砂上に紅き陽は昇る

灰崎千尋

第1話

 そらあお、地には黄金。

 乾いた風が描く砂紋はひと時も留められることがなく、照りつける陽射しに砂粒がきらめく。一面の砂漠の上には、白茶けた草がまばらに揺れているばかり。

 ひときわ高い砂の丘、その尾根を歩く少女がいた。深いすす色のローブを頭から被り、裾からは褐色の肌がのぞいている。一人きり、まっさらな砂の上に落ちていく跡は小さいが、足取りは軽やかである。

 その時、ピューイと高く鳥の声が響いた。

 少女は顔を上げ、声のした方角を探す。見れば、少女の少し先の空に一羽の鷹が旋回していた。


「おや、ヌイが何か見つけたか」


 そう呟くと、少女は足を速めて砂丘を滑るように下った。鷹の落とす影に近づいていくと、砂の中から人間の白い手が力なく伸びている。

 少女はその手に駆け寄った。軽く砂を掘り、手首を握ってみる。弱々しいが、確かに脈はあった。少女は急いで辺りの砂を掻き出し、その手の主をぐいと引き抜いた。青白くなった顔は幼く、金色の髪が重くかぶさっている。少女が頬をはたいてみたが、反応は無い。ぐったりとした体を横たえると、少女は白い顎を持ち上げてそのまま躊躇いなく口付けた。ふうっと息を吹き込む。胸に耳を当てる。それを何度か繰り返す。それから相手の顔が横になるようにごろりと転がして、背を続けざまに強く叩いた。するとケホッと小さく砂を吐き出し、呼吸が僅かに深くなった。それを確認した少女は胸を撫でおろし、いつの間にかそばへ降り立っていた鷹の頭を軽く掻いてやった。


「お手柄だ、ヌイ。しかしどうしたものかな」


 少女はふむ、と少し考え込んだ後、煤色のローブをたくし上げて脱いだ。それを、未だ意識のない相手の頭を覆うように被せると、その腕を自らの肩に絡ませる。足を持って背負おうとしたがうまくいかず、やむなく下半身をひきずることにした。


「許せ。私は駆竜ヤントを持っていないんだ」


 ピューイ、と鳴いた鷹がまた羽ばたいて、少女を先導するように飛ぶ。少女は今や、ほとんど肌着のような軽装だった。砂の上に、一人分の足跡とよろよろと引きずった奇妙なすじが続いていく。ローブのフードに隠れていた少女の双眸そうぼうはぎらりと金色に輝いて、その肌には一粒の汗も浮かんではいなかった。その代わりとばかりに、小さな赤い石が額で不思議な光を放っていた。

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