第33話 行ってきます
「申し訳ありませんネヴィル公。皆を不安にさせないために火事と偽りましたが、突如森の方で魔石獣の幼体が出現しておりました。到達する前に皆の避難を優先した結果嘘を吐く結果となりました」
「魔石獣の幼体だと!? 騎士団は何をしている! それよりもテイオだ。テイオの身に何かあれば私は!」
動揺を隠しきれないネヴィル公に私はチャンスとばかりに畳みかけることにした。こうでもしなければ屋敷へ行くことができない。
それに仮にテイオ様が取り残されていて魔獣や魔石獣の幼体に怪我を負わされていたらせっかく魔石に興味を持っていそうだったのに嫌いになる。それだけは絶対に阻止しなければ。
「ネヴィル公、先ほどアンスロポスに何ができると仰いましたね。確かに私はアンスロポスですが、私にしか出来ないこともあります。もし、テイオ様を探しに行く許可を頂けましたら今すぐにでも行きます」
「何を」
「相手は魔石獣の幼体。彼らは魔力を吸収します。ですが、魔力を持たないアンスロポスは魔道具を使って彼らと渡り合うことが出来ます。どうしますか? こうしている間にもテイオ様は危険にさらされている可能性がありますけど」
「カレナ」
アランを制止してネヴィル公の返答を待つ。貴族の中でも地位が格段に高い彼の命に逆らうことは例えアランでも難しい。
それを利用させてもう。さあ、ネヴィル公。早く決断を。
「本当に君ならテイオを探しに行けるというのだな?」
「ええ。もちろんです。ネヴィル公」
「では頼む。孫のテイオの捜索を命じる。連れて戻った暁には君の望むものを何でも与えよう」
「その命、承りました」
内心、よっしゃー! とばかりにガッツポーズをしながら私はドレスの端を両手で掴んで優雅に一礼する。
ネヴィル公が命じたのだから私は堂々と屋敷に戻ることができる。気が緩んだら口元がニヤケそうだ。
「と、いうわけで今から屋敷に戻ります」
「ちょっとカレナ!? 魔石獣の幼体がいるのよ? 危険だわ」
「君を危険に晒すわけにはいかない」
「ですがアラン様、私たちの婚約パーティーに参加した方の身に危険が及ぶ可能性があるのに見過ごすことはできません。テイオ様が残っている確証はありませんが、可能性があるのなら探しに行くべきです。そして、この中で魔石獣の幼体の影響を受けない私が一番適任です」
「だが……」
アランも迷っているようだ。行かせたくない気持ちと、テイオ様が残っている可能性と天秤にかけている。もう一押し必要か。
「カレナ」
サリーの固い声音に私はビクリと肩を揺らした。彼女には私の意図が分かっているだろう。だからこそ説教か、止めにかかるか。
サリーの説得は骨が折れるから出来れば勘弁してほしい。
「サリー。あの、これは。テイオ様の身を案じてのことで」
「はぁー。あんたのことだからどうせ止めても行くんでしょ。はい、これ」
ため息混じりに言うとサリーは小さな鞄を渡してきた。開けると対魔石獣用の銃弾がびっしりと入っている。
いつか戦闘になった時ようにコツコツと作っていたものだ。工房に置いてきたはずなのにどうして。
「ルーシー様からおおよその事情は聞いてるの。まさかとは思って持ってきていて正解ね」
悪戯が成功した子供のように笑うサリーにお礼を述べて私は鞄を受け取って屋敷に戻ろうと背を向ける。ここから走っても間に合うかどうか。
「乗れ」
「走っていくつもりか? これで行く方が早いだろう」
「いや、だって。魔石獣の幼体ですよ!? アラン様だって危険です」
「婚約者一人で行かせるわけにはいかないだろう。大丈夫だ。一応戦闘には慣れている」
アランはそう言うと私の手を引いて馬に乗せると有無を言わさず馬を走らせた。
「カレナ、お兄様! 気を付けてね」
アリスの声に振り向いて私は力強く頷いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます