億り人の白子さん。留年まであと4日
エプソン
第1話・勉強なんて無意味だと思うの
「国語も数学も英語も10点以下ってどういうこと!?」
自らが作成した小テストの点数を見て、
ここ1ヶ月ばかり少女に付きっきりで勉強を教えていた彼にはショックが大きすぎたのだ。
「これまた
「貴女が受けたテストなんですが!?」
「私の勉強レベルにテストの方が付いてこれなかったってことね」
「離されてるのは
「失礼な。私の方がマイナス90メートル勝ってるわ」
「それは負けてるんだよ! 勝負になってないんだよ!」
「そこまで言うこと無いでしょ。テストも頑張ってるじゃない」
「お前が頑張るんだよ!」
里見の心からの叫びに、彼の対面に座る白子がムッとした表情でそっぽを向いた。
「私だって頑張ったのよ。少しくらい
「ちなみに僕との勉強以外にどれくらいやってました?」
「1日15分。死ぬかと思ったわ」
「少なっ!? 仮にも受験生でしょう貴女!」
「受験なんて退屈なもの。暇人にでもやらせておけば良いのよ」
「受験の土俵に上がれるか分からない人間が言って良い台詞じゃないよ」
「上がるつもりが無いのだから一向に構わないわ」
「その心意気をもう少し勉強に向けてくれれば皆ハッピーなのに」
「? 私は毎日ハッピーよ」
「それを聞いて僕はアンハッピーだよ!」
「体調が悪いならさっさと帰った方が良いと思うわ」
「僕を口実にさらりとサボろうとするな!」
彼女は渋々ながらペンを持った。
だが、彼女の手の中のシャーペンから芯が出ていないことに里見は気付いた。
「勉強する気ある?」
「無いわ!」
「そんな断言されても……。何でそんなに勉強したくないの?」
「だって意味が見出だせないもの」
「こんな
「私は別に留年しても構わないわ。卒業とか興味ないし」
「本音は?」
「勉強面倒臭い」
「素直でよろしい」
「じゃあ今日は終わりってことで」
「んな訳ないでしょう。さっきの小テストの復習するよっ」
「むぅ」
嫌々ながら彼女はシャーペンの頭を叩いた。
2人しか居ない放課後の空き教室。
里見の解説を聞いている時の彼女はとても静かだった。
「流石
「何故に上から目線……。理解は出来た?」
「ちっとも」
「分かってないのに褒めたんかい!」
「だって里見くんが楽しそうだったから。君は勉強が好きなのね」
「まあ。知らないことを知るって、自分の世界が広がっていくみたいな感じがするからね」
「本音は?」
「勉強で上の順位に立つ優越感がぱない。快楽の海に
「これまたとんだド変態ね」
スカートなど気にせず大きく足を組む白子。
「勉強なんて辛いし面倒臭いしで、私には何が面白いのかちっとも分からないわ」
「単に学校の勉強が嫌いなだけじゃない?」
「どうしてそう思うの?」
「だって勉強全般が嫌いな人間が投資で稼げる訳ないし」
「買い被り過ぎ。私はそんな真っ当な人間じゃないわ。運が良かっただけ」
「運だけじゃ何億も稼げないよ」
「それはそうかもしれないけれど、投資のことを勉強と思ったこと無いもの。あんなのただのゲーム」
「ゲームでも何でも、のめり込める人間は強いし凄いよ」
「なに急に。そんなに褒めても勉強時間は増やさないわよ」
「安心して。約束は守るから」
「そっか、安心したわ」
「白子さんを卒業させるためなら僕は鬼になって勉強させるよ」
「人の純真
「その台詞は3教科で10点以上取れるようになってから言ってね」
「ぐぎぎ……」
苦虫を噛み潰したような表情になる少女。
とてもではないが、女子高生が人前で見せられるようなものではなかった。
「はぁ、勉強しなくても生きていける世界に行きたいものだわ」
「そんな世界は未来永劫訪れないよ」
「そんなの分からないじゃない。脳に直接知識を注入する機械が将来出てくるかも」
「え、そんなの怖くない? 少なくとも僕は嫌だけど」
「そう? 虫歯の治療をするのと大して変わらないでしょ」
「感覚
「痛そうなのがネックよね。そこさえクリア出来ているのなら喜んで受けるのだけれど」
「ミスってもっと馬鹿になったらどうする気なの?」
「その時はその時よって、今さりげなく馬鹿にしたでしょ」
「何のことだが。あっ、そこの回答間違ってるよ。あと漢字の書き順も変」
「……君、誤魔化すのも上手いわね」
「そんなことないよ。普通だよ」
「食えない人間。あーあ、本当に勉強しなくても良い世界に行きたい」
「まだ言ってるよ」
「だって、心から望んでるもの」
「じゃあ勉強して作ろうよ。勉強しなくても良い世界を」
「本末転倒ね」
「そんなことない。白子さんがもしそんな世界を作ったら、誰もが白子さんを崇めるよ」
「アホなこと言ってないでちゃんと教えて頂戴。再試験まであと4日しかないのよ」
「白子さんがそれ言う? ま、留年したらそれどころじゃないもんね」
「何としてもテストをパスして卒業するわ。じっちゃんの名に懸けて」
「そのやる気をもっと早く持ってきてよ、本当にさぁ!」
この言葉を皮切りに、彼女との会話は止んだ。
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