第18話
「あの話し方だと、なにか奥の手でもありそうだったね」
話を終えた『加護を授かりし者たち』のメンバーは食堂から移っていた。
「そうだな。まだ何か隠していることはあるだろうな」
マットを殺されたうえで、武器も取り上げられている『加護を授かりし者たち』が、武装している『SSS』に対抗するつもりだとあれだけはっきりと表明していたことから、得体の知れなさは確かにある。
「あのメンバーで強そうな人とかいる?」
里莉は大介に『加護を授かりし者たち』の中で実は格闘技とかできる人物がいるのではないかと聞いてみる。大介は対人戦闘にも長けているため、だいたいその人の事を見れば、その人の強さが分かる。
「いや、そんな脅威になりそうな人はいないと思うな。だから武器を隠し持っているとかじゃないのか?」
「そっか。それじゃあ『SSS』のメンバーはどうなの?25番の射撃の腕は結構すごかったみたいだけど、他のメンバーも戦闘慣れとかしてるのかな」
「25番はかなり戦闘に慣れてるだろうな。ここ二、三年の感じじゃなくて、怪物が現れるようになる前から、なにかしら軍隊とか部隊にいたような気がする」
「他のメンバーは?」
「107番はそれなりに銃器の扱いにも慣れているだろうけど、ここ一年ほど訓練してそうなったっていう感じだな。他の308番から314番までの奴らに関してはもう素人同然だな」
と割と辛辣な意見を述べる大介。
「それじゃあ『加護を授かりし者たち』と『SSS』が戦闘になったらどうなるかまだ分からない?」
「ああ。『加護を授かりし者たち』の奥の手がどんなものかにもよるし、『SSS』の方も何か隠しているかもな。特にあの25番。特殊体質の人間がいる中で、あの余裕は何かあると勘繰るな」
「そっか。一応注意は必要ってことかな」
「で、俺たちはどうするつもりなんだ?」
どちらのグループにも属さない里莉たちは、戦闘が始まったらどうするのかは決めておきたい大介が里莉に聞く。
「まあ私たちも明日にはここを出たいから、それなりに準備はしなくちゃね」
「……ってことは、当初の目的だったここで何があったのかはもう分かったのか?」
少し驚く大介。
「大体のところはね。あとはちょっと確かめてみたいことがあるから、それを確かめてからかな。あ、私が言ってたものは見つかった?」
里莉は25番たちと共にD棟から出る前に大介にあることをお願いしていた。
「ああ、あるぞ」
「たぶん『加護を授かりし者たち』の人たちが動き出すのは朝のあの時間だろうから、私たちもその時間になったら動き出そうか」
と、里莉は笑みを浮かべてそう言った。
『SSS』のメンバーはD棟内をうろつくことはせず、25番の言葉通り自由に行動させていた。が、それが『SSS』の余裕さを感じ、どこか不気味な印象も受ける。
『SSS』のメンバーは一階の出入り口の前に一人、そしてD棟の建物周辺を巡回する二人がおり、屋上には簡易的な拠点を広げ何人かがそこで休憩や屋上から出てくる人物がいないかを見張っていた。
深夜。『加護を授かりし者たち』の七人はひそかに準備を始めていた。
「それで、どうするんですか?」
「行動を開始するのは明日の朝七時です。まずこの建物から出ることを優先させます。その後、二手に別れ、一方は壁の外に出て、一方は大学のこの建物を占拠し返します」
「なんで七時なんですか?もっと早い時間とかの方が空いても油断してるんじゃ?」
誠太が疑問を呈する。
「朝の七時から二時間、霧の出る時間に乗じて行動します」
「あ、そういえばそうでした」
「里莉さんが言うには二日連続で同時刻に非常に濃い霧が発生しているそうで、おそらく持続的天変地異がここで起こるのでしょう。その霧の中であれば、遠くからの狙撃も防げるかと」
「もしその霧が発生しなかったら?」
忠志が疑問を投げかける。
「その際はまた別の手で行きますが、結局はこの建物から脱出することには変わりありません。そして、相手の戦力をできるだけ分散させることを目標にします。たとえ武器を持っていたとしても、相手が一人であればどうにか出来る可能性が高くなりますから」
「でもどうやって?こっちが元々持っていた武器は取り上げられたし、四階の部屋にあった銃器は一つ残らず回収されていたじゃないか。強いて言うなら調理場にある包丁だろうけど、そんなんじゃ銃もった相手に対抗できないだろ」
そんな冬華に対し、浩文が水を差す。
「ですので、こちらを使います」
冬華は『SSS』に没収されなかった荷物の中から、水筒と見られるものを何本か取り出す。ふたを開け、飲み口の部分をいじると、小型の銃のような形に変形した。
「な、なんですか、それ?」
