第23話 7ー9 遠足
今日は学院の遠足です。
但し、新入生と他の上級生では行く先が違います。
新入生は7歳児(前世で言うと9歳児相当の小学三年生か四年生?)ですから、とっても元気ではありますけれど左程体力が無いというのが常識です。
もっとも入学試験の際に身体強化の魔法を使いすぎてぶっ倒れちゃう子もいましたから、何気に体力自慢の子もいるんです。
ヴィオラ(私)は身体強化をせずに同級生で早い子(彼は身体強化を使ってました)と並んで走りましたから、体力的には多分かなりのものですね。
剣術の試験では、ちょっとやりすぎて、教える側の先生に勝ってしまいましたし・・・・。
普通の新入生にとっては、普段よりも少しだけ多めに歩く必要のある集団行動なのですが、この遠足は護衛が凄く多いのが特徴ですね。
ヴィオラ(私)を含めて、従貴族(上級爵位を有する者が爵位を与えた騎士爵等)以上の子女ばかりの集団ですので、万が一にでも子供たちに怪我をさせてはなりません。
ですから、学院に雇われた冒険者が新入生の人数だけいますし、王族も居ますので王宮騎士団からもわざわざ二個小隊が派遣されてくるんです。
勿論、子女の侍女等もついてきますので、新入生が36名なのにその同じ数の侍従や侍女が付き、更にその倍以上の護衛等がついて、総勢で148名という大所帯での遠足なんです。
目的地は、毎年恒例となっている王都郊外にあるセレミル記念公園です。
セレミルというのは、その昔、王都近郊で発生したスタンピードの際に、王都の危難を救った冒険者の英雄の名前だそうです。
セレミルは、自らの命を掛けて王都を守り切り、その結果として大怪我を負って亡くなってしまいましたが、その功績を称えて、戦場となった王都郊外の小高い丘に王家が慰霊碑と共に公園を造ったのです。
ですから公園の入り口には、セレミルの銅像が立っているんです。
この記念公園まではおよそ4リーグ(約6.9キロ)ほどありますから、7歳児の足だと2時間程度はかかりますね。
学院にも生徒を運ぶ馬車はあるのですけれど、この遠足は自分の足で歩いて王都近郊の自然を楽しむのがメインの目的ですから、新入生は思い思いのバッグを背負って、先生に引率されながらひたすら歩くのが今日の遠足なんです。
記念公園は丘陵地帯にはなるんですけれど、標高はせいぜい80
みんなしてワイワイと
前後左右には護衛の人たちがいっぱい居ますけれど、周囲の景色を眺めるのに邪魔にならないよういろいろ気を使っているようですよ。
王都の近郊でこんなに護衛が必要なの?と思っていたヴィオラ(私)でしたが、ある意味でフラグだったのでしょうか?
ヴィオラ(私)は、かなり手前で魔物の気配を感じ取っていましたけれど、護衛がいっぱいいますからね、取り敢えずは様子見です。
そうして、やがて前方で声が上がりました。
「ゴブリンが出た。」
護衛の人たちが前方に警戒を強めます。
でも、前方にばかり集中しないのは流石に行き届いていますね。
ゴブリン程度ならば、新入生でも楽々退治できる者が十人近くはいますけれど、集団で襲い掛かられると体力や魔力が持ちません。
ヴィオラ(私)ならば簡単に
ゴブリンの数はせいぜい二十匹程度でしたので、冒険者たちが簡単に討伐していました。
でも、その後が少し異常でした。
実は周囲にもっと多数の魔物が潜んでいたのです。
数にするとおよそ二百余り、ゴブリンはその中でも最弱クラスでした。
私の隣は、レーベン子爵家のファリエル嬢でしたけれど、私達より5列程前方、列の先頭から数えて3列目に第四王女が居ました。
魔物による包囲網の中心は、少し前よりの第四王女あたりになっているような気がします。
念のためルテナに相談すると、悪質な害意を感じるということでした。
ウーン、これは陰謀なんでしょうか?
魔物を使った襲撃というのは古くからあるんだそうです。
一つは魔物使いというテイマーが介在する場合、今一つは魔物を誘引するような魔導具若しくは香料を使う方法です。
でも今回は異臭はしませんから香料ではありません。
となると魔導具かテイマ―ですが、私の気配察知にテイマーが引っかからないのです。
今では間違いなく周辺5リーグ内の気配を感知できますから、不審者が居れば感知できるはずですけれど、それがありません。
となれば魔導具ですね。
ヴィオラ(私)はルテナにも協力してもらいながら発動している魔導具の魔力を感知することにしました。
そうして見つけたのは地中に埋められた魔導具のようです。
起動をどのように行ったものかはわかりませんが、私たちが通りかかった際に作動し始めたようです。
リモートでなければ、時限式でしょうか?
