第3話 底辺配信者さん、ドラゴンをワンパンしてしまう。



 ドラゴンブレスを受けて意識を失っていたカレンが、目を開けると、そこには信じがたい光景が広がっていた。


 一人の少女が、自分を|庇うように(・・・・・)、両手を広げ真正面からドラゴンブレスを浴びていたのだ。


 少女は圧倒的な火力を受けながら、びくりともしない。


(わ、私を守るために……!!)


 ドラゴンブレスという最強レベルの技を喰らば、もちろん無傷では済まない。 

 仮に肉体的なダメージがなかったとしても、結界魔法(ライフバリア)を削られたことによる痛みは耐えがたいものであるはず。

 現にカレンはそれで気を失ってしまったのだ。


 けれど目の前の少女はあの火力にびくりともしない。

 

 その小さな背中の、なんと頼れることか。

 カレンの中で焦りが憧れの感情に変わっていく


 ――だが、少女のすごさはそれでは終わなかった。



 †


 マリアは長いドラゴンブレスの一息を楽しんだ後、その炎が消えたのちも恍惚とした表情を浮かべていた。


「……整うなぁ」


 マリアはドM過ぎて、ドラゴンブレスをサウナ代わりにして楽しんでいた。

 常人には耐えがたいその息苦しさと痛みが、ドMな彼女にとっては極上の娯楽なのだ。


 ただマリアがどう感じていようと、結界魔法(ライフバリア)は確実に削られていた。

 彼女の結界残量(ライフポイント)は1割を切っている。

 このまま攻撃を受け続ければ命はない。


 けれど。


【結界残量(ライフポイント)が1割以下になり条件を満たしました。スキル≪絶頂覚醒≫が発動します】


 次の瞬間、マリアの身体が赤く光り始めた。

 それは彼女が無意識に上げた反撃ののろし。


 彼女のユニークスキルは、攻撃を受ければ受けるほど強くなるというものだった。

 ≪絶頂覚醒≫により、彼女の身体能力は途端に30倍に跳ねあがる。


 

「キィァアアアア!!!」


 ドラゴンブレスを受けきられたことにいら立ったドラゴンは、金切声を上げながらマリアの方へと飛び込んできた。

 だが、ユリアはそれを自らの拳(・)で迎え撃つ。


 そのあまりに小さな拳が、巨竜の前足と触れ合う。


 重量差を考えれば勝敗は見るまでもない。

 けれど、次の瞬間、圧倒的な魔力が一点から流れ出し、

 

「グァアアアア!!!!」


 イクリプスドラゴンが背後に吹き飛んだ。

 ドシンと地面に落ち、そのまま動かなくなる。


 †


 

 カレンは目の前で起きていることがまったく理解できなかった。

 前の前には、歴史に残るような鮮烈な光景が広がっていた。


「ど、ドラゴンを……わ、ワンパンで倒しちゃった……ッ!!」


 カレンは目をパチクリさせる。

 Aランクパーティが束になっても苦戦するであろうモンスターを、拳一つで一撃で屠ってしまったのだ。


“すげぇええええええええええええええええええええ”

“ドラゴンをワンパンwwwwwwwwwwwwwwwwww”

“うそだろwwwww”

“やべええええええええ”

“なんやあれwwwwwwwwwwwwww”


 カレンの配信ウィンドウには無数のコメントが流れる。

 その出来事はあまりに常識を逸脱していた。

 それゆえ、とてつもなく大きな旋風を巻き起こそうとしていた。


 †


 マリアはイクリプスドラゴンを倒した後、ふぅと一つ息を吐いて、満足げな表情を浮かべていた。

 イクリプスドラゴンのドラゴンブレスは最近受けた中ではもっとも強力で、それゆえ彼女にとってその痛みは至高の癒しであった。


 その上、素材に高値が付くドラゴンを討伐できたのだ。願ったり叶ったりであった。


(まんぞく、まんぞく)


 と、ホクホク顔のマリア。


 だが、だがふと背後に視線を感じて振り返る。


 そこには地面にしりもちをついたままマリアの方を見上げるカレンの姿。

 そしてその脇には見慣れたマジックアイテム――記録水晶(カメラ)。


「……ん!?」


 記録水晶が自分を映している。

 つまりそれが意味するのは……


(あれ、もしかして……今の、全世界に向けて配信されちゃってる……?)


 ようやく頭の整理が追いついてくる。


 そう。彼女は自分のドMさを世界にさらしてしまったのだ。

 その事態を理解した瞬間、


「いやぁぁぁぁぁああああああああああああ!!!!」


 ダンジョンに彼女の悲鳴がとどろいたのだった。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る