初見だったのか、誠太が目を丸くして尋ねる。
「電撃銃、というようなものでしょうか。殺傷能力はありませんが、当たれば気を失うくらいの威力はあります」
「どのくらい遠くから狙えるんだい?」
邦弘は興味津々といった感じで横から覗き込む。
「そうですね……十メートルほどからでも狙えるそうです。多少狙いが離れていたとしても、有効範囲は広いので、正確に当てる必要もありません」
「……そんな武器があるのになぜ今まで黙っていたんですか?」
浩文が冬華の方に詰め寄るように尋ねる。
「すいません。これを使用するのは最終手段でもあったからです。もう少し説明しておきますと、この電撃銃は本部の仲間の能力が付与された道具なんです。ですので、そんな気軽に使用できるものでもないということを理解してください」
冬華は申し訳なさそうにして頭を下げる。
「……まあ、とにかく、全員分はないから、誰が持つかを考えた方がいいわね」
真里が空気を変えるように提案する。冬華が取り出したのは電撃銃は全部で五つだった。
「そうですね。まず、二手に分かれる予定ですが、晶子さん、誠太さん、浩文さん、忠志さんの四人は、壁の外に向かうグループ、私、真里さん、邦弘さんはふたたび大学内へ侵入し、『SSS』からここを取りかえすグループとしようと思っていますが……よろしいでしょうか」
残り六人は特に反論することなくうなずいた。そして武器に関しては、邦弘、晶子、浩文、忠志、誠太の五人が持つことに。
「それで、どうやってここから脱出を?」
「はい。普通に一階の扉からです。霧が発生した直後、おそらく『SSS』の面々は少し驚くと思います。その直後くらいに扉付近にいる見張りの人を無力化し、そこから出ます。そして、その無力化した見張りの人から可能であれば武器も奪いましょう」
人数分足りない武器に関しては、『SSS』から奪う算段であるらしい。
「あの里莉ちゃんたちはどうするの?そもそも流れに身を任せるっていう感じだったけど」
真里はふと気になったことを冬華に尋ねる。
「それは私たちがここを奪い返したらどうするか、ということですか?」
「うん」
「そうですね。あの方たちの言葉を信用するなら、自分たちの目的が終わればここを離れるということですので、特に私たちから何かすることはしないつもりです。一応、私たちの仲間になるつもりがあるかは聞きましたが、断られました」
「怪しいと言えば怪しいんじゃ?どっかうさん臭い気もするけどな。もしかしたらっ『SSS』と実は仲間かもしれないぜ。俺たちをはめるために」
と疑わし気な目をしている浩文。
「それは……どうでしょうか。確かに、どこか得体のしれない部分もあるかとは思いますが、こちらから何かをする必要はないかと。もし万が一、私たちに危害を加えようとした場合には別ですけれど」
「それで、奥の手って武器だけなんですか?他にもあったりするんですか?」
誠太が手を挙げて冬華におずおずと聞く。
「はい、もう一つあります。それは———」
冬華はさらに声のボリュームを落として六人にだけ聞こえるように話す。
翌朝。仮眠を取っていた25番が目を覚ますと、時刻は六時を回っていた。
目を覚ました25番は107番を呼び寄せ、指示を出す。
「全員、よく聞け。おそらく加護のやつらが昼までに動き出す可能性が高い。だから、今まで以上に注意するようにしろ。それと、A棟、B棟、C棟、の入口にそれぞれ罠を仕掛けておけ」
「罠、ですか」
「ああ。捕縛ネットを使ったものをそれぞれ扉を入ってすぐの場所にだ」
「分かりました。……それで、実際に加護のメンバーに動きがあったらどうすればいいのでしょうか」
「極力殺すな。あのマットっていう男は隠れ特殊体質の人間だったから、早々に手を打つつもりだったから殺したが、他の人間は出来る限り生かしておきたい。特に女性陣はな」
「分かりました。それで、あの里莉といった女のいるグループはどうしますか」
「あいつらか。あいつらは正直言って敵対してきそうな感じはしないけどな。ただ、やはりあの女の能力が確定していないし、大介っていう男も只者じゃないだろうから、不気味ではあるな。とりあえず、そいつらも対応としては加護の奴らと同じく、何かあれば捕らえると考えるくらいでいい。ただし、深追いはするな。あの女の能力が分からない以上、もし何かあれば俺が対応する」
25番から指示を受けた107番は、他のメンバーに指示を伝えに行った。
朝七時を回る直前。
309番は銃を持ち、D棟一階の扉の前に立っていた。先ほど107番からA棟、B棟、C棟の三つの入口に罠を設置したことを聞いていた。そして、昼までに『加護を授かりし者たち』のメンバーに動きがあることを聞き、より一層注意するように伝えられていた。
