ダンジョン配信者さん、攻撃を受けるだけでスキルを獲得して無限に強くなる。
アメカワ・リーチ@ラノベ作家
第1話 ギルドをクビになりました。
空中に浮かぶ≪記録水晶(カメラ)≫が、一人の少女の後ろ姿を捉えていた。
少女の名前は、マリア・ローズウッド。
ギルド≪ブラックバインド≫に所属する冒険者である。
冒険者の仕事は、危険なダンジョンを攻略することで無力化したり、モンスターからのドロップ品を回収することであった。
けれど今日の彼女はそれとは別の目的でダンジョンを訪れていた。
それが、今流行りの≪ダンジョン配信≫である。
ほんの10年ほど前。
≪記録水晶(カメラ)≫と、≪魔法通信網(ネット)≫という魔工学を技術を駆使することで、ダンジョン内の映像を遠くにいる人間の|ステータス画面(ウィンドウ)に届けることが可能になった。
これによって成立したのが≪ダンジョン配信者≫という新しい種類の冒険者である。
マリアはギルドからの指示でダンジョン配信を行っていた。
ちなみに時刻は既に17時を過ぎており、当然「定時後」であったが、この時間に対して残業代が支払われることはない。
配信は指示であったが|しっかり(・・・・)「勤務時間外」の扱いであった。
「えいッ!」
マリアは目の前のゴブリンに正拳付きを食らわせる。
スキルによって向上した身体能力によって、ただの拳でもモンスターにダメージを与えることができる。
「ゴブリン、倒しました!」
マリアは記録水晶(カメラ)に向かってそう報告する。
彼女の言葉は、その瞬間ダンジョンの壁を越えて、世界中に発信されていた――――
――――ただし、それを受信する人間は極めて少数であったが。
マリアの顔から右に少し離れたところに、半透明の四角い画面が表示されている。
これはその名の通り、元々は自分の各種ステータスを確認するための技術であった。
けれど≪魔法通信網≫が発展になってから、人々はこの画面で動画や掲示板などのコンテンツを楽しむようになっていた。
今、マリアの顔の脇にあるウィンドウには、マリア自身の生配信が映し出されていた。
画面の右下には、配信を視聴している人数――≪同接≫の記載がある。
その人数はたったの2人。
そう、彼女はまごうことなき「底辺配信者」であった。
けれど、それでも彼女は配信を続けていた。
ギルマスからの指示だったので、やめるわけにはいかなかった。
“【120G】今日も可愛い! 応援してます!”
と、次の瞬間マリアの画面上にそんなコメントがポップした。
配信の視聴者は、こうしてコメントを流すことができるのだが、今回のコメントは特別だった。
左側に「数字+G」と記載があるのは、スーパーコメント、略してスパコメというやつだ。視聴者が配信に対してお金を払ったのである。
配信中のスパコメについては、そのまま彼女の懐に入ることになっていた。
「うわ、スパコメありがとうございます!! 120ゴールドも!!」
マリアは記録水晶に向かって勢いよく頭を下げる。
「これで今日は久しぶりにパンの耳以外のものが食べられます! 本当にありがとうございます!」
極貧生活を送っているマリアにとって、少額のスパコメであってもとんでもなくうれしいものだった。
マリアは、今日の夕飯は大好きなオムライスにしようと決めて、ほくほく顔でダンジョンを進んでいく。
だが、そんな時。突然邪魔が入った。
ステータス画面の右下から、別のポップが現れる。
それは配信のコメントとは別に届いたメッセージだった。
メッセージの差出人欄にはは「ぎるます」と書かれている。
勤めているギルド≪ブラックバインド≫のギルドマスター、エラソーからのメッセージだった。
横柄な彼は、定時後だろうが休日だろうが、部下に対して平気でメッセージを送ってくるのだ。
メッセージを開くと『いますぐギルド事務所に来い』と、それだけ記載があった。
「ダンジョン配信中なんだけどな……」
マリアはぽつりと呟く。しかしギルドに雇われている以上、彼女に選択肢はない。
彼女は配信を切り上げて、急いで本部へと戻るのだった。
†
「マリア・ローズウッド、お前は今日でクビだ」
ギルマスのエラソーは、開口一番マリアにそう告げた。
「え?」
マリアは目をしばたいて呆然とする。
「以前から説明しているが、我がギルドはより知名度を上げるため、ダンジョン配信に力を入れようと思っている。それゆえギルド隊員たちにダンジョン配信をさせているのだ」
エラソーはニヤニヤしながら、マリアをクビにする背景をしゃべる。
「だが、お前は半年続けて登録者7人の底辺配信者だ。つまり、お前のようなたいして仕事もできず、人気があるわけでもない人間は我がギルドにはいらないのだ。だからクビだ」
なるほど、論理だけは明快であった。
「そ、そんな……」
マリアは何かの間違いではないかとエラソーを見る。
だが、エラソーはニヤニヤ笑い続けた。
「学歴もないお前を今まで雇ってやっていただけ、ありがたいと思え」
マリアはお金の問題で冒険者学校を卒業していなかった。
冒険者学校を卒業していないものを雇うギルドは多くはないので、その点についてはマリアも感謝していた。
だが、突然クビになるとなれば話が変わってくる。
「もうお前の居場所はない。さっさと出ていけ」
「こ、今月のお給料、まだもらってないです……!」
マリアが抗議するが、エラソーが意に介することはなかった。
「お前みたいな無能冒険者に給料なんてやれるか!! 今まで雇っていただけでもありがたいと思え!」
そんな言葉とともに、マリアは部屋を追い出される。
そんな理不尽な成り行きで、マリア・ローズウッドはギルドをクビになったのだった。
†
肩を落としてトボトボ帰宅するマリア。
ボロ家の扉を開け、消え入るような声で「ただいま……」と言う。
すると、マリアの唯一の家族である妹――ユリアが心配そうに顔をのぞかせた。
「お姉ちゃん……なにかあったの?」
「それが……ギルドをクビになっちゃった」
マリアは妹に対して事情を正直に打ち明けた。
マリアの父と母は数年前に事故で亡くなってしまっている。
残された姉妹はマリアの稼ぎによって生活していた。
それゆえマリアがギルドをクビになってしまうと、生活のめどが立たなくなってしまう。
しかも、ローズウッド家には両親の残した大きな借金があり、マリアは毎月その返済もしなければならなかった。
ハッキリ言って大ピンチだ。
「ごめんね……」
俯いて消え入りそうな声でそういうマリア。
けれど、妹のユリアは間髪入れず、明るい言葉を出した。
「大丈夫だよ! それにお姉ちゃんなら、絶対他のギルドでもやっていけるよ! それに、わたしももう少ししたら働けるようになるし!」
マリアは努めて笑みを浮かべて、姉をそう励ます。その姿にマリアも心が奮い立った。
「ユリア……ありがとう……」
マリアはくよくよはしていられないと思った。
「お姉ちゃん頑張るね!」
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