第341話 二人分持って行くよ?
「試験官が気を失いましたけど、戦闘評価はどうなりますか?」
「試験官に勝利しましたので、暫定でDランクで登録をしておきましょう。意識が戻り次第、レンツォピラーさんの評価を聞いて、改めて正式な決定とします(正式な評価は、見習いを卒業した時に修正すれば十分よね)」
期待以下の働きしかできなかった試験官に、憐憫の視線を向けつつ、コーデリアさんはそう結論付けた。
ライマルの補助をするだけの
ノイフェスが模擬戦用の武器を片付けると共に、倒れているレンツォピラー試験官の脇の下に手を伸ばし、ずるずると引き摺るように訓練場の端へと移動させた。
「ノイフェスって強かったんだな……」
「戦闘技能については、ダンジョンコアの記憶から模倣してるデス」
グライムダンジョンに侵入した、冒険者や騎士たちの戦闘経験を引き継いでる感じか?
初心者から達人と呼ばれるような人も居ただろうし、それらを模倣してたら、身体強化魔法とアイアンゴーレムの膂力もあって、近接戦闘で負けなしになるんじゃないだろうか?
しっかりと盾で守りを固めつつも、初手でシールドバッシュを行う事で武器以外にも意識を向けさせて、試験官の注意を散らす事でじわりじわりと逃げ場のないところに追い詰めていた。
だがその前に誘いの隙を作り、狙い通りの一撃を打たせてカウンターを打っていた。
手堅く慎重な攻めと流れるような試合運び。先手は譲ったものの、終始ノイフェスが主導権を握っていた印象だ。
「それでは女神カードを一旦預かります。この場でお待ちください」
ノイフェスの女神カードを預かったコーデリアさんは、暫定戦闘評価を含めて冒険者登録を済ませてに、事務処理をしに受付に向かった。
その作業は簡単に済むようで、立ち去ったコーデリアさんはすぐに戻り、「職業:冒険者 Fランク 評価D」と記された女神カードをノイフェスに手渡した。
「それと、こちらがエンダール村のジェロッドさんへ配達する手紙と依頼書、それに搾乳の依頼書が二件あるわ」
「ありがとうございます。明日から依頼に取り掛かりますね。ノイフェス、明日はエンダール村に出発するぞ」
「ラジャーデス」
見習い卒業に必要な、三件の依頼を渡された俺達は、冒険者ギルドを離れ角猛牛亭への帰路につく。
「エルくん、お帰り。物凄い美人さんを連れているわね。そちらの方も泊まるのかしら?」
「そうです、部屋は空いてますか?」
「ごめんなさいね。こんな時間だともう部屋は埋まってるのよ」
申し訳なさそうに、ゾラさんは断りを入れて来た。
ワルトナーさんからの強制依頼と模擬戦で、かなり時間を取られたようだ。
角猛牛亭の食堂も満席で、俺達が座る場所も無さそうだ。
たとえ席が空いたとしても、酔っ払いにノイフェスが絡まれる未来しか想像できない。
「分かりました。二人部屋を取ってあるので、俺と同じ部屋に泊めても構いませんか?」
「ラナちゃんが戻って来ないなら、問題無いわよ」
「ラナはウエルネイス伯爵家で居候してるので、こちらに泊まる事はありません。あと、食事は自分たちで運ぶので、部屋で食べても構いませんか?」
「……そうね。この時間帯だとそうして貰えた方が、こちらとしても助かるわ」
ゾラさんも、ノイフェスが混雑した食堂に来ると、当然の如く絡まれるとでも思ってるみたいだ。
後々、仲裁に動くという余計な仕事が降り掛かるのが想定できるのだろう。それが避けられるなら安全策を取るのも自然な流れだ。
そもそも、ノイフェスが食事を摂れるのかすら知らないしな。
「それじゃ、部屋に戻ってから食事を受け取りに厨房に入りますね」
「お客さんにさせる事じゃ無いけど、そうしてくれるかしら。ズワルトに、二人前用意するよう伝えておくわ」
知らない間柄では無いが、一応は客として見てくれてるようだね。
ちょくちょく厨房に足を運んでいるから、俺が厨房に立ち入る事は気にならないようだ。
部屋の鍵を受け取りゾラさんにお礼をいって、自室へ向かい階段を上る。
この後厨房に入る事もあり、全員に
「俺が光魔法を使えることは、信頼のおける一部の人にしか明かして無いから、ノイフェスも口外しないように!」
「ラジャーデス」
