終末の世界で探偵は

安茂里茂

プロローグ

 それがどこから現れたのか、今となっては分からない。ただ、確実に言えるのは、それらは着実に人類を襲い、その数を減らしていったということだった。

 とある個体は灰色の毛に覆われた巨大な狼のような怪物だったり、とある個体は何十本もの足を持つ巨大なムカデのような怪物だったり、とある個体は何本もの触手を持ち、ズルズルと地上を移動する蛸やクラゲを掛け合わせたような怪物だったりした。

 その見た目は千差万別であったが、どの怪物も醜悪で見る人に不快感を与えることは共通していた。そしてどの怪物も人類を襲うということも共通していた。

 怪物が現れた一年後には、日本はその国家としての機能を失っていた。他の国も同じく壊滅状態になったと言われているが、通信施設の破壊などによってそういった情報も真偽を確かめるすべがなくなっていた。

 もちろん、人類は怪物に対抗するために様々な行動を起こした。軍は持ちうる力を出し切り怪物に対抗していったが、その健闘もむなしく壊滅状態となり、それに続くようにして政府組織も影も見当たらないようになってしまった。

 さらに人類が数を減らしていく要因は怪物だけではなかった。科学的に説明のつかない事象が数多く起こるようになったことも挙げられる。どんな天気であっても同じ時間になると大雨が降る土地。一年中雪が降り続ける土地。火山でも何でもない場所からマグマが吹き出す。こうした天変地異によっても人類は大きな影響を受けていった。

 そんな怪物が現れてから、人類の方にもそれまでの科学では説明のつかない事象が数多く発見されることとなった。

 “特殊体質”を持った人間の発現である。

 空中浮遊ができる能力や、瞬間移動の能力といった科学では説明のつかない、魔法のような力、能力を扱える人間が出てきたのである。

 “特殊体質”の表れる人間の年齢、性別、人種など特にこれと言った共通点が見つからなかったが、一つ言えることは、どの“特殊体質”の人間にも、左手の甲に模様が出現する、ということである。もちろん、そうした人間の研究はすぐさま行われていたとみられるが、人類が滅んでいく中、そうした調査がきちんと行えたはずもなく、多くの謎を残したまま今に至っている。

 しかし、その“特殊体質”の人間のおかげもあってか、人類はいまだ完璧には滅んでいない。国家機能の崩壊してしまった日本においても、人びとは大小さまざまなコミュニティを作りながら生きている。能力を使って怪物を撃退、退治したり、能力を使って崩壊してしまった施設を復活させたり。様々な形で“特殊体質”を持った人々が活躍していくことから、“特殊体質”というのは、怪物という存在に対抗しうるために、神から力を授けられた結果である、という人もいるくらいだ。

 そうした要因もあって、当初に比べて人類の減少スピードは落ちていったものの、着実に滅亡へと進んでいく世界の中で人々は生きているのであった。

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