんな相談所にはこないってことっすね」

「そうよ」

「結婚ラッシュに焦るってことはあるよね。友達がみんな家庭に入っちゃって遊び相手が誰もいなくなるのよね」

「周りに流されるこの国の典型ですね」

「30、40になるとある程度仕事でも責任のある地位についてきて部下なんかできちゃったりしてそうしたら家庭があったほうが社会的信用も強くなるの」 

「結婚相手はアクセサリーか」

「そうね、本当に愛のある結婚を求める人はここへは来ない。それなりに相手に自分の都合を求めている人ばかり来るの」

「惚れ薬ってほんとに効くんすかね」

「試す?私でさ」

「いや、やめときます俺彼女いるんで」

「まじか。あんたみたいのに付き合ってくれる人いるんだ」

「日並さんそれ逆セクハラっすよ」

「ごめんごめん」

「日並さんこそ彼氏いるんすか?」

「私は仕事一筋で生きてくのよ」

「めずらしいすね、女の人にしちゃ」

「私の家は両親が不仲で口もきかなかった。そんな冷え切った家族になるのはごめんだから結婚に生ぬるい幻想なんて抱いていないのよ」

「でも結婚相談所で勤めてるってことは何かしら結婚に期待してるんじゃないすか?」

「人の幸せのお手伝いができるって素敵なことじゃない?」

「いや、ただの変人好きでしょ」


 野山は、約束の時間きっかりにホテルのカフェへとやってきた。5分遅れて来たのはモデル女性杏樹だった。野山は杏樹を一瞥しニヤニヤと満足顔になったが杏樹は鬱の表情を隠せずうつむき加減で笑顔がなかった。

「さすが好い人がいたもんじゃ」

 ご満悦の野山を尻目に立ち会った宮古と桜田は冷や汗をかいていた。どうなる?このお見合い。もちろん媚薬は使っていない。むしろ自白剤を両者のコーヒーにこっそり混ぜたのだ。

「娘さん。あんた農業に興味はあるかね?」

「はあ」

「嫁いできて働く若い人が必要なんじゃ」

「太ってもいいなら私働けると思いますが」

「決まりじゃ決まり。オラあんたが気に入った」

 急展開に宮古と桜田は焦って目配せした。杏樹はもうどうでもいい、という諦めの笑顔でひきつっていた。杏樹さん、それでいいの?宮古は野山が会計をしている間に尋ねたが杏樹はこくりと頷いた。

 結婚が成立すると宮古にはボーナスが入る。だが今回は手放しで喜べない。杏樹の幸せを思うとなおさらだ。桜田は呑気に宮古にもらったタバコをふかしながら言った。

「楽勝でしたね日並さん。でもあのスケベ爺多分すぐ離婚されますね」

「どうかな。私はあの杏樹さんが多分みる影もなく太ると思うわ」

「じゃあやっぱり離婚だ離婚」

 すぐに離婚となるとうちの会社の評判がおちる。宮古は危惧していた。私の評価も下がるじゃない。桜田がカフェの外にでると、待ち構えていたかのように雨が振りだした。ザアザア降りだ。

「日並さん、晴れ女っすよね、俺雨男なんす。真逆ですね、俺たち馬が合わないわけだ」

「ということは、2人一緒にいるとどうなるわけ?」

「さあ?その時の勢力が強い方が勝つんじゃないすか」

「てことは、今日の運気は桜田にあるわけだ。何を望んでるの?」

「日並さんの座を狙ってます」

 このやろ、と宮古はげんこつをくれてやった。




 風が強い。今日も宮古のパワーのおかげか天気は晴れ。晴れると会社は繁盛する。結婚相談所には本日3件新規の予約があった。ハーブティーを準備しながら桜田は鼻歌を歌っている。呑気なもんだ。助手ってのは責任感に欠けるらしい。今日の客はコンビニ店員の男性、無職の女性、それからトラック運転士の男性だと事前にきいていた。

 まず1人目はコンビニ男性だった。宮古が面談室のソファーの斜め向かいに腰掛けると彼は山下ですと名乗りうやうやしく一礼した。桜田は今回いなかった。2人目無職女性の予約がかぶっていたためそちらの対応をしていたのだ。

「僕は元々計算が得意で、どんな数字も暗記でき、暗算は4桁かける4桁まで空で言えます」

 なになに。すごい能力の持ち主だ。そんな天才が何故コンビニ店員?

「能力を活かして、大学教員とか数学者にならないんですか?あなたみたいな人が何故ここへ?」

「昔は銀行に勤めていました。ですが実は」

どうした?何故言いよどむ?宮古は興味をひかれた。

「己の誘惑に負け、顧客のお金を横領していたんです。それがばれて懲戒解雇刑務所にも入りました」

 あちゃー。やっちまった。やらかした過去があるのね。宮古は嘆く。

「今は猛烈に反省し真面目な生活をしていますが、世間特に僕の両親からは信用されていません。刑務所をでたのはもう5年前の話です」

 そうかそうか。そりゃ無理もない。全科もちはなかなか信頼されないだろう。

「じゃ、同じく刑務所経験のある女性を紹介しましょうか」

 少し悪意ある冗談だった。刑務所経験のある女性はこの相談所にはいない。かといって彼の過去を隠し通すのも無理がある。

「実は僕、気になっている女性がいるんです。同じコンビニの子で。その子は人の心が読めるんです」

「いろんな悩み相談をしてくれます。その子は人の悪い心が見えるせいで人間不審になってしまって。さらにうちのお局グループが彼女をいじめのターゲットにしているんです」

「未払いの残業は当たり前、掃除はすべて彼女がやるし陳列とか力仕事も全部やらされて。見ていてとても気の毒で」

「彼女はあなたの心も読むわけだ」

「そうです。だから僕は悪いことができません。僕の恋心にも気づいた上で悩み相談をしてきます」

「脈ありなんじゃ?彼女に告白すれば?」

「僕は彼女の気持ちが分かりません。数字しかわからないんです。だからモテるためのアドバイスを求めてここへきました」

「なるほどね」

 モテるには身だしなみがまずは大事、と宮古はレクチャーした。無精ひげは剃る、白髪は染める、それから笑顔も必要。自信を持って堂々と振る舞いなさい。おどおどきょどってはだめ。力仕事は手伝いなさい。お局のいじめに歯向かうこと。彼女を堂々と守りなさい。

 山下が帰ると入れ替わりに桜田がやってきた。

「どうだった?」

「どうもこうもありませんよ。厄介でした。だってまず、既婚者なんですよ?」

「え?聞いてない」

「でしょ?うちは既婚者お断りって言ったけど聞かないんです。なんでも、炎の使い手らしくて。で、旦那さんに子どもさんもろともモラハラとDVを受けてるらしく、いつか焼き殺すって言ってました。45にもなって積年の恨みはすごいっすね」

「なにそれ、怖い」

「日並さんはどんな人でした?」

「まあ好感度は高い青年ね。臆病そうだけど。結婚相談というよりはモテ方を知りたいらしい。ほら、近所のABCストアの店員よ」

 宮古と桜田は客の詳しい情報交換をした。山下の話を聞いて、桜田はちょっとニヤけ、その彼女のシフト分かりますかと聞いてきた。宮古は何故そんなことを聞くのか不思議だったが山下に連絡をとり、それを桜田に教えた。彼女の来月の日曜日シフトの日、山下君に傘を1つ持っていくよう伝えてくださいと桜田はいった。

「タバコ俺にも一本ください」

「肺が悪くなるよ」

「人のこといえませんよ。日並さん」

「俺のじいちゃんは90までぴんぴんしてましたがヘビースモーカーだったから大丈夫。」

「肺癌になって苦しめ桜田」



 杏樹と野山から連絡が入っていた。杏樹はやはり太っていた。元々細いのだから普通体型に戻っただけだが。それでも杏樹は鬱が良くなっと嬉しそうで野山はこんな美人だから鼻高々だと満足していた。電話越しに杏樹は話した。

「農作物はね、日並さん。鬱に優しいんです。孝三郎さんが農産物の気持ちを話してくれて、楽しいです。孝三郎さんはとてもいいかたですよ。特に花なんかは前向きな性格なんですって。農作業はきつくて私は少し筋肉痛になりました。」

「痩せ薬はもう飲まないんですよね?」

「はい。おかげで明るい気持ちを取り戻しました」

「良かった」

「毎日楽しいですよ。特にお隣の葵さんって方が優しくて」

「そうですか。今ご主人おられます?」

「はい。替わりますね」

「もしもし、かわったよ孝三郎じゃ」

「野山さんですね。どうですかその後」

「満足しておる。ただね、たったひとつ問題があるんじゃ。ちょっと妻には外してもらってから言うけどな」

 意外や意外、上手くいっているではないか。宮古は拍子抜けした。電話口からの杏樹は明るい。

「もしもし、妻に用事を言って外させた。問題というのは、夜のことなんじゃ」

 ん?雲行きが怪しくなってきた。

「妻は夫婦生活を断固拒否する。これでは跡取りが作れない。悪いがオラは近々離縁を考えとります」

 なにをぬかすエロ爺。宮古はこみ上げてくる怒りを抑えられなかった。申し分ない奥様じゃないのか。

「別れたらまたそちらの相談所に戻りたい。次は、跡取りを必ず」

 まずいなあ。杏樹さん、やっぱり夜は拒否に決まってるよなあ。他の女性だってそうだろう。野山に戻ってきて欲しくはない。希望が高すぎるし、杏樹さんの幸せが壊れる。


 トラックの運転士だという男性は、眠らないでもいられる体だという能力の持ち主だった。色々いるんだなと宮古は思う。働きずめで恋愛はしてこなかったと。だが、その代償として、寿命が短いのだ。彼の先祖は代々30前後で亡くなっていた。勿論両親もすでに他界。桜田は良し悪しですねと呟いた。起きている時間が長い分若くして亡くなる運命。それならば尚更起きて、やりたいことを、やりきらなければ。何かを後世に残したいと思うのは至極当然だ。

「残された時間は僅かなんです」

彼は言った。

「俺は結婚に向いていると自分で思います。優しいし家事だってできる。生前のお袋に仕込まれましたからね。仕事の成績も良いし人間関係も良好。ただもうすぐ死ぬってだけで他には問題ありません」

「そうですか。ではタイプの女性を教えてください」

 運転士は少し考えにっこりして言った。

「手に職のあるしっかりした世話好きな方かな。日並さんみたいな方がタイプです」

 宮古は赤面した。彼の言い方はお世辞ではなく本心に思えた。桜田がえへんと咳払いし余計なお節介やきがタイプですかと尋ねる。はい、と答える運転士。でも日並さん料理はできないし部屋はごみ屋敷だしブランドもちの見栄っ張りで厚化粧の性格悪ですよと続けた。

「日並さんをよくご存知なんですね。ひょっとしたらお二人は付き合ってる?」

「めっそうもない」

 桜田と宮古は合唱した。息ぴったりじゃないですかと笑う運転士。でもそれなら俺にも可能性ありますねとあながち冗談ではなく言った。宮古はからかわれてるのかとは思ったが嫌な気はしなかった。


 桜田が雨男だと判明したので、雨をふらせたい時は彼をシーツでくるみ、てるてる坊主風にして玄関口にたたせるという技を宮古は実践していた。今日は暑すぎるなという日や、疲れていて飛び込み客にきて欲しくない日にやってみると効果的だ。うー。とシーツの下からもぞもぞ苦しむ桜田をみてほくそ笑み午後のコーヒーと至福のタバコをたしなむ宮古。

 会社の先輩たちはまたバカをやってると冷ややかに宮古たちを眺める。比較的まともな案件を扱う先輩は営業成績も宮古よりはるかに良い。宮古は肩身が狭いのだ。だからといって媚薬をあちこち振り撒くのもどうかと思う。とっておきのとき用に残しておく。

「独り暮らしでしょ桜田、いつも何食べてんの?」

「スーパーで100円引きになった刺身をつまみにビールです」

「わびしいのね」

「彼女が時々手料理振る舞ってくれます。日並さんと違って」

「それはそれはご馳走さま」

 宮古はちょっと羨ましくなった。仕事で疲れ帰ったら温かいご飯が用意されていたことなど一度もない。両親は宮古を使ってお互いに文句を伝えあった。また飲んできたんでしょとか誰の稼ぎで飯が食えてるんだとか、家でゴロゴロされると迷惑なの、どっか行ってとか。冷えきった家族が離婚を選らばなかったのは主に経済的理由のため。宮古は早くうちを出よう。そして誰にも頼らず暮らそうと決心したが、一人というのは意外と寂しい。あんな家族でも人がいたんだなと懐かしい……わけではないが。桜田をこきつかってやろう腹いせに。彼女に降られてしまえばいい。まあそこまで意地悪はどうかとも思うが。

