最強猫勇者ゴマ、カードバトルでも最強になる。〜難破して目が覚めたらカードでしか闘えませんでした〜

無頼 チャイ

きっかけの出航

「マグロだ! マグロを取るぞ!」


「兄ちゃん! マグロなんてそう簡単に取れないよ!」


 陽は爛々と光り、白波を打つ海はいたって穏やかだった。ニャンバラ港を出航した三匹の猫は、ゴマの漁業を手伝う名目で海へと出陣を果たしていた。

 内情を話すなら、とある一匹の猫が、「マグロを腹いっぱい食うにはどうすればいい」という悩みから始まった。そこからの答えと行動は早く、すなわち、「海に出て好きなだけ釣ればいいじゃねぇか」という単純明快な行動を、ニャンバラを救った勇者、という肩書の威光と、文句あるなら肉体言語で語り合ってやる、という半脅し文句で船を借り実現させた。

 ではその一匹に着いて来た二匹の事情というのは、


「兄ちゃんはすぐ暴走するんだから! 早く帰ろうよ。それに、魚群探知機とか使い方分からないから、どこにマグロがいるかなんて分かりっこないよ」


「そうだぞゴマ君。たまたま港の騒動を聞き付けてやってきたから良いものの、私がいなかったら喧嘩沙汰になっていたぞ」


「フン、結局船を貸してくれてるんだからどうでもいいじゃねぇかそんなこと。それにルナよ、ソールさんのおかげで船はちゃんと運転出来てるんだ、結果オーライってやつじゃねえか」


