instrumental

噂のはちみつ

第1話

 この世界から、声が消えつつある。


 僕たちは、もうすぐ話すことも、歌うこともできなくなる。


 あなたなら、どうする?



「明日、声がなくなります、だって。」


「なにそれ。」


「なんか封筒が届いてさ、開けたらこれだよ。」


「誰のいたずら?気色悪い…」


 少なくとも、デマであることには間違いない、と思った。だって、現実的に不可能じゃないか。声がなくなるとしたら、人間が一斉に喉が潰れるぐらいしか考えられない。


「どうする?」


「何が?」


「本当に明日から声出なくなったら。」


「ないない。現実的に不可能。」


 適当にあしらった僕の目を見て、妻は不服そうに頬を膨らませた。



 <翌日>


 良い目覚めだ。


「…」


 僕はダイニングへ行って、おはようの挨拶をする。キッチンでは妻が朝ごはんを作ってくれているのが分かった。聞こえてないのかな…


 僕は妻を抱きしめて、良い感じにおはようの挨拶をする。


「…」


「…!」


 …あれ。


 驚いたように振り返った妻だが、何も言わずに卵をかき混ぜる作業に戻ってしまった。聞こえてない…?いや、そんなわけないはずだ。耳元で「…」って言ったはず。



 不意に昨日の手紙を思い出した。まさか…

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