第34話 もう大丈夫ですよ

 屋敷に辿り着いて分かった。すでに魔獣が入り込んでいる。


 先ほど逃げた裏口に通じる通りを小走りで抜けながら魔獣を数体倒した私は参加者たちを避難させておいてよかったと安堵したのと同時、騎士団はすでに倒されている可能性が高いと感じた。


 テイオ様が仮にいたとして命の保証は限りなく低くなった。嫌な予感がして背中を汗が流れ落ちる。


「アラン様、行きましょう」


「おい。ちょっと……!」


 ドレスの裾をたくし上げて着替える時に仕込んでおいた銃弾を取り出した私に動揺したアランが慌てる。それを無視して先に進んだ。


 屋敷の中は狐型の魔獣に侵食されていてテーブルは倒され、グラスは割れ、食べ物は散らかっていた。魔石獣の幼体はまだ到達していないのか。


 一か所に数体集まっていた魔獣たちは足を踏み入れた私たちに気付いて牙を剥く。剣を抜いたアランの隣で私は銃を構えた。


 狐型の魔獣はそれぞれ額、前脚、尻尾に透明な魔石が付いている。一般的な倒し方は魔石以外の箇所を狙うこと。魔石を狙ったところで傷一つ付かず無駄だからだ。


 狐型は動きが素早い。まずは動きを封じる必要がある。私は再び太ももに着けているベルトから氷系の弾を取り出し装填した。


「だから!」


「さっきから何を怒っているんですか? アラン様、油断していると噛みつかれますよ」


 弾は六発分セットしてある。照準を合わせて足元を狙って引き金を引いた。床に当たった弾は弾けて周囲に氷を発生させる。


 凍らされると気づいた魔獣は避ける。避けた先にアランが剣を構えており横に一線した。魔石だけを残してちりのように消えていく。


 初めて共闘したが、アランとは息がぴったりだ。


「さすがアラン様。戦い慣れているんですね」


「ああ。強くなると誓った相手がいるからな」


 私たちは協力して群がっていた魔獣はすべて撃退した。静かになってから微かにすすり泣く声が聞こえてきた。


「アラン様、泣き声が聞こえませんか?」


「たしかに」


 声を辿っていくと、壊れたテーブルの折り重なった隙間を覗きこむとテイオ様がうずくまって泣いていた。


「テイオ様、ご無事ですか?」


「っ、うっ。ひっく、カレナさ、ま」


 声をかけるとせきを切ったように涙が溢れてテイオ様が泣き出した。テーブルを退かして手を差し伸べるとテイオ様は泣きながら抱きついてくる。


 幼い体を抱きとめてあやすように背中を優しく叩くとさらに泣かれた。


 子供のあやし方なんてわからないけど、恐怖を感じたテイオ様のことを思えば安心感と遅れて襲ってきた恐怖でごちゃ混ぜになっている感情のコントロールなんて出来るわけがない。


 こんなときなんて声かければいいんだっけ。


「えっと、テイオ様。もう大丈夫ですよ」


 正解なんてわからないまま私は背中を優しく叩きながら声をかけた。

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