第42話 私に切れぬ物は無い、切れていない
でっかいワンコは意外と早くて、間違えて、戦車の砲身を切ってしまった。
「「「あっ」」」
当然、見なかったふりで攻撃を続ける。
そして、目の前でうろうろしてじゃまな砲身が、俺だけではなく刀を持って振っている天上さん達によっても切られていく。
そうして、ようやくケルベロスの前足に怪我を負わせ、胴体を前から後ろまで縦に一刀両断をする。
しかしまだ、二つの首が元気そうなので首をはねる。
そして、残りは双頭の犬の方だが、皆から、斬撃を食らわされふらふらして、足下の戦車達を巻き添えにして転がってしまう。
このすきにと、一志が渾身の斬撃を振るう。
そして消えていく、双頭の犬だが、その下で砲塔を斜めに切られた室内から、搭乗員達の焦った感じが見て取れる。
そして目が合う。
思わず、水希ちゃんが手を振り、誤魔化したようだ。
周囲の細々したモンスターを蹴散らして、氾濫を収束させていく。
「いや、ありがとう。思わぬ被害があったが、事態は収束できた」
司令官らしき方が、お礼を言いながらも、半壊をした戦車達をチラチラといやらしく見る。
「ええ、結構魔物が強力で、被害が出ましたね。ですが、地上部はもう収束できましたが、ダンジョン内を何とかしないと、また氾濫いたします。いかがいたします?」
きっと、こう考えているのだろう。
細かいことを気にするんじゃないよ、戦車が足下でうろうろしているからそうなるんだ、つまらんことを言っていると、ダンジョンを攻略しねえぞ。そんな事を、辻岡一尉の目が訴えている。
「そうですな。ダンジョン攻略。中には、ゴーストやアンデッドが出没し非常に難易度が高い。困りましたな」
ばかやろー。貧乏国だから、被害が出ましたねで済ませるものかよ。
かといってうちでは、ダンジョン攻略はできない。
どうすればいいんだぁ。
そんな悲痛な叫びが聞こえる。目が泳ぎ、汗だらだら。見ていてかわいそう。
でも戦車を転がしたのは、モンスターだし、砲塔を切ったのも一台のみ。砲身は五台ほど短くなったようだが。
「そうですな。現状何よりも、安定した状況をつくるのが先。ダンジョン攻略をお願いいたします」
折れた。妥協したようだ。
「では、攻略に向かおうか」
満面の笑みで、辻岡一尉が宣言をする。
基本的に大陸内のダンジョンは、作りが同じ、サクサクと進め、とびとびで、五十階を攻略して、終了。
皆にクリスタルを、配る。
ここには、アフリカの戦士は来ていない。
霊とか、怨霊に対して異常に恐怖するらしく、全く近寄らない。
「これは、一月後また大変だぞ」
辻岡一尉が脅かしてくる。
そして次だが、進む道々モンスターがすでに野良化している。
小さな村が点在しているはずだが、すでに壊滅をしているようだ。
そして後十キロメートル以上あるのに、黒い物が動いているのが見える。
今は車に乗っているのだが、地球は丸い為地平線、つまり見通し四・五キロくらいの距離しか、ないはずなのだが、あそこに見えている幾つも頭のある蛇は、この距離で胴体の半分以上が見えている。
「あれってまずくないですか? 町の方、煙が上がっているし」
「だが行かないという選択肢は無い。依頼されているからな」
目の前のそいつは、どんどんでかく見えてくる。
よし駄目だ、あれは。
「あれと戦うのは駄目です。逃げましょうよ。あれって蛇ですよ」
「どうしたの? 蛇は嫌い?」
「あまり好きじゃありませんし、顔が車くらいありますし」
「なあに君なら、目をつむって、一刀両断できるだろう」
他人事だと思って、お気楽な辻岡一尉。
ただまあ、他の皆も日野先生の刀を使い慣れてきて、戦力となっているし何とかなるよな。横目で、超巨大な蛇を見る。
「あれは、ヤマタノオロチか?」
てんちゃんが見ながら首をひねっている。
「違うんじゃ無いか、陸上だからヒュドラもどうかとは思うけれど」
「首ごとに属性が違うとか、同時に切らないと死なないとか?」
「それなら、あの大きい奴は和さんの一刀両断に任せましょ」
航空機と、ミサイルによる飽和攻撃が吹き荒れる、戦場の脇を通り過ぎる。
属性がどうかは知らないが、やはりすべての口からビームとか炎が噴き出されている。
前線基地となっている、有刺鉄線に囲まれた陣地へ乗り入れる。
「基地司令がお会いになります」
そう言って連れて行かれた先には、ビデオ会議室があり、そこで紹介をされる。
「あのモニターに映っているのが、大統領です」
そんな紹介の後、モニターの向こうでお願いが始まる。
「初めまして、日本の皆様。今現在我が国は、すでに見られたと思いますが、未曾有の危機に陥っています。是非その解決をお願いしたいと思います。ふがいないことに、我が国の旧型の武器では全く刃が立ちません」
そう言って、モンスター退治からダンジョンの処理まで、散々何とかしてほしいのお願いが続けられ、言い切ったのだろうか、モニターの向こうだが、深々と頭を下げる。
「では、よろしく、お願いいたします」
大統領が、その後。何か脇に対して合図をする。
そう言うと、うん? 向こうは中継が切れたのかな? こっちには見えているのだが。
「外交とは、こういう感じにやるのだ。頭を一つ下げるだけで、随分安く済む。分かるか副大統領」
「はい。さすがは、父上」
そう言われて、うんうんと頷く。
「それと口約束は、証拠を残さない場では交わしてもいいが、証拠があるときには仕方が無いから書面を残せ、確実に証拠の無い場の口約束だけなら、覚えが無いと言うことですませられるからな。決まり事は、証拠を残すな」
司令官が、小声で大統領に進言しているが、向こうではスピーカーとモニターが切られ、何故かマイクとカメラだけがオンのようだ。
俺達は、それを通訳して貰いながら、ニヨニヨして、司令官は、冷や汗を流しながら走り回っている。
「司令官。落ち着いて、まず契約の書面を交わしましょう」
微笑みながら、辻岡一尉が頭を下げて、お願いをする。
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