「日並さんも彼氏作ったらどうすか?」

「余計なお世話」

「いいっすよ。愛する人がいるってのは」

「じゃあ、桜田は彼女とラブラブなんだ」

「いや、倦怠期です。憎まれ口ばっかり。小言多いんですよね。あと仕事関係でも飲み会は禁止。嫉妬深いんです」

「上司が私だから妬いてるんだ」

「日並さんは男だって言ってます。面倒くさいんで」

「なにそれ」



 ぽかぽか陽気に包まれて、宮古は日曜日休みを満喫していた。布団の中でぬくぬくしながらチョコレートをむさぼる幸せに浸っていると桜田から電話がきた。業務時間外なので無視していたが、5回目の着信で根負けして電話をとった。

「やりましたよ!」

 意気揚々と桜田が叫ぶ。どうした、休みなのに、と宮古は不機嫌だ。

「きっとくっつきますよ山下さんと彼女」

 桜田の話はこうだった。ABCストアにタバコを買いにいった桜田は、まず彼女にややこしく世間話をふった。近所の小学生がうるさくてなんたらかんたら、と。その後タバコの番号をわざと聞き取りにくい声で伝えた。5000円札をだした。会計しようと彼女がレジにお金をしまったのを見計らい、タバコの銘柄が違うといちゃもんをつけた。あわてて取り替える彼女。そこで桜田は、お釣りが合わない、俺は10000円札をだした。とごねたのだ。勿論彼女には心が読める。よこしまな芝居はバレバレだが、気の弱い彼女は押しだまってしまい困り果てお客様がまちがえています。と言えなかった。山下が、登場した。お客様わざとですよね、僕はレジにあるお金が全て瞬時に計算できます。確認したところ、彼女は間違えていませんし、確かにお客様は5000円を出しました。なんなら防犯カメラを確認しますか?詐欺ですと、警察を呼びますよ。桜田によれば山下の態度は毅然としていてなかなか良かったそうだ。彼女はほっとしていた。桜田はすごすごと引き下がったがそれだけではなかった。彼女のシフトが終わる頃合いを見計らい桜田は再びコンビニ近くへ寄った。天気はみるみるうちに曇り始め雨がザアザアと振りだした。山下がまた登場。あらかじめ宮古に言われていた傘を彼女に差し出したのだ。同じくシフトが終わった山下は、自分は濡れ鼠になって走って帰った。それを見た桜田は相合い傘作戦は半分成功半分失敗だと思ったそうだ。2人一緒に傘に入らないんだね、照れ屋だね山下君は。と、以上が桜田の報告だった。少々セコいなと宮古は思った。

「でも、彼女は心が読めるでしょ?タバコ作戦が山下君のためだとよくバレなかったね」

「だって俺、本気で釣りをちょろまかすつもりでしたから。結果オーライすよ」

 そうだ、こいつはこういう性格だったと宮古。そんなベタな作戦の結果の山下の行く末が気になった。

 数日して、宮古はあまりに暇なので職場のキッチンを借りてクッキーを焼いていた。桜田はクッキー生地を捏ねて芋虫とかゴキブリとか似つかわしくない形ばかり作って喜んでいた。小学生レベルか。自分で食べろよ。宮古は怒る。キッチンには良い香りが漂っていた。そんな時電話が鳴った。

「もしもし、野山です。先ほど離婚が成立しました。円満にです。妻に慰謝料も渡しましたし子どもができないと言う理由に納得もしてくれました。そこで新しい相手を探すためまたそちらに伺います」

 どうしたものか。宮古は考えあぐねた。私の顧客で今空きがあるのは旦那を焼きナスにしたいという物騒な45歳だけだ。どうかな。桜田は「その彼女でいいんじゃないすか。だって子持ちでしょ?跡取りつくる必要ないじゃないすか」と言っている。宮古は物は試しだと野山に、45歳ですが大丈夫ですかと伺ってみた。野山は良いと返事してきた。杏樹に電話した。「杏樹さん、もし良ければトラックの運転士の男性をご紹介できますよ?再婚は考えておられますか?」

「いえ、私しばらく慰謝料もあるのでこちらで1人で暮らします。心配してくださってありがとう」

 電話が長くなったせいでクッキーがこげた。ゴキブリクッキーを作った責任をとらせ桜田に全部食べさせることにした。苦い、と桜田。食べろよと宮古。苦行ですよ。癌になります。ちょいと散歩してきます。桜田は結婚相談所のチラシ配りに出かけていった。宮古は遅れて同伴した。あるきまわってポスティングするのだ。地道な作業が会社を大きくする。桜田はなんと受け取った焦げ焦げクッキーを道に1つずつ捨てていたのだ。宮古が気づいたのは野良猫が妙についてくるから。なにしてんの、ポイ捨て?いやぁまあね。お前はヘンゼルとグレーテルか。

