第135話 リアクターユニット


カールが帰還式の謁見の間から消えて今日まで何が起こったか。カールが人と違う利口なところだ。やつはただ単に王笏の頭をちょろまかした訳ではない。


アーロン王が死に、ブライアンが王となった。ブライアンは王が持つ外交権、統帥権、行政権いずれも内閣に委託した。国家が姿を変えたのである。王笏の飾りが変わるのは自然の成り行きのように思えた。


そう。全てがエリノアの手腕と誰もが思っている。だが、それが意味することとは。


カールとエリノアは未だ繋がっているということ。俺はブライアンに言った。兄上によろしくと。ブライアンは確かにうんと頷いた。思ってた通り、カールはちょくちょくエリノアに会いに来ている。


俺にしてみればブライアンはアーロンの子ではないとさえ思える。そして、誰の子かその可能性さえ考えてしまうほどにカールとエリノアの結びつきは強い。


カールとエリノアの二人は王笏の頭をくすめるために王さえも亡き者にした。いや、それはどうもしっくりこない。王笏のためだけにアーロンを殺したのではないのかもしれない。


いずれにしてもアーロンは、二人に殺される運命となっていた。王笏の方はそれよりかはまだ優先順位が低かった。ブライアンがアーロンの子ではないと俺が思う理由でもある。


その推理が正しければ、ブライアンが王であることも、この民主化も、全てが嘘ということになる。キースの生き返りと罪なき兵団が動いたことで歯車を狂わされなかったら、アーロンの跡を継ぐのは間違いなくカール。


カールは必ず舞い戻って来る。今度姿を現す時には、賢いドラゴンですら手出しできない軍団を率いているに違いない。その時は他の王族もカールに平伏せざるを得ない。カールは他の王笏も欲しているんだから。


俺は知っている。あの幾何学模様の円盤を。あれは象徴でも何でもない。


パワードスーツのリアクターユニット。


パワードスーツの心臓部だと言っていい。問題はやつがそれをなぜ知っていたかと言うことだ。


おそらくは王家に伝わる伝承からある程度は掴んでいた。XN-10トルーパー通称ハンプティダンプティ―が東南の空に消え、その後にやつは自分の考えが正しいことを確信することになる。


やつはお得意の魔法を使ってハンプティダンプティ―を追ったんだ。俺が契約の旅に出る前のことだった。


ラグナロクをその目で見た。パワードスーツも。アンドロイドNR2ヴァルキリーにも会った。もしかして、ラグナロクを制御するAIとも話したかもしれない。


やつはこの世界で起こった全てを知った。推測の域を出なかった幾何学模様の円盤がパワードスーツの心臓だとその時、明らかとなったはずだ。


仮にだが、俺が元居た世界で戦争が起こったとしよう。月の裏側のコロニ―、FシティーとHシティーの間でだ。


強力な磁場を発生させる兵器が使用された。経緯とかはこの際どうでもいい。仮定での話だからな。


何らかの原因で戦場に時空の歪が出来、裂け目を生じさせた。運悪く補給部隊か、小艦隊がそれに飲み込まれた。気が付けば別世界、ドラゴンが統べる惑星だ。


彼らは生き残るために戦ったのだろう。多くの死者を出しつつ次世代へ命を繋いだ。それから数百年、ローラムの竜王と和解しようとする集団が現れる。彼らはパワードスーツのリアクターユニットを抗戦派から奪取した。


パワードスーツの機能にハンプティダンプティ―の制御がある。パワードスーツを着用した者が部隊を指揮する。ハンプティダンプティ―と一緒に戦うことが前提にあったからだ。


他に母艦のAIもハンプティダンプティ―を動かせる。しかし、AIは基本、誰彼関係なく命令を聞くように出来ていない。指揮命令系統で命令権の順位が定められているからだ。


だったら上の順位を持つ者を殺せばいい。最上位に立ち、AIに命じ、リアクターユニットをパワードスーツから外せば、ハンプティダンプティ―は止められる。


こうしてドラゴンと人間の戦争は終わった。人はローラム大陸の東端エンドガーデンを得、ローラムの竜王と最初に契約を結んだ五人がそれぞれ国の王となる。


その五人も互いに盟約を結んだ。お互い国を尊重し、奪い合うことをしないと。そして、その証としてリアクターユニットが平和の象徴鳩とともに王笏に飾られ、それぞれの王家が持つことになった。


全てが俺の推測である。だが、当たらずしも遠からずってところだろう。リアクターユニットは、使いようにもよるのだが、一つでパワードスーツを四百年から五百年は動かせる。五つで一機を運用するとなれば、それは二千年近くとなる。


カールは二千年の帝国を作ろうとしている。ローラムの竜王に会いに行ったのも、罪なき兵団を得たため。宣戦布告は言い過ぎだとして、少なくとも契約の破棄を宣言するためのものだった。


あるいはやつのことだ。単に自分を試したかったのかもしれない。前回のローラムの竜王との謁見では震えが止まらなかった。自分の器はどれほどのものか、ローラムの竜王に再度謁見し、ほんとに抵抗できるのだろうかと自身の胆力を測ろうとしていた。


実際はそれも叶わず、王は王でもアーロン王に啖呵を切るだけに止まったのだがなぁ。


いずれにせよ、ローラムの竜王とは縁を切るつもりであった。やつにとってドラゴンであろうと人であろうと王は己一人だけ。そして、その想いはエリノアも同じだった。

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