第45話 3ー31 日本の味?

 ハーイ、ヴィオラです。

 少し時間を遡りますけれど、私(ヴィオラ)はどうしてもこの世界で再現したいものがありました。


 それはお味噌とお醤油なんです。

 私(ヴィオラ)は元日本人ですから、色々と日本料理を食べて育ちました。


 そりゃぁ、最後の数年は、ほとんどモノも食べられらないような状態が続きましたので、流動食とかが多かったのですけれど、それでも12歳若しくは13歳までは極々普通の食事もできていたんですよ。

 ですから和食が私の原点なんです。


 お米も欲しかったし、味噌・醤油も手に入ればと、色々ロデアルや王都の商人にもあたってみました。

 でも、お米は入手できませんでしたし、小麦も大豆も食塩もあるのに味噌も醤油も無いんです。


 私(ヴィオラ)のソウルフードなんですから、何とか再現したいですよね。

 それで、一生懸命に発酵はっこう食品を試行錯誤して作ってみたのですけれど、ダメでした。


 発酵のための麹菌こうじきんが違うみたいなのです。

 ワインはできましたし、チーズやバターもできました。


 多分ヨーグルトなんかもできるんじゃないかと思っています。

 でも、でも、食卓にお味噌や醤油が無ければ駄目じゃないですか。


 ですから再現のために、ヴィオラは5歳のころから色々と戦ってまいりました。

 手を変え、品を変え、何か似たような麹菌ができるんじゃないかと頑張ったのです。


 麹菌は単なるカビですからね。

 カビの中で有用なものが発酵食品に使われるわけですけれど、健康を害するものだってできちゃうんです。


 ですから私の能力の『鑑定』をフル活用して頑張ってみましたが、試行錯誤の末に入手できたカビで利用できそうなものは全体の1%にも満たないものでした。

 そうしてその中に私の記憶の中にある麹菌はありませんでした。


 私が小学校低学年の頃に、山梨県のおばあちゃんのところで味噌も醤油も家庭で作っているところを見たんです。

 だから同じようにすればきっとできると思って頑張ったんですけれど、・・・。


 米、米麹?それに醤油麹?

 それらが無いとどうにもならないようです。


 ですからルテナにお願いして米若しくはそれに類するものが無いかどうかを当たってもらいました。

 ルテナは、アカシック・レコードにアクセスできますからね。


 但し、ルテナのレベルによって、アカシック・レコードでもアクセスができるものとできないものがあるんです。

 おまけにルテナの話だと、レコード全体に索引があるわけじゃないので、数千冊、数万冊にも及ぶ百科事典を手当たり次第に覗くような調べ方しかできないらしいのです。


 しかも、ものによってはそもそもそのページを開けられないとか、開けても情報の大部分が黒塗りされて隠蔽されているとかの状態なんだそうです。

 それでもルテナが私とともに成長したことで、かなりルテナのレベルが上がったことと、ルテナ自体の処理能力の高さからいろんな事象を結び付けて、様々な情報を得ることができるようにはなってきたのですけれど、未だに米、醤油、味噌については何の情報も無いのです。


 でも、最近になってルテナが稲の特徴によく似た植物があることを発見してくれました。

 但し、その場所は、ライヒベルゼン王国からとても遠いところなんです。


 ライヒベルゼン王国は、ワオデュール大陸の中央西部にある内陸国ですけれど、米かもしれない稲のような植物が自生しているのは、ワオデュール大陸の南東端から500リーグほども離れた島なのです。

