第三章 学院生活編

第15話 3ー1 王都への旅と入学時のテスト

 ついにヴィオラ(私)が王都へ旅立つ日がやってきました。

 馬車一台に警護の騎士4名がついて王都へ行きます。


 お供はローナで、学院に在学中は彼女が専属のメイドとして寮にも入れるのです。

 お父様の王都別邸があるので短い休みには別邸を訪ねることもでき、長期休暇に入ればお兄様やお姉さまとご一緒に、家に帰省することができます。


 王都レリーダまでは馬車の旅で四日ほどかかります。

 途中の町で三泊はしなければなりません。


 それらの手配は一緒についてきている執事のセブリアンが行ってくれており、彼は王都別邸まで同行し、ヴィオラ(私)の入寮後、戻ることになっているんです。

 旅の間は特段に変わったことはありませんでした。


 山賊なんかの襲撃もありませんでしたし、ヴィオラ(私)に関わるようなおかしな事件にも遭遇しませんでした。

 その意味では平穏な旅でしたね。


 ゴトゴトと揺れる馬車は、貴族の乗り物なんですけれど、決して乗り心地の良い物じゃありません。

 上下動の度にお尻が痛くなります。


 仕方がないので、座布団を作り出し、私の分だけでは他の人が可愛そうなので、馬車に乗っている人に渡してあげました。

 勿論、御者さんにもですよ。


 実際にはその辺にある植物から素材を得て、柔らかなクッションの座布団を作ったのですけれど、そうは見えないように、私の荷物の中から折りたたんだ状態で取り出しました。

 それを魔法でちょっと膨らませるのは左程不思議なことではないのです。


 尤も、執事のセブリアンはちょっと首を傾げていましたけれど、何も言いませんでしたので良しとしておきましょうね。

 馬車での旅は風景が次々と変わるので面白いんです。


 ヴィオラ(私)も領都の中を少しは歩きましたけれど、その外となると数えるほどしか出ていませんから、見るもの全てが目新しいんです。

 前世では外出なんて小学四年生までの経験しかありませんしね。


 ヴィオラ(私)は、本当に異世界の風景を楽しんでいました。

 宿も同じですね。


 当然に、宿の建物の造りも違うし、そこでの過ごし方の慣習もお屋敷とは違います。

 従業員たちの応対もすごく新鮮でした。


 多分、貴族専用の宿なので、しつけや接客教育がしっかりとなされているのです。

 庶民の宿はどうなのか一度見ておく必要があるかもと思い、スパイ・インセクトを数体放ちました。


 宿屋と思しき建物に侵入して内部情報を探るのです。

 おかしなものは見つけませんでしたが、ちょっと嫌なものは見てしまいました。


 宿の一室で悪だくみをしている男が四人です。

 男たちは今夜この町の商家を襲う算段をしていました。


 どうやら商家に住み込んでいる見習いが手引き役で、深夜に侵入、家人は皆殺しにして、蔵の金品を奪おうとしているようです。

 私にもお父様の領地にも関わりがあるわけじゃありません。


 でも放置しておくと、いつかお父様の領地で同じようなことをしでかしそうな奴らなのです。

 だって家人皆殺しって、狙っている商家には幼い子供もいるんですよ。


 ヴィオラ(私)としては、絶対に放置できません。

 ここは姿無き盗賊改方とうぞくあらためかたになって、取り締まりましょう。


 但し、ヴィオラ(私)は、旅の途中ですからこの町に長居できませんし、こんな奴らを捕縛しただけで放置するのも問題です。

 従って、ここは○▽◇残酷史に記録となっても仕方ありません。


 盗賊達は容赦なく成敗なのです。

 その夜、出撃時刻になっても盗賊達は全員部屋から出て来ませんでした。


 そうして狙われた商家でも変事がありました。

 一月前に雇われたばかりの下働きの男が、玄関につながる土間で死んでいたのです。


 商家の家人が朝起きて見つけたもので、何故に彼がこの土間で倒れていたのかを説明できる者はいませんでした。

 外傷は一切なく、いきなりそこに崩れ落ちたような格好でしたし、外傷は一切なかったので、役人は病による急死と判断しました。


 この世界では脳梗塞や心筋梗塞なんて病名は知らずとも、今まで元気な人が突然死んでしまうことがあるのは良く知られているのです。

 従って、貴族の宿に泊まっていたヴィオラ(私)の一行にその疑いがかかることは一切ありませんでした。


 一方の安宿に泊まっていた四人の死体は昼頃になって、宿の使用人によって発見され、大騒ぎになりました。

 こちらにも外傷は一切なく死因が怪しまれましたが、何者かによる殺人という証拠もなく、うやむやに終わるところでした。


 しかしながら、役人の一人が盗賊の腕に彫られた刺青を見て、古い手配書にあったものと同一と看破し、その背後関係が調べられ、彼ら四人が盗賊の一味だったと判断はされましたが、それ以上の調査も難しく、四人の不審死はそのまま記録の中に埋もれることになりました。

 ヴィオラ(私)が、無理に関わってしまった案件はこれだけですが、まぁまぁ、平穏な旅と言えると思います。


 ヴィオラ(私)達は、予定通り七日目には王都に到着しました。

 宿泊先は、お父様の所有する王都別邸です。


 この王都別邸は、お父様やお母様が王都に参上された際に宿泊所となりますし、王都別邸の執事やメイド長が王都の商人達との商談に使う場所でもあります。

 お父様は、一年に一度、二ヶ月から三ヶ月ほど王都に滞在されます。



 主として王家へのご挨拶を兼ねて、領内の様子の報告や宰相等王宮幹部との打ち合わせが主であり、手紙では合議できない事項を色々と話し合われるようです。

 その際は、子供達全員が学院に行ったので子育てが無くなったお母様も同行されて、王都での舞踏会などを通じて他の貴族との親交を深めることになるのです。


 因みにその折には、エルグンド家でも最低二回は舞踏会を別邸で催さなければならず、王都への旅費とともに伯爵としての面子を保つために色々と物入りなのだそうですよ。

 貴族って、面倒ですよねぇ。


 ヴィオラ(私)はまだ幼いですけれど、貴族の子女としての教育は様々に受けてきました。

 その中でも舞踏や礼儀作法は必須のものなんだそうですよ。


 特定のエスコート役は居ないのですけれど、舞踏に必要な五つのステップの型ならば完璧に覚えていますよ。

 未だ実践はありませんけれど、華麗に踊る自信はございます。


 ともあれ、王都別邸に到着した私ですが、二日後まではこの別邸で待機です。

 本当は王都の観光もしてみたいのですけれど、お父様とお母様にはしっかりと止められていますのでできません。


 仕方がないので、もっぱら王都別邸では、朝の体操を行って、馬車の旅で委縮した筋肉をほぐし、午前中に王都別邸にある書籍・資料を読み漁り、午後はお庭で体力づくりを兼ねた魔力操作の練習です。

 魔力操作は、普通の人が見てもわかりませんが、見る人が見れば魔力の大きさやその質などが判るそうですけれど、ヴィオラ(私)の隠ぺい魔法で全てを隠していますので、王宮の魔法師であっても見極められないと思います。


 王都別邸で過ごしている間に別邸の使用人たちの顔と名前もしっかりと覚えました。

 ヴィオラ(私)の鑑定で見る限り、胡乱うろんな人は居ません。


 皆さん生真面目な方ばかりです。

 物知りなルテナ曰く、王都別邸は他の貴族との関りが多い場所でもあるので、どこの貴族の別邸でも特に優秀な使用人が多いそうです。


 ◇◇◇◇


 そうして二日後、ヴィオラ(私)は王都別邸の執事ブキャナンと一緒にメイドのローナを引き連れて、王立学院へ向かいました。

 もちろん馬車での移動です。


 今日は入学式であると同時に、新入生の現在の力量を図るテストも行われるのです。

 そのテストの結果でクラス分けがなされるとも聞いています。


 因みにクリスデル兄様は、この期末試験で引き続きAクラス、グロリア姉さまも同じくAクラスだったようですので、ヴィオラ(私)もAクラスを目指すことにいたしましょう。

 ルテナ曰く、張り切るのはいいけれどやり過ぎないようにだそうです。


 ウーン、じゃぁ、二番手を目指しましょうねと言っておきました。

 最初はブキャナンの案内で、入学の手続きです。


 ブキャナンが書面に必要事項を記載し、ヴィオラ(私)がその書面に掌紋で試験員の目の前で魔力を流せば手続き完了です。

 別にブキャナンがやらなくてもヴィオラ(私)が全部を記載できますけれどね。


 ここでは一緒についてきた使用人が記載するのが慣例となっているようです。

 次いで案内されたのは、まるで懺悔ざんげ室のような個室です。


 中に入るのはヴィオラ(私)一人です。

 そうして中にある試験問題に目を通して回答を書き入れるのです。


 問題は至って初歩的なものばかりです。

 前世の小学校程度の国語、算数、社会それに礼儀作法の常識的な問題ばかりです。


 社会については、地理と歴史がありますので、普段から書物に親しんでいなければ難しいかもしれませんね。

 私にとっては、簡単な問題ばかりでしたので、すぐに書き終わりました。


 終ったら、入ってきたドアを叩いてくださいと言われていたので三回ノックすると開けてくれました。

 座学の試験は終了です。


 多分、満点だと思います。

 だって、分からない問題は無かったですもの。


 でもルテナに指摘されました。


「出てくるのが早過ぎたようです。」


 え?

 何で?


 あんな問題で時間が取られる方がおかしくない?

 ルテナ曰く、ヴィオラ(私)が個室に入って、八つ半時(概ね15分?)ぐらいしか経っていないとのこと。


 でも過去の新入生の座学試験で、そんなに早く出て来た者は居ないそうです。

 そもそも、この王立学院では出自により大きく三つの階級に分けています。


 上級が公爵、侯爵の二つ、中級が辺境伯と伯爵の二つ、下級が子爵、男爵及びその他です。

 実は先ほど行った登録の順番は、下級から上級の順で行われ、ヴィオラ(私)の順番も予め伝えられていて、その時間に間に合うよう学院に着いたようです。


 中級ではヴィオラ(私)ともう二人いて、上級は三人だけだそうです。

 座学試験については、ヴィオラ(私)が始める前に、下級の子息令嬢が既に始めていたようですが、まだ誰も終わってはいないようです。


 勿論、ヴィオラ(私)とほぼ同時期に入った二人、それに私の後で入ったであろう三人も未だ個室の中らしいのです。

 因みにあの個室はカンニング防止のための魔法がかかっているために、外部からの通信が一切できないような造りになっているんだそうで、ルテナも敢えて中を覗いたりしていないので状況は不明だそうです。


 因みに過去最速は四半時余り(30分より少し長い程度)の記録だったらしいので、仮に満点であれば二番手どころか歴代一位になってしまいそうですね。

 ヴィオラ(私)は、係員の案内で、次のテスト会場に連れて行かれました。

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