辺境伯の悪役令息に転生した俺。ゲーム知識はイマイチなので、神様にもらった『ザ・ビースト…』のスキルで主人公パーティを返り討ちにしてやります!
十森メメ
第一章 パトリア城編
プロローグ
「手違いじゃ」
伸び放題の白髪と白髭をもぞもぞさせながら、たぶん神様と思われるおじいさんからわけのわからないことを言われた。
「ちょっと調整間違えてしまったみたいでのう……。すまぬ」
調整ってなんだ?……ていうか俺、死んだのかな?
まあ、ふつう死ぬよな。家の軒下に入っていったネコ追いかけてたら、突然スズメバチの群れに襲われたのだから。
全身これでもかというほど刺され、経験したことない痛みに気絶したところまでは覚えている。
「本当はダメなのじゃが。わしが悪いでのぅ……。今回は特別じゃ!」
1人でしゃべっている白髪白髭のおじいさん。本当に神様か?
「おじいさん、あなたかみ・・・」
「わしが神じゃ!文句あんのかえ!!」
なんか食い気味に言われた。ツバみたいなのが飛んできて、顔に着く感覚が不快だ。
しかも若干口内カタカタしてたし。入れ歯なの?
「まぁええ。とりあえずじゃ!お主、このままじゃと普通に死ぬだけじゃが……」
含みを持たせた言い方だけど、わかるよ。アレ、用意してくれてるんでしょ?
「察しておるようじゃの。じゃが、物事はそう単純ではないぞ。若いの」
やっぱ一応神様っぽい。こっちの考えていることがわかっているようだ。
「人生は勝つか負けるかのギャーーンブルなのじゃーーー!!……ふごぅ!」
いきなりなんで叫ぶのーー!?しかも、ふごぅ!って……。やっぱ入れ歯じゃねーかよ!神様なんだから歯くらい作れよ!?
……ん?ところでギャンブルってなに?
「まあ歯のことは置いておけ、若いの。そう!運命は自分の手で掴み取るのじゃ!」
神様はそう言うと、昔のギリシャ人が着ていたような服の懐からカードを3枚取り出した。
特に机とかはないが、俺の目の前にタロットカードのような柄の絵札が空中に並ぶ。
「まずはお主から見て一番左にあるこのカード。このカードはのう……」
中央に描いてあるのは、超絶イケメンの勇者か冒険者が剣を両手で構え、魔王っぽいのと闘っている描写だな。
その横に男ならだれでも好きそうな姫っぽい清楚系の女性。周りには戦う巨乳の女戦士や聖女とかがたくさんいる。
売れてそうなライトノベルの表紙のようだ。
「いわゆる異世界転生チーレム無双?じゃったかのう。それじゃ!」
うんうん。それそれ。このパターン、やっぱそれでしょ!でも、ギャンブルなんだよな?
残り2枚ある。1枚はなんとなく予想できるが……
「ご名答!真ん中のこのカード。これ、デェェェッド・エンドゥ!じゃ!」
死ぬってことね。すごい邪悪そうな死神書いてあるし。これだけは回避したい。もうこのハイテンションは無視だ。
「そしてお主から見て右のカード。このカードはのう……」
気になったのはそれだ。深い森の切り立った崖の上にそびえる城と絶壁下に広がる暗礁。
森には魔物達がうろつく描写もあるが、人物は描かれていない。辺境の地のような、そしてどこかで見たことがある光景の絵柄が見て取れた。
「えーっとなんじゃったかの。ああ、そうじゃそうじゃ。あれじゃ。ハメフラ?悪役?みたいなやつじゃ!わしゃ興味がないのでどうなるかはしらんがのぉ」
ふぁああはっはっはぁぁぁ!ふごぉぉ!ゲホッゲホゥォ!カタカタ……と豪快に笑いだす神様。
死ぬの?ねぇ、死ぬの?