 大小50ほどの島からなる島嶼国家であって、クロイゼンハルト公国というところらしいです。


 困ったことにこの国は百年ほど前から他国との交易を禁止しているらしく、この国の生産品を入手することは非常に難しそうですね。

 海賊や密貿易に携わる商人などにより、一部の品がワオデュール大陸南東部の国々に密輸されることもあるようですが、それらの品が大量に出回ることは無いようです。


 因みに、クロイゼンハルト公国産の漆器や織物などが高級品として珍重されているようですね。

 そうした密輸品の中には稲に似た植物は含まれていないそうです。


 ルテナ曰く、クロイゼンハルト公国では、当該植物は人の食用に供されていない家畜用の飼料なんだそうです。

 一応、水辺に群生する植物で、稲のような実がなること、最初は緑だけれど、秋には枯れて小麦のように茶色に変化するのだそうですよ。


 飽くまで自生しているものであって、農民が栽培しているものではないそうです。

 但し、秋の乾季には水辺の水が浅くなるような場所に自生しており、牛や馬等の格好のえさになるんだそうです。


 これがもし米であれば、こちらには無い米麹もクロイゼンハルト公国ではできるかもしれませんね。

 私(ヴィオラ)は、できればおにぎりとお味噌汁が食べたいのです。


 その身体の奥底から湧き出る欲求には到底勝てるわけもありません。

 というわけで、矢も楯もたまらずに、明後日にはカボックから王都へ戻らねばならないという日の夜中に、はるばる跳んで来ましたクロイゼンハルト公国です。


 勿論、飛行術と空間転移のコンボで、2400リーグほどを移動してきたわけですけれど、何せクロイゼンハルト公国は鎖国中です。

 もしも外国から来たとわかれば、場合により磔・火炙りはりつけ・ひあぶりの刑もあり得るかもしれません。


 此処は絶対に見つからないよう細心の注意を払う必要がありますよね。

 私(ヴィオラ)は、隠遁の術に認識疎外をかけて、クロイゼンハルト王国のとある島に降り立ちました。


 ルテナ曰く、この島は東西南北に200リーグ四方ほどもありそうなひし形の形状なので、公国の中でも結構大きな島だということです。

 稲は、同じ水辺でも海辺では育ちませんから、内陸部の湖沼を中心に探しました。


 カボックを発った時は夜中でしたけれど、東進してきた速度はどうやらこの星の自転速度を上回っていたようです。

 体感で移動時間は30分前後のはずなのですけれど、現地に着いた時は夕焼けがとてもきれいな時間でした。


 明るい時間に探さないといけないので、一生懸命に湖沼の岸辺を探して鑑定をかけまくりました。

 そうして暗くなる前に何とかイネ科植物を見つけることができました。


 カボックでも夏季であるように、亜熱帯地域のクロイゼンハルト公国でも夏場なのです。

 鑑定によりイネ科植物であることはわかりましたけれど、アワやキビなどの雑穀もイネ科植物ですので、秋になって収穫時期の実を念のために確認しないといけませんよね。


 検疫上の問題もあって、カボックに持ち帰るのは今の段階では避けておくべきでしょう。

 とっても残念なのですけれど、この植物の繁殖地と仮設基地にできそうな場所だけを確認して今回は引き上げます。


 次回はここへ空間転移で一瞬で来られますから、魔法って本当に便利ですよね。

 その後、三度ほどこの地を訪れ、秋口には黄金色の稲穂が実って、ほんの一部を収穫して精査した結果、ほぼ前世のお米であることが分かりました。


 このお米、実のところ、食用にはできますけれど、味の方はお世辞にも美味しいとは言えません。

 これから、この地で米麹が造れるかどうかを試して、可能であればその麹菌を大事に育て、更にロデアルでも稲作が可能かどうか試してみるつもりなのです。


 尤も、ロデアルで育てられるかどうかを試す前に、私の時空魔法でクロイゼンハルト公国に似た気候の空間を生み出し、そこで品種改良を行いたいと考えています。

 品種改良には長い時間がかかるモノなんですけれど、時空魔法で造る亜空間は内部の時間を早くしたり、遅くしたりすることも可能なんです。


 ですから亜空間で何世代も後の品種を入手することは比較的簡単にできそうです。

 亜空間内で品種改良した稲をロデアルで育てられるようになれば、ロデアルの領民に新たな栽培を促せます。


 稲は、小麦よりも病害虫に強いですし、毎年作ることができますからね。

 定常収入の確保に適した農作物なんです。


 干ばつなどには弱いのですけれど、農業用水を確保すれば大丈夫なはずです。

 稲特有の病害虫については、亜空間内での品種改良で徹底してその可能性を排除し、抗体を作っておくようにしましょう。


 私(ヴィオラ)は農民ではありませんけれど、数々の試行錯誤を短期間に行えるチート能力を持っていますから、それを駆使してロデアルで栽培できる美味しいお米を作るつもりです。

 そうして、クロイゼンハルトの環境で米麹が造れたなら、それを乾燥麹に加工し、クロイゼンハルト以外の地でも利用できるようにしたいと思います。


 場合により、乾燥麹だけは私(ヴィオラ)の亜空間で製造しなければならないかもしれませんが、乾燥麹を使って米麹を造れるならば、ロデアルでも継続して米麹や乾燥麹を造れるでしょうし、そうなれば、特産品で醤油や味噌がロデアル領で造れるようになりますよね。

 今のところ私(ヴィオラ)の夢に過ぎないのですが、是非ともこれを叶えて、この世界でも日本の味を再現し、広めて行きたいと考えています。



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【注) 日本の米麹は、日本独特のものであり、お隣の朝鮮半島や中国にも無いものなんだそうです。

 朝鮮や中国ではじゃんという発酵食品がありますけれど、日本で育った醤油や味噌とは異なるカビで造られているそうですよ。】

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