第138話 キングスレイヤー


既にこのことはエリノアに話していた。リーマンには少し付け加えなければなるまい。


「実はローラムの竜王が使いを出してくれる。俺たちはドラゴンに乗ってエトイナ山へ行く。ロード・オブ・ザ・ロードを消したのは、多くの人にドラゴン語を与えるという申し出に、応えない者には報いないというローラムの竜王のメッセージでもある」


リーマンは眉をひそめた。


「そういうことだったのですね。ですが、殿下」


「なんだ」


「ドラゴンって、あれは乗れるものなのでしょうか」


はぐれドラゴンは別として、賢いドラゴンは人類の上位種と言っても過言ではない。それを馬のように扱えるのか。ドラゴンを知れば知るほど思ってしまう正直な疑問だ。


かえって丁度良かったのかもしれない。エリノアが派遣団のメンバーに話したとしてもドラゴンに乗ると聞けばリーマンやソーンダイクの所に話が行き、回り回って結局、俺のところに話が戻って来る。めんどくさいったらありゃしない。


なんたってエリノアはその目でドラゴンを見たことがない。ドラゴンとは何たるものか知らないし、実際に長城の西に行ったことがない。言葉に信ぴょう性がないのだ。それでなくとも妖しい女だと思われている。


現地に行っていきなりドラゴン、しかも、あのジンシェン。


ローラムの竜王で耐性をつけてるならいざ知らず、多くの人が想像するドラゴンは、二年前にゼーテを襲ったはぐれドラゴンが関の山であろう。


ジンシェン―――。


あれは確かにまずい。ソーンダイクが率先してエトイナ山派遣団のメンバーに自分の体験談を交えて話してくれれば賢いドラゴンがどんなものか理解してもらえるはずだ。


「問題ない。実際に俺もドラゴンの背に乗ってエトイナ山へ行った」


ほほーって顔をリーマンがした。俺が契約の旅を短期間で済ました理由が分かったようだ。


「おみそれしました」


リーマンが深々と頭を下げた。


「疑うようなことを申しましてお許しを」


エリノアはというと、俺がすでにドラゴンに乗っていることなぞ公言しまい。俺が英雄にでもなれば今後面倒なことになるからな。リーマンがそれを宣伝してくれたらもう一つ有り難い。


なに、俺の名誉のためにそう思っているのではない。派遣団は混成部隊なんだ。何かが起これば心もとない。旅の安全のためにも俺をドラゴンに乗った先輩として皆には一目いちもくおいて貰わないとな。


リーマンもそれは察していよう。そもそもこいつもエリノアには騙されっぱなしなのだ。


そのエリノアの鼻を明かすようなことが出来るんだ。エリノアが俺を快く思ってないのはリーマンの知るところだ。エリノアは俺を目立たせないよう目立たせないよう気を配っているのは察していよう。


こういう仕事はこいつの性にも合っている。頼まずとも喜んで俺がドラゴンに乗ったことを広めよう。


もちろん、エリノアはこの話を聞けば良い顔はしない。だが、まぁ仕方がない。全ては皆が無事にエトイナ山に登る事、それが何にも増して優先なのだから。


「納得してくれたようだな」


リーマンは笑みを漏らした。その笑顔、グッドって取るぜ。


「では、ご武運を」


そう言うとリーマンは去って行く。


「ちょっと待ってくれ、リーマン殿」


リーマンは立ち止った。きびすを返すと戻って来る。


「殿下も私に御用でしたかな」


鼻で笑ってしまった。戻ってくるリーマンの感じから、初めっから自分の用件だけでは済まないと分かっていたのがありありだ。


「察しがいいな。俺も聞きたいことがある。前に貴殿は言ったよな。時には王太后に味方し、時には俺と同盟を組むと。俺は貴殿に情報を与えたんだ。貴殿から何もないってこともあるまい」


「これはわたくしめとしたことが。失礼致しました」


楽しそうな笑みを見せ、貴族風な礼をした。こいつは貴族以上の王族なんだけどな。


「知りたいことがおありなのですね。私で良ければなんなりと」


では、お教え願おうか。


「バリー・レイズのことだ」


リーマンの目が輝いた。待ってましたってつらしてやがる。


「これは忌々ゆゆしき問題です。バリー・レイズは平民にとって英雄かもしれませんが、我々にとっては文字通りキングスレイヤー。ハーライト王太子殿下なぞは晩餐会で笑顔を振り撒いておられましても、内心は王太后陛下にご懸念をお持ちです。あのような者を今まで公になさらずにいた。陛下の後見人でもあるハーライト王太子殿下にさえ、話してなかったのです。なによバリー・レイズが王太后陛下のご実家パターソン家の私兵というのが恐ろしい。王太后陛下の一言で我々はいつ寝首をかれてもおかしくはなかったのです」


そりゃぁな、考えたらぞっとするだろうよ。魔法が使えるから民に殺されないとお前らは二千年もの長い間、高を括っていた。


「殿下は兄上イーデンと絶えず一緒におられます。これからも離れることはないように。バリー・レイズといえども流石に王族二人は持て余しましょう。タァオフゥアとファルジュナールは論外です。連携がとれてなかったようですな。バリー・レイズに各個撃破されたと聞き及びまする」


雨男と北風小僧はバッチリ連携が取れていたがなぁ。


「わたくしめもこれからはハーライト王太子殿下と行動を共にする所存」


ソーンダイクにくっ付いているって思ってはいたが、これからは実際にコバンザメのようにくっ付くつもりなんだ。


冗談はさておき、バリー・レイズが討った辺境のやつらはやはり本隊ではなかった。本命はクレシオンの二人。


「一人より二人に越したことはない。そうするとしよう」


忠告ありがとよ。だが、俺たちはお前に言われなくともずっとそうするよう心掛けている。俺たちには元々、人に明かせない込み入った事情があるんでな。って、そう言うことはいい。


そんなことよバリー・レイズがどうやってタァオフゥアとファルジュナールの王族を倒したかだ。

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