「死ぬわけなかろう、わし、神」
いちいちツッコミに反応しなくていいよ、神。ほんとめんどくさい。
3枚目は破滅フラグ・悪役令嬢系か。それは、正直あんまりうれしくないな。
「そうじゃな、では!このカードを、シャッフルじゃ」
空中のカードがさらに天高く舞い上がり、空中であり得ないスピードで回転し、俺の顔面前に並ぶ。
当然、カードはすべて裏向きだ。
「さあ、慎重に選べよ、若いの。これでお主の運命が決ま…って、もういいのぉ!?」
選んでもわからん。直感で自分から見て右のカードに手を伸ばす俺。もうちょっとじらしたかったのか。神はたじろいでいる。
「ええんじゃな、ほんとうに」
「いいよ、これにする」
「ほんっっとうに、それで、ええんじゃな!?」
「いい。俺は直感を信じる」
右のカードをつかみ、表に向けようとしているのだが、できない。ビクともしない。
神のほうを見ると、すごい目つきで睨みつけてくる。
これ、もしかして……父さんがよく言ってる、昔やってたテレビの流行語の、あれか?
「ファイナル……」
く、来る!!
「アトミッーーーック!」
え、アトミック??それ、ちがうやつやんけーーー!!
とかなんとか思っていたら、俺が掴んでいたカードが手からスルッと抜け、神の両手に収まる。
「とおぅっ!」
カードを持った神が高々とジャンプする。そして、なんか空中で左右にクルクル回ってすごい落下スピードで落ちてくる。
かと思ったら回転を途中で止め、手に持っていたカードをいきなり地上に投げ捨て、
「イレイザァーーー!!!」
と叫ぶと同時に目から怪光線を発射し、落ちたカードに直撃。カードは霧散した。
シュタッ(着地)
「またつまらぬものを、消してしもたわい……」
両手を腰に、ちょっとかっこつけながらそんなことをほざく神。我慢ならん。
「おいいいいい!!!神テメェ!コラッ!チーレム消しやがったなぁーー!!」
「お主にチーレムなど100000億万年早いわぁぁ!!」
「じゃあそんなカードわざわざ用意してんじゃねぇぇよぉーーー!!」
「……わしもチーレムしたかったんじゃよぉぉぉ」
何言ってんだこのジジィ!神様そんなの勝手に作ればいいじゃねぇかよ!
「なかなかそういうわけにもいかんのじゃよ……うん、怖いのきちゃった」
雰囲気が変わる。背筋が凍る。すごいプレッシャーだ……。冷や汗がとまらん。
なんだ、いったいなに来るっていうんだ!?
「このエロ神が。いつからそんな願望もってのよ!」
「あ、いや。あのね。女神ちゃん。ちがうの。うん。ちがうから」
「なぁぁにが違うってゆうのよぉぉーー!!」
バッチコーーーン!!!
「ふごぉぉぉおお!」
突然現れた女神の平手打ちで遠い彼方へ吹っ飛ぶ神。置いて行かれた装着型の歯が痛ましかった。
「あ、ごめんなさいね。あの人、たぶん久しぶりに人と話して浮かれていたのよ」
おほほほほと笑う女神。すごい綺麗な造形だけど、目は笑っていない。
「あなたの運命はもう決まっているのよ」
バラまかれた残り2枚のカードのうちの1枚を拾い、俺に手渡す女神。表示面は表だ。
パァァァァァァ
受け取った瞬間、とても神々しい光が辺りを包む。視界を完全に奪われると同時に意識が遠のいていると感じる。
「手違いは本当よ。でも、あなたはここで死ねない。次のステージでがんばってね」
女神の優しい声だけが耳を潤す。遠のく意識も心地よいと感じる。
「次は、うまくやれるといいな」
そんなことを思いながら、転生の儀は終わりを迎え、新たな冒険の旅が始まるのであった。
「今度遊びに行くから待っとれよーー」
……これは聞こえなかったことにしよう。
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