第59話 強化外骨格

決闘裁判の相手が誰か分かった。サー・チャドラーという男である。通り名は神の手。身長百九十八センチで、体重百二十キロ。巨漢だが、素早く動き、バック宙も出来るらしい。そのうえ器用で、相手の武器に合わせて自分の得物を決めるという。ロングソード二刀で戦うこともあった。


どんな武器も使いこなした。神の手のゆえんである。因みに決闘裁判では主催者が武器を用意する。ずらりと並んだ武器を観戦者の前で互いに選ぶのだそうだが、チャドラーは相手に選ばせて自分も同じ武器を取る。よほど自信がないとできないことだ。実際、チャドラーは負けたことはない。


いや、負けたらやつはいない。決闘裁判はどちらかが死ぬまで続けられる。強いと噂されればされるほど強敵が現れる。どんな敵が来ようとも勝ち続け、チャドラーは勲功爵代決闘士の頂点だと言わしめるまでに至った。


カリム・サンも勝てる見込みはないと言った。何も驚くことはない。それぐらいのやつが出てくるとは思っていた。この国で最も強い男がアーロン王の代決闘士となれば誰も俺の代決闘士になりたがらない。言わずもがな、アーロン王は裁判当初から俺を殺す気でいた。


サー・チャドラーにとっても名誉なことだ。古今類を見ない、国王の代決闘士に選ばれたのだから。しかも、相手が格下も格下、キース・バージヴァルだ。


勝つのは決まっている。それなのにいつもよりさらに厳しい訓練に励んでいるらしい。カリム・サンはその訓練風景を見たという。


三人の近衛騎士と同時に戦ってみたり、死刑囚を束にしてかからせ全員を切って捨ててみたりもした。もちろん、肉体を鍛え上げるのも余念がない。華々しい場でアーロン王に自身の肉体美をアピールしなければならないのだ。


因みに三人の近衛騎士とカリム・サンは知り合いであり、手合わせしたことがあった。どの近衛騎士もカリム・サンより手練れであったという。


そもそも、こういう現実があったからこそキース・バージヴァルは決闘裁判に持ち込まない、持ち込めないと誰しもが思ったはずなのだ。ところが、俺はそれをひっくり返した。


もちろん勝算はある。古代遺跡で見付けた古代の遺物。俺がいた世界ではこう呼ばれていた。


パワード・エクソスケルトン。別名、強化外骨格。フライホイール蓄電システムを採用し、電気アクチュエータで可動する。フライホイールは磁場からの磁力で動くので地上ならいつでもどこでも強化外骨格は起動させられる。


俺の世界では、本格的な戦闘にはスーツタイプで、民間人が含まれる市街地では外骨格タイプが使われていた。決闘裁判では自前の防具を用意しなくてはならない。サイズは人それぞれだ。武器は支給だといっても防具の方はそうはいかない。


強化外骨格が動きさえすれば、サー・チャドラーといえども赤子の手を捻るようなものだ。ただ、カリム・サンはこのことを知らない。


初めは古代の遺物、オブジェか、医療器具か、何か鉄のガラクタだと思っていた。まぁ、キースはカールと違って学問の要素はゼロだったからなぁ。面白半分で拾って来たと思われても仕方ない。


強化外骨格を俺が決闘裁判で使うと言いだしてからは、カリム・サンは強化外骨格を神に関する何かだと認識を変えたようだ。


強化外骨格はイザイヤ教の聖典には出てこない。罪なき兵団とか実用的なものではなく、どうやら祭祀さいしに用いられる神具的なものだと誤解している。決闘裁判に使うことは懐疑的であったが、反対はしなかった。勝てる見込みのない戦いでもある。神頼みとしては最適だった。


もちろん、神頼みは神頼みでおいといて、やつは別の方法を考えている。シルビア・ロザンの件では議会にも、俺にも一杯食わされたんだ。やつにも意地がある。おそらくは俺を決闘裁判に出させない。自分の手で最高の代決闘士を探すべく奔走するのだろう。


悪あがきといえるが、やつとしても何もしないわけにはいくまい。だが、今回もわりぃな。どんな凄腕の代決闘士を見つけて来たとしても俺は断る。俺には強化外骨格、パワード・エクソスケルトンがある。問題があるとすれば、俺の目論見通りにそれが動くかどうかだ。


それには初期設定がガキとなる。遺跡の状況からして、ハンプティダンプティも強化外骨格も、空輸中にトラブルに会って輸送機が墜落、そのまま放置されたと考えられる。


この惑星にドラゴンが居ることを知らなかった。不意を突かれたのかもしれない。戦闘時での空輸はあり得ない。ハンプティダンプティは自ら戦地に赴く。月であろうと宇宙ステーションであろうとセンターパレスから飛び立ったように、敵地へ飛んで行って作戦を遂行する。


放置されていた状況から見ても、回収どころではなかったのだと思う。大混乱していたのだ。俺にとってはラッキーだった。


パワードスーツももちろん、強化外骨格も起動させる際、生体認証がなされる。登録のない者の使用を防ぐためだ。戦時中、言いかえれば、使用する兵が確定している場面で、初期設定がなされていないはずはない。


地球からこの星に移民でやって来たとしよう。不測の事態を鑑みて、ある程度の兵数はそろえていたはずだ。実際、パワードスーツも強化外骨格も使える者は使ったであろう。


放置されたとすればそれば予備か、使える者に対しての余剰分。もしかして、ドラゴンからの不意打ちで戦う前に多くの兵が死んでしまったのかもしれない。指揮命令系統も失っていた恐れがある。


民間人が付け焼刃で戦っていた。彼らにとっては悲劇であったが、全ての状況から察するに発掘された遺物は初期設定はなされていない。アンドロイドの美女がわざわざ王都にやってきたのもその推測と合致する。


つまり、俺が拾った強化外骨格は遺物ではあるが、新品でもある。俺が初期設定すれば間違いなく動く。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る