第470話 王都土産はどうするか?
破門の腕輪を解除する見返りに、グリフォンが生息する階層で緑色の宝珠を取って来るという目的もあるが、ズワルトへの
主に日帰りで、時には一泊二日の泊りがけで行ったりもする。
それでも緑色の宝珠は見つからない。
以前、キャロルにグリフォンの宝珠をプレゼントする為に狩りをしたような、フェロウ達を分散してまでの必死な狩り方はしていないけどね。
単独で行動する俺とフェロウの危険度が高過ぎて、本当に集中していないと易々と命を落とすだろう。
高高度から急降下して襲い来るグリフォンは、位置エネルギーが運動エネルギーに変化してそのまま攻撃力として加わり恐ろしい破壊力を齎す。
油断をすれば一撃で命を落とす、それだけ危険な存在だしね。
猪突猛進してくるような魔物が多いから、土魔法の射撃で対処出来ているけどね。
マーヴィのように、背後から忍び寄って一撃で命を刈り取るような、搦め手を使う魔物と出会っていないのが幸いしている。
まあ、期限の無い仕事だし、ズワルトへのお土産のついでと思えばそれほど苦にならないな。気楽にやらせてもらおう。
そんな日々を過ごしていたある日、宿に戻ったらコスティカ様からの呼び出しの手紙が届いていた。
そんな訳で呼び出しに応じ、いまは応接室で侍女がお茶を入れるのを待っている。
お茶を入れると香りが引き立つ茶葉なのか、入れている最中から応接室にふわりと香りが広がり、その香りが気持ちを穏やかにさせてくれる。
カップを温めたりポットを蒸らしたりと煩雑な手順をしっかりと遵守し、完璧な手順で入れられたお茶は、無造作に入れたお茶に比べて格段に美味しい。
何度も来ているから最早飲みなれた味になりつつあるね。
そういえば、お茶を点てる侍女にも格付けでもあるのだろうか?
大切なお客さんには、お茶を入れるのが最高に上手い侍女が来るとか、どうでもいい客には手順を覚えたての侍女が入れるとかあるかも知れない。
そんな益体も無い事を考えていると、コスティカ様が応接室に入って来た。
「エルくんお待たせ」
気楽に声をかけながら入って来たコスティカ様は、ソファーに腰を下ろしてから口を開く。
「きょう来てもらったのは、仕立てた服の仮縫いですわ」
そういえばプロム用の服と式典用の二着を発注していたけど、あの日以降音沙汰がなかったから気になってはいた。
ある程度形になったから、着心地を確かめて細かい部分を修正する作業に取り掛かろうという事か。
「それが終わったら、息子を迎えに行って欲しいのですわ」
息子って、ウエルネイス伯爵家の現当主だよな?
近頃は会う機会も無かったし、避けているのもあって忘れかけていたな。名前は何だっけか。
「グレムスの迎えって……。 伯爵家のご当主なら、護衛の騎士達が居るんじゃないんですか?」
「もちろんおりますわ」
護衛は不要と取れる言葉を、はっきりと答えるコスティカ様。
「ですが、キャロルと正式に婚約を結びましたし、その父親が一切関わっていませんし、少しはエルくんとお話しする機会を設けようかと思いまして……」
そういう理由ね。義理の父親との対話する時間を作れと仰る。
グレムスが義理の父親かあ~。なんだか納得はいかないけど、キャロルの父親だから無下にして良い相手じゃ無いし、機会を作るというなら断る訳にも行かないだろう。
「分かりました、その依頼お受けします」
グレムスとの向き合い方も修正した方が良さそうだし、せっかくの機会と捉えて前向きに挑もう。
「以前のように、冒険者ギルドを通して依頼した方が良いかしら?」
「いえ、直接依頼でお願いします。 ギルドを通すと冒険者ランクが上がってしまうので……」
「いまはもう、冒険者ランクを上げたくはないのですわね」
「
下手な貴族から、グリフォンが出る緑色の宝珠を取って来る依頼とか来ても面倒だしね。
冒険者ギルドを通せば俺に依頼が頼めると思われたら、矢鱈と宝珠の依頼が来そうで怖いのもある。
俺しかその実績を持っていないのが難点だ。
そんな話を終えて仕立て屋の仮縫いを終えると……
「グレムスを連れて戻る頃には、仕立てた服が仕上がりますわ」
服の仕上がりを待つのにもちょうど良いか。
オーダーメイドの服って、何度か仮縫いを経て仕立て上がると思っていたけど、仮縫い一度で仕立て上げるなんて、相当熟練の職人を抱えている仕立て屋さんのようだ。腕に覚えありってやつだね。
グレムスの出発予定日を教えてもらい、コスティカ様に挨拶をしてウエルネイス伯爵邸を辞する。
一応、出発予定日よりもゆとりを持ってミスティオに行くつもりだ。
角猛牛亭ミスティオ店の様子も見たいし、コイルスプリングマットレスやドライヤーの魔道具も渡したい。
ベルナデットが店長をしている、開店したはずの菓子店がどうなったかも気になっている。
あとはロウレスの様子も見ておきたいかな。
もともと商売をしていたザック一家やルドルファイの事はそれほど心配していないけど……そういば王都土産はどうするか?
面倒だから、全員まとめてあれで良いか。
コスティカ様の要請を受けて以降、ミスティオの往復に必要な食料をかき集め(念のため、護衛の騎士の分も用意する)、ズワルトにも料理を頼むと、これ幸いとベルトルトとエジットのスープ作りの教材にしていた。
……ちゃんと美味しくなっているよね?
少し不安材料もありつつ、着々と準備を進めていた。
もちろん合間にグリフォン狩りをして、ズワルトに
実のところ、冒険者ギルドで解体時に渡される清算書は、清算カウンターに持ち込まずにずっと貯め込んでいる。
なぜなら、解体に出すと肉の買い取り依頼を自動的に消化した事になるので、ランクを上げないためにも解体に出した量が少ない時だけ清算している。
時々依頼を達成しないと、冒険者ランクが下がったり抹消されたりするからね。最低限の仕事のみでEランクをキープしている。
準備に数日を要し、知り合いに挨拶をしていよいよ出発の日を迎える。
好天に恵まれ、街道を歩くのは気持ちよさそうだけど、久しぶりの旅という事で少々緊張している。
「それじゃ、出発しようか」
「ラジャーデス」
「わふっ」「にゃー」「ココッ」「ピッ!」
角猛牛亭を出立し、王都北門でウエルネイス伯爵家の騎士メダルを見せる。
これを使うのも久しぶりだな。
爵位を得たら使わなくなるし返却するから、今回の旅で使い納めになるかと思うと、感慨深いものがある。
何かとお世話になったなと思いつつ、感謝の気持ちを胸に、新たな旅へと一歩を踏み出した。
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