第64話 (閑話)日暮 沙月 視点 出来ない私と出来る彼
「……もうっ!!!」
バランスを崩してこけそうになった私は思わず文句を口に出す
私は今公園で1人、竹馬の練習を行っている最中だった
自分でいうのも何だけど、私は基本的に何でも出来る
保育園のお勉強も工作も運動も…ある程度は何でも出来るのだ
「なのに…何でこれだけ…」
私にはこの竹馬という競技がどうやら致命的に向いていないらしい
毎日公園で練習しているにもかかわらず、一向に上達する気がしないのだ
竹馬が出来ない…そんな女の子は彼に…
「…ってあぁ!!」
考え事していたからだろう…
無意識に竹馬に乗って私は、ただでさえ乗れていない竹馬の上で当然の様にバランスを崩してこけそうになる
「っっ!!!」
迫りくる痛みに耐える為に、目をギュッッと瞑って痛みを待ち構える
「…………??」
けれどもいつまで待っても痛みが私を襲い掛かって来る事は無く、それどころかフヨンとした柔らかい感触が私に触れた
「大丈夫ですか?」
「っっ?!!」
恐る恐る目を開くとそこには…いつも夜人君の傍にいる大人の女性が私を片手で支えていた
「大丈夫ですか?」
その人は動揺する様子もなく、無表情に私を見下ろしながら再度確認の言葉を私に発してくれる
「だ、だだだ大丈夫です…あ、有難うございます。」
「いえ、私は夜人様がそう望まれたであろうからそうしただけですので」
「………え?」
その言葉で私は一瞬思考が止まってしまう
誰が望んだっていっているのだろう…
「う…麗お姉ちゃん…は、速すぎるよ…」
「そうでも無ければ彼女は躓いておりましたので」
「そうだけど…スポーツ選手よりも速くなかった?」
「鍛えておりますので」
「…麗お姉ちゃん、スポーツ選手も鍛えてるよ」
「もっと鍛えておりますので」
「…………」
私が呆けている間も2人の漫才は続いていた
何で此処に夜人くんが?夜人くんが私を助ける様にお願いしたの?こんな時間に男の子が出歩くの危ないよ?夜人くん夜人くん…
「……ぐすっ」
「さつきちゃん?」
色々な事を聞きたかった筈だった
でも…色んな感情がごちゃ混ぜになってしまった結果、私の選択した行動は…涙を流すという事だった
「うわぁぁぁぁん!!!み、み゛ら゛れだぁーーーーーーーー!!!」
「えっ?!え、え、え?」
「よ゛…夜人くんにみ、み゛ら゛れだぁーーーーーーー!!!」
助けられた嬉しさよりも、ケガをしなかった安心感よりも、夜人くんに会えた喜びよりも、私の心を占めたのは無様な自分を夜人くんに見られたという悲しさだった
「さ、さつきちゃん…?」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーん!!!」
私はそのままごちゃ混ぜになった感情のまま、泣き続ける事しか出来なかった…
◆
「お、落ち着いた…?」
「うぅ…ぐ、グスッ……」
あれから数十分、泣き過ぎたからなのか…私は最早泣きわめく事はせずにグスグスと嗚咽だけ漏らしている
普通、男の子は勿論、女の子の友達ですらこんなに泣きわめく私など放って何処かに行ってしまうだろう
けど…夜人くんはオロオロとしながらも何処かに行こうともせず、泣いている私の傍にずっといてくれた
「よ…夜人くんは…こんな女の子…い、嫌だよね?」
我ながら馬鹿げた質問をしている自覚はある
男の子は1人に対していっぱいの女の子をお嫁さんにするのだ
だから男の子は男の子が出会った中でより可愛く、より賢く、より優れた女の子を選ぶってお母様は仰ってた
お母様はそう仰った後にいつも言う
『だからこそ沙月さん、貴女はもっと精進しなさい。より美しく、より賢く、より優れた女性になりなさい。そうでなければこの世界では…殿方と結婚するなんて夢のまた夢ですよ。』と…
夜人くんほどカッコよくて、賢くて、優しい…そんな男の子が竹馬1つちゃんと出来ない私なんて幻滅して嫌いになっても何一つ可笑しくないんだ…
そう確信していた私に対して夜人くんは少し考えた後に、静かに口を開いていった
「………え?何で僕がさつきちゃんを嫌になるの?」と
その表情は心底理解が出来ないといった様な表情だった
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