王都の門を出た時点を確認できれば、この周辺への到着時間に合わせて発動は可能ですね。
今新入生の隊列は止まっていますが、その隊列の略先頭付近の地中に魔道具がありそうです。
このため、騎士団や冒険者のリーダーの指示により、新入生36名は魔導具のある地点よりもわずかにずれた地域に集められ、そうして、その周囲を侍従や侍女が固め、さらにその外側に騎士団員や冒険者の半数以上が配置されて防護するようにしています。
5リーグ内の魔物には、オークやオーガなどの大きめの危険な魔物も居ますけれど、最も危険なのは、体長5m以上にもなるプレーリーバイパーでしょうか。
こいつはすごく動きが速いですし、体色を周囲の色に変化させるカメレオンのような能力を持っているんです。
ですから近づかれるまでなかなか気づかず、至近距離で存在に気づいた時は、一噛みであの世行きです。
冒険者でも上級の方でないと対処は難しいかもしれません。
ゴブリンとコボルトが合わせて百二十匹近く、オークが約40匹、オーガが約20匹でしょうかねぇ。
更に大型の魔物としてはバイコーンが10匹ほど・・・・。
そうして厄介なことに、ホルツビエナ30匹とプレーリーバイパーが12匹いますね。
ホルツビエナは体長が50センチ近くもある肉食蜂で、空を飛んで襲い掛かってきます。
非常に俊敏なので簡単には退治できません。
特に集団で多数に襲い掛かられると、慣れた冒険者でも逃げなければなりません。
別々の魔物が、普通こんなにまとまって行動することはありませんから、同じ種同士をまとめて隔離配置しておいて、魔導具の発動で一斉に動き出したとみるべきかもしれません。
そんなことが簡単にできるとは思えないのですけれどね。
前方の北北西からゴブリン集団、同じく北北東からコボルト集団、西南西方向からオークが、そうして東からオーガが向かってきます。
ホルツビエナは通常森の中に棲んでいますけれど、こちらは西側の森の中から今のところ動いてはいないようです。
プレーリーバイパーは東南東方面から接近中ですけれど、ゆっくり動いているのでオーガとの戦闘中に参戦すると厄介なことになります。
これが人為的な計画だとすればとんでもないことですよね。
下手をすると全員がこの郊外で死ぬことになります。
ルテナにその辺のことを探ってもらっていますが、すぐには分からないようです。
さてさてどうしましょう。
ヴィオラ(私)が介入するのは簡単なんですけれど、周囲に余り私の能力や実力を知られたくはありません。
特にロデアルやその周辺で使った魔法は、過去の出来事との類似が疑われてしまいますから使えませんよね。
そうして私自身もここからあまり離れられません。
ならばということで、幻影魔法を使うことにしました。
謎の仮面魔法使いの登場です。
「魔女っ子○○ちゃん」とかも一瞬考えたのですけれど、私とは年齢的に離れている方が良いと考え、少し年増のおばちゃんを創造しました。
派手なベネツィアンマスクで顔の半分を覆っているので、人相は分からないでしょう。
昔DVDで見たことのあるアメリカの女優さんの顔と容姿をお借りました。
うん、とってもボン、キュッ、ボンの女性らしい体型のおばさま(お姉様?)ですね。
余り姿も
幻影ですから実体は無いんですけれど、視覚で捉えられれば誰しも謎の魔法使いの存在を信じるでしょう。
魔法の発動は、ヴィオラ(私)が無詠唱でしますけれど、魔法自体の顕現は、幻影のおばさまの周囲で行わせます。
ですから余り遠いところでは使いにくいですね。
幻影で始末するのは、危なそうな奴から始末して行きます。
突進力ではピカ一のバイコーンは、光魔法のレイアローで瞬殺です。
オークの場合は、冒険者達の対応で大丈夫みたいだけれど、オーガは苦戦しそうなんで、こちらはファイアーボールで火だるまに・・・、と思ったんですけれど、青白いファイアーボールがすっ飛んでゆくとオーガの厚い胸板に穴をあけてしまいました。
そのために貫通したファイアーボールの後始末の消火作業がちょっと面倒でしたけれど、オーガの群れも一蹴ですね。
残りは最も危険なプレーリーバイパーですけれど、こちらはヤマアラシという地面から針が生える魔法でとどめを刺しました。
残りのゴブリン、コボルト、オークは、冒険者の皆さんと騎士団に任せても大丈夫でしょう。
必要があれば謎の仮面魔術師がお手伝いです。
オークの数が多かった所為(せい)か、少し苦戦気味でしたのでオークの半分は石礫で間引きしてあげました。
それから半時足らずで魔物は殲滅されました。
幸いにして、森の中のホルツビエナは、結局自分のテリトリーからは出てきませんでした。
最終的に、冒険者と騎士団のメンバーに若干の軽傷者が出ましたけれど、新入生たちは誰一人怪我することもなく、魔物は討伐されたのです。
◇◇◇◇
ところで、私たちの遠足は残念ながら中止になってしまいました。
謎の女魔法使いが出現して助けてくれたので全員が無事にいますが、仮に彼女が現れなければ、間違いなく苦戦を強いられていた筈です。
その後の調査の結果、バイコーン、オーガそれにプレーリーバイパーの死骸が見つかり、これらが健在であれば護衛の戦力が間違いなく不足したのです。
元々冒険者は中級以下の者が主体でした。
そもそも学院の遠足ごときに屈強の上級冒険者が付き合うことはありません。
従って、冒険者の護衛は、初心者を含めたお小遣い稼ぎの弱小勢力でした。
ゴブリン、コボルトなら何とかあしらえるけれど、オークでさえ苦戦する者もいたはずなのです。
この後王都では謎の仮面魔術師がたいそう評判になりました。
そうしてルテナの情報収集能力で、今回の一件の実行行為者が判明しました。
さてさて、この犯人達については放置しておくと第二、第三の犯罪を犯す恐れもありそうなので、このまま何もしないというわけにも行きませんけれど、処分をどうしましょうかねぇ。
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