詩集
竜宮夜凪
夏は光っている
いつも頭の中に言葉の濁流が流れている
洪水の中にぴかぴか光っているひとかけらを見つけて必死になってそれを拾う
掬い上げて磨いてきらきらの宝物を並べてみる
流れる、掬う、磨く、並べる
流れる、掬う、磨く、並べる
流れる、掬う、磨く、並べる
その一連の動作こそを僕は呼吸だと思っていた
それが生きることだと思っていた
それを生きることにしたかった
それだけにずっとしがみついていた
そうしていなければ上手く息ができなくて
上手く息ができないから僕はずっと知らなかった
僕の呼吸には息を吐くというそれだけしかないことを
気付いた途端に生きることがおそろしくなった
みんなには息を吸うという動作があって、僕のこれは呼吸ではなかったらしい
胸の奥にチカチカ光る宝石をたくさん磨き上げていけば正しい形になれるものとばかり思っていた
僕の呼吸は魂の切り売りを繰り返す行為だったと気付いた頃には、どうやら身体はとっくに軽くなっていたらしい
僕の美しいと感じていたものは、僕の魂の薄切りだった
それでも濁流は止まらないから、手を止めればたくさんのうつくしいものが流れていくことが怖かった
只黙って水の流れていく様を見ていればそれで良いのかもしれない
寝そべって見つめて、ぼんやりと見送れば良かったのかもしれない
それも、生きるということではあるのかもしれない
呼吸の仕方は他にもあるのかもしれないと気付いても、結局僕は生きている気になって死へと向かう行為を繰り返している
流れる、掬う、磨く、並べる
流れる、掬う、磨く、並べる
流れる、掬う、磨く、並べる
僕にとってそれが生きる意味だったから、呼吸の仕方を変えることも出来なかった
死に近付く行為だって、きっと息をしていることと同義だと自分に言い聞かせて、今日も魂をうすくスライスして僕は自分の量り売りをしている
夏の光を通して、薄いセロファンは輝いてみえた
命を燃やしたって星にはなれやしないんだって分かってるよ、それでも夏は綺麗だった、夏は光っていた、夏は真実だった
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