第31話 3ー17 候補者の育成

 ただいまヴィオラ(私)は、ヴァニスヒルの本宅裏手にある古い使用人寮に寝泊まりしています。

 そのようになるまでには、お父様やお母様、それにメイド長のカリンとも結構な一悶着もんちゃくがございましたけれど、種々説得を続けた結果、何とか納得してもらい、私のお付きのローナ以外に臨時メイド二人をつけてもらって、孤児院から引き抜いた七人の子供たちとヴィオラ(私)のお世話をしてもらうことになりました。


 この臨時メイドは、うちのメイドを務めていた方で、事情があって引退している人を引っ張り出しました。

 その辺の説得にも人任せにはしないで、ヴィオラ(私)が動きましたよ。


 臨時メイドを雇うための経費はヴィオラ(私)の貯金から出していますが、貯金額に比べると延べで0.1%にも満たない額でした。

 逆にそれ以上の額が毎月入ってきますから、私の貯蓄額は全然減らないんです。


 子供たちの住まいは屋敷の裏手にある使用人寮ですから、屋敷のヴィオラ(私)の部屋から通うこともできましたけれど、雇った子供たちの能力を高め、主従のきずなを高めるためには寝食を共にした合宿が必要と考えたのです。

 朝起きてから寝るまでの間にびっちりと鍛錬をし、教育しなければ、優秀な職人を早期に育成できないと思うからです。


 そうは言いながらも孤児院で育った子達のほとんどが、これまで十分な教育を受けているわけではありませんので、子供たちの年齢能力に合わせてヴィオラ(私)が先生代わりになって午前中は一般教養、午後は身体の鍛錬を含めた能力開発、夕食後は魔力錬成を行っています。

 ある意味でとってもスパルタなんですけれど、子供たちを早く一人前に仕上げるためにはやむを得ないことですよね。


 特に、ビルギットとカールについては、来年の年明けには一応の成人として職に就かねばならない年齢なのです。

 もちろん、ヴィオラ(私)の工房(名目上はエルグンド家の工房)の使用人として雇われた身分になりますから、新たに別の職に就く必要はありませんが、実績を残さないと周囲から見る目が厳しくなります。


 ある意味で単なるただ飯食らいの居候扱いでは困るのです。

 その意味でも今年中には何らかの成果を上げさせて、周囲の者にもその地位と能力を認めてもらうことが大事なんです。


 ディオーナ、ヘルマンそれにマティルダについては、ビルギットやカールに比べるとまだまだ時間的余裕がありますけれど、それでも周囲の貴族の目は厳しいのです。

 役にも立たない孤児を拾って一体何をする気だと、エルグンド家そのものがおとしめられる恐れもあるのです。


 いまだ幼いリンダとケヴィンンについても同様ですが、特にこの二人は、ヴィオラ(私)の後釜として、ロデアル領内の秘蔵職人の中心人物に早めに育ってもらわなければヴィオラ(私)が困ります

 そんなわけでヴィオラ(私)も一緒に古い寮で合宿生活なのです。


 子供たちの適性を伸ばしてあげるのが目的ですが、そのためにも魔力量を増やすのが第一の目標になります。

 ですから夜寝る前には魔力放出を行わせて、魔力を枯渇ぎりぎりまで使わせ、子供たちの魔力量を徐々に増やすのがヴィオラ(私)の重要な仕事なのです。


 魔力が完全に枯渇してしまうと命の危険性もあるということで、ルテナと相談しつつ、保有量の8%に達するまで魔力放出を続けさせています。

 3%程度まで残っていれば普通は大丈夫らしい(ルテナ言)のですけれど、余裕を見て8%にしたのです。


 この作業はルテナが居ないと正確な魔力量が見極められないし、ルテナの存在が他の者に知られてはなりません。

 ヴィオラ(私)もそれなりに魔力量の大小はある程度判別できますけれど、細かい見極めがこの作業には大事なんです。


 ヴィオラ(私)が幼少の頃(あれ、今でも幼少なのかな?)、一人で魔力の枯渇まで訓練ができたのは、あくまで私に神々の加護がついているチートな身体だからで、ほかの子に同じことをさせたなら、本当に死ぬかもしれないのです。

 他の者には任せられませんので、ヴィオラ(私)が一人一人について、その管理をするのです。


 ですからヴィオラ(私)が就寝するのは、一番遅くなりますね。

 ローナもそれに付き合うのでとっても気の毒なんですけれど、時間的には夜11刻(22時頃)までを目途にしていますから、目にクマができるほどの負担はかけていないはずです。


 時折、ローナを含めた使用人と子供たちの健康チェックをしていますが、今のところ、問題はないはずですよ。

 子供たちの魔力量の増大については、やはり年齢の少ないリンダとケビンの効率が良いようです。


 いずれにせよ、子供たちの育成に励んでいる間に長かった筈の冬休みも終わりに使づきました。

 あれ?


 冬休みって普通はしっかりと遊ぶはずなのに、今回に限って言えば、ヴィオラ(私)はずっと働き通しでした。

 うーん、このまま私が休みも取らずに働き続けるとブラックな工房になりそうなので、注意をすることにしましょう。


 ◇◇◇◇


 ロデアルでの最終日、お兄様とお姉様、それに私は馬車に乗って王都に向かいます。

 その後ろから、私の工房使用人が、少し大きめの8人乗りの馬車に乗ってついてきます。


 伯爵家の正式な馬車には、騎士四人がついて警護に当たりますけれど、後ろについてくる七人乗りの馬車には、冒険者ギルドで雇った冒険者五名が警護に当たっています。

 宿泊所も一緒ですので、子供たちが周囲から疎まれることはないはずです。


 世間では、貴族の従者がそれなりに優遇されるように、貴族の使用人は従者に次ぐ扱いを受けるのです。

 王都までは足掛け6日、馬車の改造を行ったおかげで、帰りの旅はとても快適でした。


 お兄様やお姉様が快適になった馬車の旅行を特に喜んでおり、お付きの従者達の反応もとっても良好です。

 今回、馬車の改造を進めてよかったなと思います。


 尤も、生理現象の対策については以前のままですね。

 一応ヴィオラ(私)達の乗る馬車には、特製の秘密トイレ(エルグンド家中でも知っている人は極めて限定されている)がついていますけれど、後続の8人乗りの馬車には付けていませんから時折、トイレ休憩が必要になったりするんです。


 警護についている騎士さんや冒険者達にも適宜の休息は必要ですからね。

 いずれにしろ、途中の町で五泊して六日目の午後早くには予定通り、王都別邸にたどり着くことができました。


 ヴィオラ(私)は、明日から寮に戻らねばなりませんが、できるだけ時間を見つけて毎日子供たちの能力アップを進めなければなりません。

 また、王都別邸の執事長にお願いして、当初から目をつけていた王都別邸近くの民家を借り受け、そこに子供たちを住まわせる計画を実行に移しました。


 実際に貸家に住むまでの間は王都別邸のお客扱いですね。

 そうしてロデアルからついてきてくれた子供たちの面倒を見てくれるメイド二人もそのまま、王都でも雇うことになりました。


 もう一つ貸家に女子供だけでは防犯上問題が残りますので、執事長にお願いして臨時の下男を住み込みで雇うことにしました。

 人柄については面接で、ヴィオラ(私)が直接確認しています。


 ある程度、子供達の生活が落ち着いたたなら、今度は王都の孤児院と郊外にあるスラム地区で有能な者がいないかを探す作業に入るつもりです。

 基本的に10歳以下の子を対象にするつもりですけれど、10歳以上の者でもその能力が高ければ、採用するつもりでいます。


 これはじっくりと進める必要があるので今年いっぱいを使って探すつもりでいますよ。

 というのも、ロデアルから連れてきた子供たちの教育訓練に意外と手間がかかるからなんです。


 ヴィオラ(私)の場合、日中はどうしても学業がありますので、夕刻後の比較的短い時間しか子供たちの教育訓練にあたれないのです。

 ヴィオラ(私)が寮から頻繁に外出をしていると、オンディーヌ寮の舎監をしているサマンサさんから疑惑の目を向けられてしまいますので、その目をそらすためにも、式紙を使っています。


 魔物騒ぎの際に成長した私の身体を操ったように、外出中はヴィオラ(私)の影武者になる式紙を寮内に置いているんです。

 パスがつながっているおかげで、ある程度の対人対応は無理なくできちゃいますから、これもチートですよね。


 貸家のほうも人数が多くなれば別の場所に移転も考えています。

 キャパ的には、子供達が今の倍の数になると、複数の子供を同じ部屋に入れても現状の貸家では無理が出そうです。


 いずれにしろ王立学院での毎日が始まりました。

 連れてきたヴィオラ(私)の工房の人材がうまく育ってくれればよいなぁと願っています。


 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 5月17日、整合性を持たせるために、「夏休み」を「冬休み」に訂正しました。

 

  By @Sakura-shougen

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