 野山と炎使いのお見合の席で宮古は媚薬を気持ち多めに盛ってやった。炎使いはまだ旦那と離婚成立していない。この縁談がまとまれば子どもをつれこっちへ逃げてくるというのだ。野山は心なしか大人しかった。以前のようにギラギラしていない。杏樹に夜を断られたからか身の程をわきまえ始めたようだ。

野山の努力は態度にも現れた。席はソファー側の上座をゆずり、お冷やがなくなればつぐかね?と声をかけていた。見合いが一通り終わって野山が退席してから、どうでしたか?と宮古は炎使いに尋ねた。

「悪くないです」女性は答えた。

「まずは離婚が先ですね。弁護士をたてますか?」

「はい。もう旦那とは話したくありませんから」

 桜田が宮古のタバコを、勝手に吸っていた。自分で買えよ。と言ったところお詫びの印にと缶コーヒーを渡された。今日は2人一緒にいたが晴れていた。宮古のパワーが優勢なのか。そしていつものように風が強い。

「なんやかんやで最近順調に縁談まとまってますね日並さん」

「何か一波乱ありそうで怖いけど」

「実は日並さん、俺あの運転士に媚薬すこーし盛ったんす。やっぱり効果ありましたね」

「まじ?何いらないことしてくれてるの。通りでおかしいと思った。私がもてるわけないのに」

「そんなことないすよ。日並さんもっとメイクをナチュラルにしたら意外と美人だし」

「え、ほんと?」

「嘘です」

 桜田は、いちいち勘に触る。かんかん照り続きでお前を煮干しにしてやろうかと宮古は言った。

「でも、あの運転士本来日並さんを気になってたみたいですよ。これは嘘じゃないす。俺はちょびっと勇気をあげたんです」

「私は駄目よ。幼い頃から幸せを知らないもの。」

「トラウマってやつですか。過去に捕らわれてちゃ前髪をつかみ損ねますよ」

「前髪?」

「幸運の女神は前髪しかないんですよ」

「じゃあ、後頭部はつるっぱげ?」

「そう。大五郎みたいにね」


 運よく結婚話がまとまり、野山と女性が暮らし始めたころ、宮古はお伺いの電話をいれた。

「暴力旦那と縁がきれてせいせいしています。孝三郎さんはもう殴るような力も怒気もないし、安心です。私はこの炎の能力をキャンプとかバーベキューで活かせるし」

 ところがしばらくして杏樹から電話があった。まだ杏樹は野山の近所に住んでいた。野山からたっぷりもらった慰謝料で独り暮らしをしているのだ。

「孝三郎、いえ、野山さんの1つの畑がね火事で全焼したんです。噂によると新しい奥様が放火したって。恐ろしい話ですよね」

「野山さんは無事なんですか?」

「ええ。命には別状なく。奥様もお子さんも生きています」

新しい妻の怒りの矛先が野山に向いたのか。野山は何をしでかしたのか。

 顧客の情報を漏らすのは最低の行為だ。しかし桜田はそんな倫理観に欠けている。何故かトラックの運転士と意気投合した桜田は宮古をつれて野山の畑の様子を見に行ってほしいと頼んでいた。運転士は車をとばしてくれた。宮古は野山のうちを直接訪ねた。

「あれは事故でした」

 炎使いの妻が嘆いた。

「私はまだ炎の手加減ができず、主人に野菜の屑や肥料の藁を焼いて欲しいと頼まれたんです。それで畑にいきました。ですが、炎は思ったより激しくて乾いた藁を吹き飛ばし畑全体に回ってしまって。哭いて謝りましたよ」