「それで、このあと夕食を取りに行くけど、ノイフェスは食事を摂れるのか?」
「結論から申しますと摂れますデス」
食事はできるらしい。
だがゴーレム素体だから、流石に消化器官とかの内臓は内蔵してないだろう。
「食べた物はどこに行くんだ?」
「体内に取り入れた物は、内蔵された【魔力変換炉】に送られます。これは、他の魔物にも似たような器官があるのと変わりません。そこで魔石に魔力として充填されますデス」
ノイフェスが稼働する為にも、魔力補充に食事を取るのは意味のある事か。
……味覚があるかは不明だけど。
魔石があるとの事だし、
「食事を摂れるのは分かった。ノイフェスの魔石は稼働時間はどれくらいあるんだ?」
「通常は四つの魔石を並列稼働させ、運動や思考、記憶などを制御や補助しております。他に出力を強化したい時に、予備魔力でもある魔石を直列稼働させるデス。それらが二つ内臓されており、緊急時に使用しますデス。食事を摂らなくても自然界に存在する魔力を吸収、蓄積が可能で、稼働時間としては数十年単位で稼働しますデス」
とりあえず、定期的に食事さえ与えていれば、動力源の魔石に関しては、特に気に掛ける必要は無さそうだ。
そして食べ物が【魔力変換炉】に送られるという事は、フェロウ達と同様、排泄をしないらしい。
『アイドルだからトイレに行かない!!』
この台詞は実在したんだね……
「それじゃあ、俺は食事を取って来るよ。部屋で待機しててくれ」
「ラジャーデス」
「あと、すぐ戻るから鍵は閉じないように」
小さく頷いたノイフェスに留守を任せ、厨房まで夕食を取りに降りる。
「ズワルト! 夕食二人前用意してあるか?」
「やっと来たか、エル。凄い美人を連れて来たんだって?」
「ゾラさん程じゃないよ」
「そ、そうか……。何かおまけをつけるか?」
自分の妻と比較され、凄い美人より上との評価に、俺を揶揄おうとする態度を改めるズワルト。
「他の女性に鼻の下を伸ばすのも程々にな」
「誤解を招くような事、言わないでくれ! ゾラ一筋だよ!」
たしかに、繁盛して忙しい角猛牛亭では、厨房に籠りっきりで外界との接触の少ないズワルトに、浮気するような暇は全くない。
精々、食材を仕入れる業者くらいだが、持って来るのはおっさんだ。
可能性がありそうなのは一緒に働く同僚だが、女性従業員は殆ど給仕係や洗濯係で、そちらはゾラさんの目が光ってるから、手を出す隙もありはしない。
妻一筋の宣言をしなくても、ズワルトに浮気をする甲斐性どころか機会も無いのが良く分かる。
「何にせよ、ゾラさんと仲良くな。二人分持って行くよ?」
「ああ、持って行ってくれ。あと、例の肉もあったらお願いするよ」
「今回は解体する暇が無いから、渡せるのはまだ先だな」
「分かった。いつものように
ズワルトからグリフォン肉のお
戻って来ても強制依頼に駆り出されるから、グリフォン肉を出せるのは、それらが終わってからになる。
用意されている食事を受け取った俺は、部屋に戻りノイフェスと食事を始める。フェロウ達には、いつも通りにホットドッグを提供している。
「この後は寝るだけなんだけど、その前にノイフェスの事をもっと教えてくれ」
「ラジャーデス」
なんだかんだいいつつも、ノイフェスの機能を確認する作業に時間を取られ、やや眠気を感じながらエンダール村へと旅立った。
王都付近では魔物に遭遇することも無く、徒歩でも昼過ぎにはエンダール村へと到着した。
因みに、乙女の秘密とされた体重は……
重量軽減魔法(魔法を訊ねた時は自己申告しなかった)で自重を変化させられるそうだ。
乙女の秘密の一つらしい。
二つ目はマジックバッグの内蔵か?
アイテムボックスから取り出した際、重低音の着地音を立てていたにもかかわらず、ギルドのソファーに普通に座ってたから、何かしらあるのだろうとは思ってた。(空気椅子で対処してるかと思ったけどね)
流石に宿のベッドに横たわるなら、ノイフェスの自重で壊す訳には行かないので、正直に吐くよう迫った。
ついでに睡眠は不要だが、
だが、食事を摂ってるから、実質不要との事。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます