第19話 そして、関係者は導かれる。

 再びここに通い出して、威力の上がった蹴りが、あっさりといなされて、バランスを崩す。片手で倒され、お嬢様抱っこの形になる。


 赤くなりながら、水希は一志に苦情を言う。

「絶対見てた」

「見ていないよ。おまえ変な妄想しすぎ」


「楽しそうだな。どうしたの?」

「あっ。和さん聞いてくださいよ。一志ったら、歴史総合の先生に鼻の下伸ばして、授業中デレデレなんですよ。みっともない」

「鼻の下なんて、伸ばしてないだろう」

「伸ばしているわよ。ほら」


 一志の鼻の下。人中に向けて水希の鋭い手刀が向かって行く。

 ペシッと、下から払われて、そのまま手を取り。

 くるっと回転すると、すでに関節が決められ、水希ちゃんは身動きが取れなくなる。

 背中側で、腕を決められ、のけぞる感じだから、胸が。

 その瞬間、風切り音が聞こえる。

 すぐに手を取り、半身を下げる。

 凪海が水希ちゃんに向かい飛んでいき、ぽよんとぶつかる。


 すると、どちらからともなく、色っぽい声が漏れる。

「ああ、ごめん。その先生。かわいいんだ」

「いやあ。そんなでも。普通じゃないですか?」

 一志君はそう言うが、その台詞は駄目かもしれない。


「ほー。あの先生で普通なんだ。随分と理想がお高い。それなら周りは目に入らなくって当然ね」

「あーそういう訳じゃ」

「その先生、なんて言う名前?」

 何かを思いついたのか、凪海が二人に聞く。


「まだ若そうなんですが、三善あんずって言う人」

「あっ、やっぱり」

「うん? 聞いていたのか?」

 おもわず、凪海に聞いてみる。


「いや異変があって、最初民間の募集がなかったから、先輩達公務員とか、教職とか受けるって言っていたじゃない。司先輩くらいじゃない。願書出し忘れて、そのおかげで民間に入ったのって」

「そう、だったっけ?」

「ひどいわね。先輩に流しちゃお」

 そう言って、クスクス笑う凪海だが、しゃべりながらも絶賛組み手中。


「えっ、二人とも、知り合いなんですか?」

 一志君が食いついてくる。


「うん大学の、サークルの先輩」

「三善先生って、付き合っている人いないの?」

 水希ちゃんからの質問。


「司先輩と仲いいけど、付き合っているのって聞くと、否定するのよね。あの人達、よく分からない関係だから」

「その司先輩とやらの、フルネームを是非」

 水希ちゃんが食いついてくる。


「何する気だよ、先生を困らせるなよ」

「あら? 一志。先生に彼氏がいて、がっかりしたの? 元気が無くなったわよ」

 その言葉に反応したのか、力が入った当て身が、水希ちゃんの額に向かって突き出される。


 間に、手を差し込み。威力を散らす。

「今のは、やばいだろう。水希ちゃん。念を使えないようだしな」

「すみません。ちょっと力が入って」

 自分に向かって来ていた、拳の威力に気がついたのか、水希ちゃんがへたり込む。


「なによ、一志。私を殺す気?」

「ちょっと手が滑った。すまん。ちょっとデコピンするつもりがミスった」

「今のあんたの力で、デコピンされたら、か弱い私の頭なんか、爆散するわよ。怖いわね」

「あー。悪い」


「あらま。一志君。本気だったんだ。残念。水希ちゃんに慰めて貰うのが良いわよ。意地を張らないで」

 凪海がそう言うと、水希ちゃんがビクッとなる。


「あー、一志。ごめんね。ふざけすぎて」

「まあいい。たまに手が滑るから、避けろよ」

「えっ。ちょっと待って、見えない。見えないから」


「あれは、あれで、じゃれ合いか?」

「そうね。水希ちゃん誘って座禅に行く?」

「滝行には、一志も誘うか?」

「そっちは駄目。一緒に行くなら、男女別になるわよ」

「じゃあ駄目だ」

 


 そして、まだ若い一志君。

 学校で、早速あんずを捕まえる。

「先生、阿倍匠って言う奴と、付き合っているんですか?」

 聞かれた瞬間、あんずは焦る。


「ちょっと待ったぁ。どっ、どこからそんな名前」

「凪海さんと和さんです。家の門下生なんで」

「あらまあ、そうなの? 道場ねえ。うーん。そうだ、君も一緒にアルバイトしない? 凪海達には、こっちから連絡しておくから」

「良いですけど、それで付き合っているんすか?」

「黙っておいてね。付き合っては居ないけど、深ーい関係。子どもでも出来たら、結婚するわ。君は、水希ちゃんと仲良くしなさい。あの子全身から、君に愛してほしいって感情垂れ流しだから。分かった?」

「あーまあ。はい」


「そっかぁ。世の中狭いわね」



「と、言うことで、飲む。それで、君達は、ジュース」

 結局その晩、居酒屋に呼び出された。


「お久しぶりです」

「おう悪いな」

「大丈夫ですか? 会長。顔が土色ですよ」

「ああ忙しくて、連勤を更新中だ。始めて、不意に意識が落ちるのを経験した」

 皆が思わず絶句する。


「死にますよ」

「だからだ。その問題を何とかしてくれ。おまえ達ならきっとできる」

「はあ。まあ」

「よし、良い子だ。和。あんずをすきにして良い。許可する」

「ちょっと待って、なんであんたが決める。まあ、和なら興味あるし良いけど」

「だめだ」「だめよ」「だめです」


 当然、凪海の駄目は分かる。珍しく匠先輩からダメ出しが出た。

 それと、一志は懲りないな。水希ちゃんに肘打ちを食らっている。


「珍しいですね。匠先輩からダメ出しなんて。正式に付き合いだしたんですか?」

「いや違うが、おまえと寝ると、きっとあんずは帰ってこられなくなる。そんな気がする」

「どこから?」

「和。おまえの所から」

「よく分からないですね」

「おまえ自身は、見えない奴だったな。今凄いぞ」


「まあ今、あんずはどうでも良い」

 会長が割り込んでくる。


「あんたが、振ったんでしょうが文仁」

 そう言われたが、土色の会長は無視をする。


「おまえ達に、遺跡型ダンジョンを攻略してほしい」

「「「はっ?」」」

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