「いやいや妻はよくやってくれとるよ。少し不器用じゃがね。今回のことでオラはまた生き甲斐ができた。畑を1からやり直しじゃね」

夫婦は宮古が心配していた様子ではなかった。お互い1度目の結婚で懲りたのか、互いに庇いあうようでその目に嘘はなかった。

「この車、禁煙ですか?」

帰り道のドライブで宮古は聞いた。

「いや、俺も吸うから。遠慮しないで」

アップテンポの曲をかけ、運転士は安全運転をした。宮古は妙に居心地がいいなと感じた。

「日並さんはご家族は?」

「両親がいます。私は一人っ子。遠い田舎に住んでますよ」

「寂しいでしょ?」

「いえ、うちはほぼ家庭内別居なので嫌で嫌で。一人だと気楽です」

「じゃあ、家庭の温かみを知らないんですね。うちは、どうせ死ぬからってすごいいい親でしたよ。毎晩自作の物語を聞かせてもらってた。」

「素敵ね」

「俺も一人の人の幸せをお手伝いしたいと思うようになったんです。トラックって基本一人仕事でしょ?ぬくもりが無いのが寂しいですよね。奥さんになる人を全力で夜もずっとみまもりたいって。日並さんはどうしてこの仕事を?」

「私は。そうね。本音をいうと恋に恋してるみたいで少女漫画の読みすぎかもしれないけど結婚が人生の最高のゴールかなぁと就職したころは思ってたの」

「違いますよ、スタート地点です。そこから長く続けていくんですから。日並さんの仕事はマラソンランナーのスタートのホイッスルを鳴らす役目ですよ」

「私もね、誰かを幸せにしたいって気持ちはあったのよ。もう忘れかけてるけど」

「桜田さんに少し秘密を聞きました。媚薬があるんですよね」

「あいつ、そんなこと話したの?」

「はい。で、飲みますかって聞かれたけどいらないって答えました。なんかフェアじゃないかなーと」

 今度こそ宮古は嬉しさがこみ上げてきた。運転士は惚れ薬を飲んでいなかった。じゃあ、あのときのあれは、本心?礼を言って車を降りる。桜田からメールがきていた。今忙しいです、至急戻れ。


 久しぶりに山下が会いたいと連絡してきたので宮古はいつも使うホテルのロビーで待ち合わせようと提案した。やってきた山下ははにかんで微笑んだ。

「どうやら日並さんのアドバイスが効いたみたいです」

「じゃあ上手くいってるの?」

「まあまあです。彼女の連絡先が聞けました」

 ずいぶん奥手だ。だがこういう甘酸っぱさは不快じゃない。

「今度一緒にお茶することになりました。それからお局様グループに歯向かってみたんです。たじたじとなって案外弱い人たちでした。彼女は僕を信頼してると言ってくれました」

 良かったんじゃない?宮古は、年会費を払ってくれたお礼に山下に媚薬を渡そうかと考えた。だが、やめておくことにした。余計すぎるお節介は無用。恋は自分の力で勝ちとってもらおう。挨拶をすませ、ホテルロビーを出た。風が強い。もしかしたら私は晴れ女かつ風女かな?着信があった。杏樹からだ。立ち止まり電話にでる。杏樹は離婚されて落ち込んでいるかと思いきや、声が明るい。

「あのね、私孝三郎さんの紹介でお隣の葵さんと付き合うことにしたんです」葵?どこかで聞いた名前だ。

「40歳の方なんですが若々しいしカッコいいし、なんていうか孝三郎さんには悪いけど、ほんとは前から気になってたんです」

「そうなんですか。てっきりまた落ち込んでるかと」

「エヘヘ。今とてもハッピーです」

 どこでどう転ぶかわからないもんだな。宮古は少々安堵した。数百メートル歩いた所で、後ろから日並さーん、と声がした。山下がかけてくる。どしたどおした?山下は、宮古のグッチのバッグを持っていた。

「忘れ物ですよ!日並さん」

 あらら。私としたことが。顧客データやお金クレジットカード他大切なものが沢山入っていたのに。忘れるなんて私らしくない。宮古は苦笑した。

「ありがとう。山下さん、もうすっかり正直者なのね」

「いやあははは」

 結婚相談所は今日も繁盛。晴れの日もあれば雨の日もあるのは例の2人がいるからお墨付き。次はどんなお客が来るのか。宮古は前よりも少し前向きな気持ちで仕事ができるようになった気がした。トラックの運転士。自然と宮古は電話をかけていた。私も、媚薬を使わないで真正面から人に向き合ってみようかな。風は和らいでいた。宮古の刺々した気分がいつも風をふかせていたのかもしれない。桜田からメールが入っていた。一言前髪、と。

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問題のある結婚相談所 冬見雛恋 @huyumihinako

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