観音通りにて・駆け落ち、その後

美里

眠る女

紅子は、眠ってばかりいる。私が仕事に出ている夜の内もずっと眠っているし、私が眠る昼間も一緒に眠る。

 この女は、いつまで眠っているのだろう。そして、最後に目を覚ましているこの女と会ったのはいつだっただろう。

 そんな疑問がよぎるくらいには、紅子はよく眠る。

 私は、眠る紅子の隣で漫画本を読む。話の筋にアップダウンがない、いっそだらだらした少女漫画が好きだ。多分、自分がそれと反対のことをしているからだろう。

 眠る紅子の白い顔に目をやる。

 生きているのか不安になるくらい深く、紅子は眠る。

 紅子と私は、同じ顔をしている。似ている、とか言う次元ではなく、同じ顔だ。

 双子の姉妹。

 その事実が、私と紅子をここまで連れてきた。ここ、観音通りの売春宿へ。

 故郷の村では、私と紅子の噂はあっという間に広がった。

 誰がどう広めたのかは知らない。ただ、山上の双子は愛し合っていると、はじめて紅子と寝た日には、とっくに村中にその噂は広まっていた。

 だから、その村にはもういられなかった。

 はじめて寝た日から数日立たないうちに、私と紅子は荷造りをし、夜中にこっそり村を逃げ出した。

 家は狭かったので、父と母も同じ部屋で寝ていた。多分二人は、私たちの逃亡に気がついて、寝たふりをしていたのだと思う。あの村は、狭すぎた。

 村を出て、私と紅子はただ歩き続けた。歩き続け、疲れたら人様の家の軒下か、廃神社か、それともただ道の端っこかで、眠った。

 あの頃まだ紅子は、こんなに眠り続けたりはしなかった。私たちは抱き合って浅く眠り、数時間でまた目を覚まして歩き続けた。

 行く宛はなかった。どこにも。ただ、村から離れようと歩いていただけで。

 お金も食べ物も持っていなかった。

 だから私は、身体を売った。

 相手は、軒下を貸してくれた、まだ若い小柄な男だった。その男は、紅子には目もくれなかった。紅子が眠ってから、私だけを家に引き入れた。勘のいい男だったのだと思う。身を売るなら、紅子ではなく私だと、察していたのだろう。

 男と寝るのは、はじめてだった。

 行為が終わるとその男は、観音通りのことを教えてくれた。そこに行けば、合法に身体を売れるのだと。

 私と紅子は、それから何日もかけて、観音通りに向かった。足には豆ができては潰れた。早くその通りにたどり着きたい、と思っていた。体を売るのは苦ではなかった。それで紅子を屋根の下で眠らせ、腹いっぱい食わせてやれるのだとしたら、私はどうなっても構わなかった。

 

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