彼女は最強の軍団を創造し、地球を救う。……かもしれない。

久遠 れんり

第1章 平和な時代

第1話 料理を作りたい

「ねえ、今度は大丈夫だと思うの」

 懲りもせずに彼女は挑戦する。


 俺の彼女は、生命創造ができる。

 女の子だから当然? まあ、する事をすれば、出来るが。

 そういうことではない。


 人体の組成について、以下のように示されている。

 70kgの体重でヒトを作るには、これだけの材料が必要。

 これは、不細工だろうが、美形だろうが、等しく同じ。


 "酸素45.5 kg、炭素12.6 kg、水素7 kg、窒素2.1 kg、カルシウム1.05 kg、リン0.7 kg、イオウ175g、カリウム 140g、ナトリウム105g、塩素105g、マグネシウム35g、鉄6g、フッ素3g、ケイ素2g、亜鉛2g、ストロンチウム320 mg、ルビジウム320 mg、臭素200 mg、鉛120 mg、マンガン100 mg、銅80 mg、アルミニウム60 mg、カドミウム50 mg、スズ20 mg、バリウム17 mg、水銀13 mg、セレン12 mg、ヨウ素11 mg、モリブデン10 mg、ニッケル10 mg、ホウ素10 mg、クロム2 mg、ヒ素2 mg、コバルト1.5 mg、バナジウム0.2 mg"

[参考文献:Wikipedia 人体#組成]


 だが、彼女にはそんな法則は通じない。



「鳥胸肉と、小麦粉、片栗粉、卵。下味は、水、塩、砂糖。甘酢と、タルタルソースそれに、愛情タップリ。ふふっ」


 彼女は張り切り、台所に立つ。

 そして、油の跳ねるフライパンから飛び上がったのは、足が三本あり不思議な雰囲気を持つ烏。

 大きさは、およそ百四十四センチメートルはあるだろう。おおよそ、八咫と呼ばれるサイズ。咫(あた)は、手を広げて親指の先から中指の先までの長さ。または、手。手首から中指の先までの長さと言われている。


「今まで、謎生物だったのに、進化した?」

 僕は驚くが、彼女は不満な様子。


「また失敗した。折角美味しいチキン南蛮をと、思っていたのに」

 そう言って、膨れっ面になる。


「ご主人様。何なりとお申し付けくださいませ」

 僕が何かを言おうとするが、それを感知したのか、八咫烏の雰囲気が変わり、お前じゃ無い感がすごい。


 仕方なく彼女に、八咫烏の相手をしてもらい、その間にチキン南蛮を作り始める。



 彼女の、謎生物創造は、保育園のときにまで遡る。

「先生。なみちゃんがつくった、土のお人形さんが踊っているのぉ」

 そう言って先生は、砂場まで連れて行かれる。


 わいわいと、砂場を囲む子供達の中心で、砂でつくられたこんもりしたお城を、三体の土人形達が襲っている。


 一生懸命、お城を作った子供達は、土人形に土団子をぶつけられて泣いている。

 さらに、お城もすでに陥落間際。

 それを見て、さらに泣き始める。


「何このカオスな状態?」

 新人保育士、樹花 沙紅夜(このはな さくや)二十一歳は驚く。

 崩されかかったお城は良いとしても、問題は自立し、お城を攻撃。あまつさえその奥に立つ子供達に、土団子を投げつけている土人形達。


 糸で吊っている訳でもない。

 つまみ上げてみる。

「あっ!」

 脇で声が聞こえる。

 声を上げたのは、土人形制作者の出座 凪海(いずくら なみ)当時四歳。


 一瞬目が合ったが、沙紅夜は気にせず土人形をばらし始める。

 だが、中には何もからくりはなく、ある点で、突然散(ばら)けてしまう。


 すると、その光景を見たのだろう。他の二体が、沙紅夜を攻撃し始めてしまう。

「痛っ」

 そんなに痛い訳ではないが、つい反射的に出た言葉。

 それを聞くと、人形達の動きが止まってしまう。

 その瞬間に、掴もうと手を伸ばすと、軽く触れただけでバラバラに崩れてしまった。


 それを確認し、沙紅夜は凪海に聞く。

「あのお人形をつくったのは、凪海ちゃんかな?」

 そう聞くと、凪海は頷く。

「目とかにお砂が入ったら痛いし、せっかくお友達が作ったお城を、壊しちゃ駄目。分かった?」

 叱られて、半分泣き顔になりながら凪海は頷く。


 この時、土人形をつくっては駄目と言った訳では無かったが、その後凪海が土人形を作ることはなくなった。


 この時、半泣きの凪海の手を引き、手洗い場に連れて行った子供が、幼馴染みの井崎 和(いさき なぎ)。


 そして、小学校五年生で、事件は起こる。


 学校での調理実習。

 最初の課題は、茹でること。

 難しくはない。

 そのはずであった。

 だが、その日。家庭科室では、異変が起こる。


 青菜と、ジャガイモはうまく茹でられた。

 家庭科の教師、亥和 陸狩(いわか むつかり)はあわてて他の生徒に見せない様にそのものを隠す。


「先生、どうしたんですか?」

 ゆで卵を作っていたのは、凪海達の班だ。


 各班を見守っていたとき、陸狩は異変に気がつく。

 茹でているときに、卵にヒビが入るのはよく見る。

 しかし、卵の殻から出てきた尖ったもの。

 明らかに、大きさもおかしいが、卵の殻から立派なくちばしが飛び出してきて、その奥にいるものが、今すぐにでも出てきそうな状態。


 おかしいのは、それが沸騰した湯の中で起こっている現象であること。

 それも、幾度も殻を破ろうとしている。

 お湯の中で、ただ揺れているのではない。

 意思を持って、動いている。


 それを確認した陸狩は、あわてて蓋を閉めて、火から下ろす。

「この卵は、駄目そうだから。この班は、もう一度作ってくれないか?」

「えっ。あっ、はーい」

 そう言って素直に、調理に戻る子供達。


 そっと、鍋の蓋を開くと、見たことのない艶やかな鳥の頭が揺れていた。

 だがそれは、もう動いていないことに安堵する。

 そして、安心をしたが、また凪海達の班で騒ぎが起こる。


 結局、それにも蓋をして、火から下ろし。凪海達の班には、先生本人がゆで卵ではなく目玉焼きを作った。

 目玉焼きでは、またあの光景がこるかもしれない。まだ記憶に新しいお湯の中で殻を突っつく姿。それが怖くて、調理前にすべて割って確かめることにした。

 むろん割ってしまえば、ゆで卵はできない。

 教科書の手順は飛ばしてしまうが、背に腹は代えられない。


 むろん、後日ゆで卵を作った班の親からクレームが来たようだが、静に沈静化をした。

『どうして、一つの班だけ目玉焼きを作ったの? 帰ってきてから、家の娘がゆで卵よりも、目玉焼きのほうが良かったと言って、泣いていますのよ』

『卵の中。一ケースだけ有精卵があったようでして、卵の中がひよこになっていたのです。それを見た子供達が、どうなるか想像できますでしょうか? むろん他のお子さん達が使った方は大丈夫でした。目玉焼きにして使ったのは中身を確認した卵を捨てないためでしたが…… ゆで卵に拘った方が良かったのでしょうか? 写真もありますし送りましょうか?』

『ひよこ? 茹でた?』

『ええ。教育上良くないという判断です』

『そうですわね。材料には気を付けて貰わないと』

 そう言って、ガシャッと切ったようだが、その家庭ではしばらく、ゆで卵が出なくなったようだ。

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