劣化ハーレムと交換されたけど

確門潜竜

第1話 負け勇者の歩み

「えーと、これは魔草ミントか、普通のミントか?ズイウン…。」

“いないんだったな、もう。さっきは、どこの場所がいいかなと、レイカンに相談しようとしたし…。本当に頼ってばかりでいたな、俺って。”

 勇者シウンは、薬草採取の依頼仕事をこなしながら、しみじみ思っていた。別に知識がないわけではないし、何とかやっている。だが、相談する相手がいないと不安だし、先々のことを考える余裕がなくなる。

「このまま行くと魔獣が徘徊するところに出るか?時々、夢中になりすぎて、魔獣に襲われる冒険者がいるな。ああ、そういう口実で…最初から考えていたらな…、サイウンがいたら…。」

 しばらくするとサーベルウルフの群れに襲われた。難なく倒したものの、夢中になって戦ったという感じで余裕がなかったように感じた。スイセイに背中を託していたことを痛感した、あらためて。

 多数のサーベルウルフの体を解体した頃には、当たりは暗くなっていた。急いで収納し、帰りを急いだ。暗くなって、他の魔獣に襲われるのは怖くない。ギルドの窓口が閉まるのが怖いのだ。

 間に合って、報酬や買取代金の一部が支払われてホッとした、シウンは。金に余裕がないわけではないが、こういうことに神経を使う性格なのだ。

 “あの日以降、依頼がこんな報酬が少ないものばかりになったよな。俺は変わっていないのにな。”と一人ベッドの中で思った。それ以上に、自分1人しか部屋にいない寂しさが身に染みていた。

 翌日、シウンが冒険者ギルドに行くと、依頼の手配をしている担当の女性が困った顔をしているのをみつけた。

「この仕事、受けるよ。」

「え?助かります…て、ダメですよ~、危険過ぎますよ!もう、あなたは勇者じゃないんですよ!あの4人はいないんですから!」

「は?僕は勇者認定を取り消されてなんかいないし、彼女らの助けは大きかったけど…。確かに、三頭のドラゴンを倒した時は、彼女達が内2頭は倒したけど、僕が助けたものだし、1頭は僕1人だけで倒したんだよ!」

「へ?」

 彼は、唖然とするギルド職員から依頼書をひったくるようにして手にして駆け出した。背中に叫び声を感じるが、完全無視。

 依頼は、はぐれエンセントドラゴン三匹の討伐、かなり凶暴で、既に、討伐に向かった一流冒険者の揃ったチームが壊滅しているということだった。

「エンセントドラゴンというのはー、というと…。」

 駆けながら考えた。居場所は依頼書にあるけど、その場所の手前、まだ安全圏で立ち止まる。さすがに、100㎞ほどを1時間一寸で全力疾走すると息が切れた。息を整え、体力の回復を待ちながら、地形を考える。

「どこから攻めるか?」

と考えを巡らす。

「考えてから走り出しなさいよ!いつも、先に体を動かすんだから。」

「体力を維持しながら走りなさい。いつ、襲われるか分からないんだから。」

「退避路も考えておきなさい!」

「十分、周囲を確認して進みなさいよ!」

 そして最後に、

「いつも言っているでしょう!」

のハーモニーが来たものだ、と寂しい苦笑となった。

 本当なら、状況を見て、念のため寝込みを襲う、待ち伏せ、不意打ちをかける、を考えるべきだったが、そのまま勝負を、真っ向勝負を彼は挑んだ。何故か、そんな無理をしたくなった、無理をしなくては耐えられなかった。

「みんなからは、怒られるだろうな。」

と独り言を言った。“あるいは、私が攻撃するから、サポートと様子見してね、と誰かが言ってくれたかな。”

 ドラゴンが彼に気がついた時には、彼の逆支援魔法で力が3割ほど落ちていたが、彼らが知ることはなかった。フェイントの火球の連発、身体強化魔法を目いっぱいかけ、剣を魔法強化して斬り込む。ドラゴンも正確に彼の位置をみつけ、火炎と電撃を交互に、3匹連携をとって、放ってくる。こちらも防御結界を張るが、相手も張っている。“正直過ぎるな。”彼は冷静に、最小限の力で受け流す彼の結界と正面からまともに受け止めるドラゴン達の結界を比較した。彼の剣が、ドラゴンの一匹の首を切り裂く、血が噴き出すが致命傷ではない。

 戦いは、小一時間続いた、というよりドラゴン3匹を始末するに、それだけかかったということだった。“やはり、1人だと効率化が、悪いな。”とまた、美しい4人の女達の顔を思い浮かべた。

 ドラゴンの死体を解体し、証明する部位、高価な部位を持って冒険者ギルドに行くと、受け取り拒否はされなかった。

 その翌日から、彼に、彼の能力に応じた依頼がまわされるようになった。

 それから、一カ月が過ぎた、ある日。

「私は、無用ではないか?」

 シウンは、長身の女奴隷戦士を連れて、ギルドの窓口に続く、食堂に入って、2人で向かい合わせ

で一つのテーブルに座り、食べ物と酒を頼んだ。

「背中を委せているというだけでも、その存在は大きい。それに、お前に実力があるのは俺がよく知っているしな。」

 そうこうして、料理と酒が来たので、2人で食べ始めた時だった。

「こんなところにいたのね。責任をとりなさいよ!」

と怒鳴り声が聞こえてきた。

 くすんだ金髪の若い女剣士だった。かなり埃と汗と泥で汚れていた。ゆっくり顔をあげ、肉を呑み込んだシウンは、

「まさか、どこのパーティーにも相手にされなかったのか、スピット?」

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