「ちっとも良くないよ! もし壊したりしたら許さないって、港の人に釘刺されてるんだよ!」


「ニャハッハ! 大船に乗った気持ちでいろよ!」


 船首で腕を組むゴマ、その足元を掴んで文句を言うルナ、操縦席でマニュアルを読みながら安全に航海をするソール。

 騒ぎはしつつも、広い海へと進出を果たしつつあった。


「あ? 何だあれ?」


「兄ちゃんどうしたの?」


「何か、分厚い雲が急に湧いて来てな」


 空に、分厚い黒い雲が広がりつつあった。すると、ゴマ達の後ろから鋭く警戒した声が発せられる。


「不味い! あれはきっと積乱雲だ!」


「積乱雲ってなんですか?」


「美味いのか?」


「巻き込まれたら命はないかもしれない!」


 ソールが船体を急転回させる、なんとか船は来た道を辿る。

 しかし、自然の脅威はそんなものでは振り払うことなど出来ない。


「どうしよう兄ちゃん!!」


「ハッ、んなの決まってるだろ!」


 ゴマの前足が胸の前に掲げられる。


「聖なる星の光よ、」


 淡い紫の光源がゴマの前足で脈打つ、波紋となってゴマの全身を駆け巡り、かざした前足へと収束する。

 そして、


「我に、愛の力を!」


 力強い波動の息吹がゴマを覆った。

 巻き上がる波動はゴマの身体に纏い、厚く力強い鎧の形に象った。


「暁闇の勇者、ゴマ!」


 黒と紫の色調が印象的な鎧を装着したゴマは、顕現した剣、魔剣ニャインライヴを手にし、ホームランを宣言する野球選手の如く掲げ、不敵に笑った。


「ぶった斬ってやりゃあ!」


 船首が深く沈み、その後跳ね返る。船体に大きな揺れが起きて乗組員はあたふたとするが、「オラァ!」という声が上空でして、二匹の猫は目を上空に向けた。


 分厚くとぐろを巻く積乱雲に、果敢に迫る猫。

 それは風車に突撃を試みるドン・キホーテの絵姿を思わせるようだった。

 背に刀身を回し、柄を両手で握る。力任せなゴマらしい戦闘体勢。


「兄ちゃん! 無茶だって! 自然には勝てないよ!」


「船に戻ってくるんだ! 危ないぞ!」


「ハッ、んなの、やってみなきゃ分かんねえだろ!」


 白と紫の雷が拮抗する。白は積乱雲から発生している。それをニャインライヴから放たれる紫の雷が迎え討つ。

 ジグザグに走るエネルギーはぶつかりあっては火花を散らし、轟音が耳朶を打つ。


「雲なんて仰いで消し飛ばせんだろ!」


 ニャインライヴを垂直に構えたゴマは、寝かすように構えていた剣の先を僅かに浮かせ、分子をも切ったと思わせる、素早い振りの一閃を放った。


「わあぁ!」


「まさか、斬った、のか?」


 黒い雲が真っ二つに切り分かれ、その間から眩しい程の光が降り注ぐ。天衣無縫の絹を思わせる虹色のカーテンは、奥へ奥へと広がっていくのが分かった。


「ニャハッハ! 積乱雲なんて、所詮ゴマ様には敵わないってこったな!」


「自然に勝っちゃったよ」


「ゴマ君に敵う相手なんて、自然にさえいないのかもな」


「おうよ! なんでも来やがれってんだ! ニャハッハ!」


 纏っていた鎧はいつの間にか紫の粒子となって雲散霧消し、残るは大きな口で笑うゴマだけだった。


「そうだ、いっそこの場所でメイルシュトロームでもすれば、大漁なんじゃねえか」


「大渦に巻き込まれちゃうよ」


「おっとそうか、んにゃ〜、何かつまんねえし、港に戻るとするか……んにゃ!?」


 ルナがゴマの提案に喜ぶのと、ソールが海の異変に顔を顰めるタイミングで、船が大きく揺れた。


「ど、どうしたっていうんだよ、また積乱雲か?」


「いや、違う。積乱雲じゃない。これは……」


 海が白滝のような飛沫をあげる。その穴を埋めるよう、海水が吸い込まれては爆ぜてまた混ざり、空へと水鉄砲を上げる。


「何だ、また勇者ゴマ様の出番か? メイルシュトロームで相殺してやるよ」


「待って兄ちゃん。良く見たら、兄ちゃんが晴らしてくれた所の海だけが荒ぶってるよ」


「つまりどういうことだよ」


「もしかしたら、」


 ソールが操縦室から出て、空と海を交互に見て、考えるように話しだした。


「積乱雲の起こす突風と、ゴマ君が放った攻撃のエネルギーが相殺しきれなくて、弾けて海に散らばったのかも」


「え? じゃあもしかして、この海の荒れ具合は兄ちゃんのせいってこと?」


「かもしれないな」


「兄ちゃん!! バカ!!」


「おい! 積乱雲は止めてやったんだぞ!」


 ニャーニャーと船内が騒がしくなるが、海は大きく波打って、ゴマ達のいる船を右に左と弄ぶ程の力を付けていた。


「兄ちゃん何とかして!」


「おうよ! 聖なる星の光よ、我に愛の――」


 水の塊が甲板を打つ。そこから巻き起こる飛沫にゴマとルナが吹き飛ばされた。


「ぶふっ! これじゃあ転身に集中できねぇ!!」


「嘘っ!?」


「二人共! 何でも良いから振り落とされるなよ。何とかこのエリアから脱出してみせる!」


「ソールさん! やっぱ頼りになるぜ!」


 大海に放たれた稚魚の如く、揉みくちゃにされようとも進む。

 しかし、ゴマ達は重大な事を忘れていた。


「なあ、ゴマ君達」


「んぁ? 何だよソールさん」


「僕達、どこから来たんだ?」


 海を舐めていた3匹の猫は、ニャーニャーギャーギャーと声を張り上げ、天地がひっくり返った光景を最後に海へと沈んだ。



「ゴボゴボ、こんなところで、ボクは死にたくねぇ」


 離れていく陽の光が、まるで己の命運を思わせるように、遠く、揺らぎ、暗さを増して朧気になっていく。


「ミランダ、助けてくれぇ。ボクは、まだ旅がしてぇよ。この力で困ってる奴らを救いてぇんだ……」


 濁っていく視界に映ったのは、ミランダが開くワープゲートの光り。

 最後に聞いたのは、


「こっちに、来て」

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