上京したアイツがある日突然嫁を連れて帰ってきたけど少し様子がおかしい
川平 直
なにもないどこかにて
序章
そこは暗闇の中だった。
上も下も、右も左も分からない。
……いや。
そもそも、そんなものは無いのかもしれない。
何も見えず、何も聞こえず。
ただぼんやりとした意識だけが、その場をたゆたい、何処かへと流れていくような、そんな感覚だけがあった。
緩やかな川の流れに乗る、落ち葉にでもなったような感覚、と言えば何となく想像できるだろうか?
それはとても心地いい感覚だけど、ただそれと同時に、このまま流されていけば二度と戻って来れなくなるような。
そんな漠然とした不安のようなものも感じる不思議な感覚だった。
「準備はよろしいですか?」
その時、何かが語りかけてきた。
淡々としていて抑揚のない声。
他には何も聞こえないのに、無機質なその声だけがどこからともなく響いてくる。
「先程ご説明させていただいた通り、機会を与えるのはこれ一度だけ、二度目はないことをどうか努々お忘れ無きように」
ああ、そうだ。
戻るんだ。
戻って、そして――
「では、どうか後悔の無い一ヶ月を」
声がそう言った瞬間。
おぼろげだった意識は、完全に闇の中に溶けた。
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