7
何人の男と寝たのかなんて、数えていない。ただ、身体が随分疲れ切っていたので、今日はいつもより客が多かったのかもしれないな、と、ぼんやり思った。
セックスは、好きではなかった。
体内に他人の体の一部が侵入いてくるのは、正直気持ちが悪い。私はなにをやっているんだろう、という気にもなる。
風呂場で軽く湯を浴び、私は紅子の部屋に向かう。
真っ暗な部屋の中、紅子は畳の真ん中に布団を敷いて、すやすやと眠っていた。
私は廊下から差す光に浮かび上がる紅子の白い顔を、しばらく眺めていた。
最後に目覚めいている彼女と会ったのはいつだろうか、と、そんなことを思いながら。
廊下を行く女たちの足音でふと我に返り、紅子の隣に敷きっぱなしにしていた布団に身を横たえる。
泥のように疲れていたけれど、なぜだか意識は冴えていた。
今、紅子を起こして、性交を迫ったらどうなるだろうか。そんなことを、ぐるぐると考える。
紅子と私は、一度しか寝ていない。あの炭焼小屋で、たった一度の性交をした。そして、その次の晩に村を出た。
誘ったのは、私だ。
いつでも手の届く位置にいるのに、口づけは何度も繰り返しているのに、それ以上触れられない身体がもどかしくて。
伸ばした手で、紅子の着た切り雀の古ぼけた着物の衿を開いた。
紅子は抵抗しなかった。
動揺した素振りも見せず、鏡合わせみたいに同じ動作で、私の衿を開いてきた。
めまいがした。どちらがどちらを抱こうとしているのか分からなくなった。紅子に触れるその時までは、紅子を抱きたいと、飢えるみたいに思っていたのに。
紅子。
名前を呼べば、紅子も私の名前を呼んだ。
銀子。
その声も、全く同じ響き方をした。
慣れていたはずだ。だって、生まれてきたその瞬間から、自分と同じ声と姿をしたもう一人がすぐ隣にいたんだから。
なのにその時ばかりは、なぜだかくらくらと、騙し絵でも見せられている気分になった。
紅子、紅子、紅子、
自分とおんなじ声と姿をした、もうひとりの女の名前を、すがるように呼んだ。
銀子、銀子、銀子、
紅子も同じように私を呼んだ。
できないかもしれない、と思った。だって、あまりにもめまいがひどすぎて。
けれど、その心配は杞憂に終わった。
紅子は私の着物を脱がせると、自分もするりと裸になり、私に身を預けてきた。
触れた身体は、私と同じだった。何もかもが、同じところにあった。
それを確かめるみたいに、私と紅子はお互いの身体に手を這わせた。それは、たまらない快感だった。自分の身体を悦ばせるのと同じことだったからだ。
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