第332話 閑話 ですね、小隊長?

 暗部???side






 王国騎士団の中でも、公式には存在しない秘匿された第13騎士団。

 実際の騎士団の数はその半分もありはしないが、古くから第13騎士団は存在しており、通称【暗部】。そう呼ばれている。


 その騎士団はいくつかの部隊に分かれており、それぞれに得意分野が存在する。


 諜報、工作、追跡、暗殺、そして後進の育成。


 表沙汰にできない仕事が多岐に渡り、王国の裏側を知り尽くしている組織といえる。


 それらに命令権を持つ者は一部の王族のみであり、騎士団長ですら命じる事はできない。

 なぜ王族のみに命令権を有するかというと、王家直轄領のいずこかに秘匿された育成機関が存在し、秘密裏に育成され教育を受けた、一定水準以上の戦闘能力と特殊技能を兼ね備えた専門家として育てられたからである。


 彼らの存在が他国の動向や、謀反の兆候の察知など、国家を揺るがす事態を事前に潰していた。



 そんな彼らに白羽の矢が立ち、とある王族から調査の命令書が届けられた。



 その中でも調査に長けた小隊に仕事が任され、命令書を渡された小隊長とその補佐が、内容を吟味している。


「今回の任務は、ウエルネイス伯爵領、ミスティオの街にある【エル商会】の調査だ。その中でも主に商会長について調べる事になる」


「所在地以外に、事前情報はありませんか?」


らしい、との情報だ。第一王子殿下が食事代として、四億ゴルドを超える請求をされ、今回の調査に至った」


 王族がわざわざ田舎街まで行って、ぼったくり酒場で女遊びでもして豪遊きた?

 考えられる状況はそんな感じだが、ウィリアム殿下の真面目な性格から、そんなはずは無いと思われ首を捻る。


「その商会は、殿下からぼったくれると踏んだのでしょうか?」


「かもしれん。その請求額が正しいのかも調査内容に含まれている」


「四億ゴルドもの請求をしているのに、ぼったくりでない可能性を調べろと?」


「無いとは言えないからな。まあ、可能性は低いだろう」


「逮捕ではなく調査なのは、その可能性を潰すためですか?」


「まあ、そんなところだろう。命令は分かったな、仕事に取り掛かるぞ」


「ははっ!! まずはミスティオまでの移動準備ですね」


 騎士団の恰好で現地に赴けば、対象に感付かれる。

 一般人に紛れる衣装を纏い、乗合馬車や徒歩で移動し、たっぷり10日以上をかけてミスティオの街へと潜入する。


「調査対象は【エル商会】ですから、まずは商業ギルドで情報収集ですか、小隊長?」


「そうだな、それと食事代という名目だから、飲食店。それも高級な酒でも扱いそうな酒場から調査を始めるか。商業ギルドで情報を集めるチームは、空き物件を確保して拠点づくりも進めろ、他は酒場で噂を確かめろ!  いつも通り取り組めばよい、対象に気取られるなよ!」


「「「はっ!!」」」


 命令を受け部下たちが方々に散り、残った小隊長と共に商業ギルドへと足を運ぶ。




 白く清潔感のある巨大な建物が商業ギルドだ。

 中に入ると、商人たちが商談や情報交換に勤しんでる姿が見える。

 目的を思い出し、空いてる受付を探し、その目の前の席に着く。


「いらっしゃいませ、ようこそお越しくださいました。本日のご用件をお伺い致します」


 受付嬢の定型文の挨拶を聞き流し、さっそく仕事に取り掛かる。


「見ての通りわたし達は冒険者で、パーティーハウスにできそうな物件を探してます。それと、この街に来たばかりなので、知っておくと良い商会や美味い食堂も教えて欲しい」


 街で溶け込むには、不規則な生活をしている冒険者に紛れるのが最適だ。

 ミスティオの街はダンジョンがあるため、冒険者の数も多く入れ替わりも激しいからだ。


 こちらの要望を確認した受付嬢は、同僚に冒険者向けの空き物件を探して来るよう指示し、それまでの間のつなぎとして雑談に乗ってくれるようだ。


 予定通り情報収集ができそうだと、悟られない位置でほくそ笑む。


「そうですね……、ラハマン商会を知っておくと良いかもしれません。食料品を主に扱っているので、ダンジョン産の良質な肉の買取も行っていたはずです。ここ最近、美味しい食堂として有名なのは角猛牛亭ですね。そこは宿もやっているので、冒険者の方もよく利用されますよ」