時間的にはD棟にいるメンバーも起きて活動をしていく時間だが、不自然なほどの静寂に包まれている。
ギィ、と扉が開いた。
309番は慌てて銃を構え、扉の方へと向ける。しかし、扉の向こうには誰の姿も見えなかった。
「誰だ?」
309番は声をかけるが、もちろん返答はなかった。建物の造り的に、扉を開けた人間が急いで隠れるような場所はないはずだが、誰一人見当たらないことに309番は不安になった。
309番はゆっくりと扉の中に入ろうとする。
が、次の瞬間、309番の体は何かに吹き飛ばされた。
何かが吹き飛び倒れるような音に気づいた25番はすぐさま屋上から下を覗き込む。しかし、濃い霧のせいで地上の様子を見ることが出来なかった。
「な、なんですかこれ。めちゃくちゃ霧がすごいですけど」
後ろにいた308番が慌てる。気づけば、数メートル先ですら見えないような霧に包まれていた。
「おい、309番聞こえるか?応答しろ」
一階の入口で見張りに立っているはずの309番に連絡するが、反応はなかった。
「そうか。やつらこれを待っていたのか」
25番は大きな舌打ちをする。
「全員聞け。各自まずは周りに注意しろ。加護の奴らが建物から出てくるだろうが、まずは追いかけなくていい。車の近くで待機している313番と314番は、壁の穴を死守しろ。誰一人通すな。そして、107番と311番、312番も壁の出入り口の方へ向かえ。合流したらまた連絡しろ。残りのメンバーはまずは俺についてくるように。もちろん、あの里莉とかいう女のグループも同じだが、あいつは特殊体質の人間だから十二分に気をつけろ。最悪俺にどこにいるのかを連絡すればいい」
イラついた様子ではあったが、25番の判断は早かった。そして指示を受けた他の『SSS』のメンバーもすぐさま行動に移る。
「よし、まずはこの建物に誰か残ってないか確認してから降りるぞ」
25番は一緒に居た308番と310番を引き連れ、屋上からD棟の中に入る。このとき、屋上へと続く扉には、『SSS』しか開けられない鍵のついたチェーンをつけ、出入りできないようにする。
25番たちは順々に部屋の中を見ていくが、人の気配は全くなかった。二階には『加護を授かりし者たち』の荷物が残っていたが、もちろん誰一人としていなかった。そして一階の食堂には里莉たちの荷物があったが、こちらも誰一人として残っていなかった。
「里莉の方のグループも一緒に逃げたんでしょうか」
「かもな。少なくともD棟の中には誰も隠れていなかったみたいだからな。あいつらが結託したのか、加護のやつらに便乗して逃げたのかは分からないけどな」
少し考えこんだ後、25番は残る二人を引き連れD棟から出る。D棟から出る時、扉に小型の爆弾を仕掛ける。
「万が一奴らが戻ってきたときのために爆弾を仕掛けておいた。扉を開いたら爆破するから注意するように。もし建物に入るときは俺に連絡しろ。遠隔でその時だけ解除するから」
トランシーバーにて残りのメンバーに伝える。
地上に出た25番立ちはゆっくりと進んでいく。すると、一階の扉から数メートル離れた場所に倒れていた309番を見つけた。
「おい、しっかりしろ」
倒れた309番に25番が声をかけ、肩をゆする。309番は気を失っているだけで、多いな怪我をしていなかったようで、すぐに意識を取り戻した。
「……う、す、すいません……」
「何があった?」
「は、はい、見張りで立っていたら、扉が急に開きまして。だけど誰もいなくて、不審に思ってたら急に何かに突き飛ばされたんです。そしたら、何か電流が体に流れて気を失いました」
「そうか……」
25番は怒る訳でもなく、冷静に309番の話を聞いている。309番を見ると、持っていたはずの銃が奪われていた。また、仲間内で連絡をとるトランシーバーも奪われていることに気がついた。
「す、すいません、武器を奪われたみたいで……」
「いや、いい。それに、それが無くても奴ら何かしらの武器を持ってるみたいだからな。それにトランシーバーの方は奪われたとしても対策済みだからな」
そういうと25番は309番に余分に持ってきていた銃を渡す。
「とりあえず、俺たちは逃げたやつらを拘束していくからついてこい。周り見たら分かると思うが、霧が深いから注意するように。とりあえず、加護の奴らが逃げた方に向かうか」
そう伝えると、25番は308番、309番、310番を引き連れ、霧の中を進んでいった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます