第136話 既定路線
魔法の開放は彼らにとって渡りに船だった。議会をたぶらかす良い道具となる。いや、議会だけではない。古い時代を打破するための起爆剤とする。魔法が使えるのはローラムの竜王と契約を結んだ者のみ。それは長い歴史からいえば一時、どうあがいても一代限り。だから、起爆剤なのだ。
本来は罪なき兵団、パワードスーツ、ヴァルファニル鋼でドラゴン世界に対抗しようとカールらは考えていた。その前に、先ずはエンドガーデンの統一である。王笏を集めるのだ。軍事の主力は科学。それはカールひとりが全てを握る世界。
エリノアも夢見ていたろう。若き日の二人はいつも一緒にいたと俺は聞いていた。しかし、二人の夢を打ち砕いたのはアーロン王だった。
いつの時点で二人がアーロン王を殺すと決めたかは分からない。アーロン王がエリノアを妃と決めた時か、罪なき兵団を地中に見つけた時か、罪なき兵団が動き出してカールが廃嫡されようとなった時か。
俺の説が正しければ、おそらくはブライアンが生まれた時だろう。ブライアンの秘密がばれる前にアーロン王を殺すつもりだった。
そんな時、罪なき兵団が地中から現れる。二人は運命を感じたのではなかろうか。しかも、それが突如動き出す。カール自身は廃嫡となった。一方、王笏はすでに目の前にある。
二人はずっと以前から、王笏がなんなのか、なんとなく分かっていた。しかし、王笏のためにアーロン王を殺すとまでは考えていなかった。王の座はいつかカールの手に転がり込んでくるからだ。王位継承の障害となるのはブライアン。依然として秘密は保たれていた。
そう考えると、いつの時点で決めたかはともかく、アーロン王を殺すと踏ん切りをつけたのは間違いなく罪なき兵団が南東の空に消え去ったその時だ。
カール自身もアーロン王に毒を盛られようとしていた。アーロン王から毒を受け取ったのを俺はカリム・サン以外誰にも話してはいない。期せずして、親子が同じように相手に毒を盛ろうとしていたことになる。
とどのつまり、カールがローラムの竜王と会おうとしていたのも、帰還式でアーロン王を怒らすのも二人の計画の内だった。
俺もうかつだった。俺を亡き者にしようというあの裁判。当然、カールはいない。それなのに躊躇なくエリノアは俺を殺せた。よくよく考えればその事実をもってしても、エリノアの傍にカールがいると言っているようなものだ。
実際、ローラムの竜王と俺のやり取りを知らなかった二人は代替えが効くと考えたのだろう。リーマン・バージヴァルでさえ他国で替えになられることを危惧していたほどだ。
カールとエリノアは代替えを考えた。もちろん、代替えはカール。ローラムの竜王が魔法を広く行き渡らすと、カールは知ると泣いて喜んでいた。過去の王たちがよほど滑稽に思えたのだろう。それは民衆に対してもだ。
魔法開放は民衆を騙すのに丁度いい。少なくとも二人は、他国に魔法開放の権利を渡さないためにもそのカードを握っていなければならなかった。
いずれにせよ、アーロン王の殺害は既定路線。議会や教会と繋がろうとしたのもそうだ。特に教会はキースとつながりがあるから無視できない。協会を取り込むためにも、ブライアンを王にするためにも、キースが魔法開放の英雄になることは何としても避けたかった。
カールが絵を描き、エリノアが行った。
エリノアは賢い女だと誰もが思ったろう。人目に付き過ぎてリーマンの目にもとまってしまった。エリノアが裁判中に見せた動きはリーマンによりアーロン王へ報告されてしまう。
不審に思ったアーロン王はエリノアを遠ざけた。代わって俺が権力の中枢に入ろうとしていた。しかし、エリノアは、慌てはしなかった。
俺が王太子になる。ブライアンの王太子は無くなろうとしていた。上手くやったはずなのに結果はまったく逆なのだ。普通は己のバカさ加減を呪うところだ。しかし、この時点でアーロン王は詰んでいた。エリノアは計画通りアーロン王を殺した。
そもそも既定路線だったから、何の感慨もわかなかった。俺とリーマンは王都から追い払らわれている。カールとイーデンの討伐に向かわされたのだ。リーマンはともかく、俺が王都から離れたのはカールとエリノアの策謀。
リーマンが議会に踊らされた。イーデンの妻子の件だ。俺もそのせいでイーデンの下へと向かわされた。それをバカな俺はただ単純に王族同士の仲違いが狙いだと考えていた。
この時点での彼らの本来の計画は、キースは裁判で死刑の判決を受けている。一方でリーマンがイーデンと戦っている。その間、アーロン王を殺す気でいた。ブライアンを次期王に推すのはキースを殺すため、議会や教会を抱き込むための単なるフェイクだ。ブライアンが十八歳になるまで時間が掛かりすぎる。
カールは機を見て舞い戻って来る。イーデンを味方に引き入れ、リーマンを殺し、議会や教会と共謀し、アーロンの息のかかった者たちをメレフィスから一掃する。
それからカールの手で魔法開放へと進み、科学と魔法で戦力を増強。武力を以てエンドガーデンを支配しようとしていた。
ところがだ。俺に死刑判決は出なかった。カールとエリノアは新たに策を練らなければならなかった。
アーロンを殺し、十八歳にならずともブライアンを一旦は王にする。新たな計画はブライアンのもと、魔法の開放し、民主化へと進むと見せかける。王笏も違和感なく飾りをすり替えられることが出来た。宝石の上に十字架を飾れば教会も大喜びだ。
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