 ラハマン商会に角猛牛亭。

 この質問では、エル商会の名は上がりませんね。

 違う角度から質問をすれば、名前も出て来ますかね。


 冒険者向けの物件は、手早く出せるように纏められているのか、然程の手間も掛けずに資料を持った同僚が戻って来た。


 エル商会の情報収集は一旦やめ、拠点にする物件の物色を始めた。


 不自然にならない程度に、会話の中から誘導するように情報収集を行い、空き物件の周辺にある目ぼしい施設を聞いてみても、エル商会の名は上がらない。


 エル商会は開業届けを出していない、闇組織が営むぼったくり商会の可能性が高まる。



 目立った行動と仲間の顔を覚えられるのを避けるため、受付嬢から聞き取った情報から拠点となる物件を決定し、その場で契約を済ませ鍵を受け取り、商業ギルドでの情報収集を終わらせた。



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 商業ギルドで【エル商会】の名前が出ないのには理由がある。


 商業権を保有し商会を立ち上げた際、その書類はグレムスが書き上げており商業ギルドは一切関わっていない。

 建物の購入もエルの個人資産から出ているから、商業ギルドに記録されている持ち主は、全てエルの名前で登録されている。

 コッコ舎を稼働させた際、商業ギルドから紹介された人材が犯罪を犯したため商業ギルドとの関りも疎遠となり、コッコ卵も契約販売に絞り、商業ギルドに卸していない。


 商業ギルド内で【エル商会】の名は、知名度が皆無である。


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 仲間達と待ち合わせ場所に集合し、契約した拠点に戻り、情報交換を行う。


 以前、他の冒険者が利用していたパーティーハウスを契約しており、周囲の住民は想定通り冒険者が多く暮らしている。


「情報交換を行うぞ、ボニーからだ」


「商業ギルドでは【エル商会】の名前は出なかったわ。無届の商会の可能性が浮上してきた。ですね、小隊長?」


「小隊長じゃない! 作戦行動中だからコードネームで呼べ!」


「失礼しました、アレックス」


 任務で偽名を使う事が多く、毎回名前が変わるから普段は役職で呼んでいる。その癖が出てしまった。気を付けないといけないわね。


「うむ。続いてクロードとダニエルだ」


「まだ初日なので、酒場も兼ねてる食堂で聞き耳を立てて来ました。不必要な接触はしていません。アレックスが言うような悪徳商会の名は出ていません。以前潰された、ゴーク商会の悪口を笑いながら喋ってた連中が居たくらいです」


「そうか、最後にエルネストとフランシーヌ」


「こちらは冒険者ギルドに行ってきました。飲食店であるなら、冒険者ギルドから肉を仕入れている可能性を考え、受付嬢にそれとなく聞いてみましたが、取引先は教えられないとの事。協力者を作る為、時間をかけてギルド職員を篭絡する方向へ切り替えます」


「まだミスティオについたばかりだ、無理はするな。ボニーが仕入れた情報に、冒険者が通う美味い店がある。これからの作戦に向け、その店で英気を養おう」


「アレックス、なんて店ですか?」


「角猛牛亭ミスティオ店だ」


 ミスティオ店と付くからには、どこか別の街にも角猛牛亭があるのでしょう。

 複数の店舗を持つ大きな商会であれば、後ろ暗い噂が立つ度、暗部の他の部隊が内偵をしており、その情報はこちらにも共有されています。

 その中に含まれていない角猛牛亭は、今回の調査対象である【エル商会】との関連は無いと思われます。

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