第2話 遭遇

(いや、ドラゴンになったのはもう仕方ない。それよりも重要なのは、私が今生きているということだ)


(転生して第二の人生を獲得できた……神様がやったのか知らないけど、感謝しなくっちゃ!)



 莉々子には夢があった。それは陽キャになることである。陽キャのように色んな人と触れ合い、友達を作るのが夢なのだ。


 今の状況は、言うならば死をもってして人生がリセットされただけのこと。前世の記憶はあるのだから、それ活かしてまたやり直せばいい。



(この人生……いやドラゴン生? とにかくこの世界では、明るく元気な陽キャになってやるんだから!)


(そうと決まれば早速脈作りだ! 人間はさっきの人達みたいに怖がられるだろうけど、同じドラゴンなら分かり合えるでしょ!)



 ドラゴンの巨体のまま、周囲をきょろきょろ見回す莉々子。すると自分が破壊した洞窟の裏側に、自分と同サイズの影を数体発見。



 翼もあるし鱗もある。莉々子はすぐにドラゴンだろうと確信した。



「グオオオオオオオオーーーッ!」

(すみません、ちょっといいですかー!)



 足を使い、ドスドス音を立てて走る莉々子。数分かけて見つけたドラゴンの群れに接触する。



「グオオオオオ……オオンッ!」

(あのっ、ちょっとお話を……!)




 声をかける直前で感じる。目の前にいるドラゴン達から向けられる、鋭い視線を。




「……グルル……」

(え……あ、あの……)



 ドラゴンの数は全部で3体。性別はわからないが、ありったけの嫌悪感を莉々子に向けている。



「グルルルル……?」

(急に何? 今ウチらだけで会話してたんだけど)


「ガルルルル、ルゥー」

(邪魔しちゃいけないって雰囲気がわからなかった? この陰キャが)


「グアアーーッ!」

(こいつ見るからにコミュ障で~すって姿してるもんね~! ぎゃはは!)





「……グルッ」

(えっ……)



 同じドラゴンだからだろうか。莉々子にはこのドラゴン達の言っていることが理解できた。


 その上で飛び出してきたコミュ障や陰キャという単語に、思わずめまいがしそうになった。



「グルル、ルゥ……」

(あの、気に障ったなら、謝ります……)



「ガルルルル!!!」

(だったらその醜い姿を見せるな!!!)




 3体いたドラゴンのうち、赤いドラゴンが莉々子に向かって口を開き――


 そこから火炎を吐き出した。




「ギャアッ!!」



 莉々子の身体が炎で燃える。鱗が機能しているのか、今すぐに死にそうな痛みではない。だが焼かれる苦しみは相当なものだ。



「グルルルルルアアアーーッ!!」

(ぎゃはは!! 何コイツ、クソザコじゃん!! これでドラゴン名乗ってるとかおかしーっ!!)


「グオオオオオッ、オオオオーーッ!!」

(ちょうどいいや、今彼氏に振られてイライラしてたんだよねー!! やるぞオラァ!!)




 残りの2体、青いドラゴンと黄色のドラゴンも、水流と落雷を操り莉々子を攻撃する。突然の展開に莉々子は抵抗できる手段がない。




(ま、魔法……! このドラゴンさん達が使っているようなの、私も……!)



 莉々子はこの一方的な蹂躙から、どうにかして抜け出そうと考えるが、炎や水や雷による攻撃の痛みが邪魔してくる。


 そして肝心の力の入れ方もよくわからない。口を開けてみてもそこから何か出るわけではなく、ただ口の中を見せびらかすだけである。



「グルアアアアアアアーッ!!!」

(ぎゃはははははは!!! 何、何なの、ウチらの真似!? うわははははは、あーっはっはっは!!!)


「ギャオオオオオオン!!」

(こんなっ、卵から産まれ立てのような、赤んぼみたいなドラゴンがいるの!? いや目の前にいるわー!!)


「グオオオオオッ、オオッ!!」

(そうだ、コイツ捕まえて持って帰ろーぜ!! 皆でもっといじめてやろう!!)




 ドラゴン達が見境なく攻撃を繰り返すので、付近の森林は跡形もなくなっていた。焼け落ちてその灰すらも水に流されていく。


 甚大な被害が及んでいるが、莉々子はそれどころではない。彼女の脳裏に浮かんでいたのは――




(あっ、ああああっ、やめて――!!!)



 中学の時クラスにいた、憧れても決して届かないような、キラキラの女子生徒達――






「「「……グルッ?」」」



 不意にドラゴン達は攻撃をやめた。莉々子は驚いて目を開ける。




 真っ先に目に入ったのは、自分を守るようにして立っている青年だった。




「――火に水に雷か。誠に残念なことだが、貴様らに用はない」


「やっと見つけたこれを、価値のわからないようなグズ共に、弄ばれてたまるか」




 背中及び少しだけ視界に入った顔付きからして、かなりの美青年だ。黒い髪を流して、ローブを着用している。



 そんな彼はと言うと、ドラゴン達にそれぞれ攻撃を加えていた。




「「「グオオオオオオオッ!!!」」



 赤い火のドラゴンは、氷で固められ体温を奪われる。青い水のドラゴンは、蔦で包まれ生気を奪われる。黄色い雷のドラゴンは、土で覆われ身体が動かない。



「これ以上苦しみたくないなら、さっさと尻尾を巻いて逃げるがいい。言っておくが貴様らのような三下が、俺に敵う道理はないぞ」




「グッ……グオオオオッ!!」

(チッ、仕方ねーここは撤退だ!!)


「ガアアアアアアッ!!!」

「覚えてろよクソ人間!! あと根暗ドラゴン!!)


「グアアアアアアアーーーーッ!!」

(必ず痛い目に遭わせてやるからなー!!」




 ドラゴン達は叫び声を上げた後、翼を羽ばたかせ飛び去っていった。


 そして青年は莉々子を見つめる。かなり体格差があるのか、青年は首を曲げて見上げていた。




 正面から見つめると美しさは増すばかり。青年深い青の瞳に莉々子は吸い込まれそうになる――が。



「クックック……これで邪魔者はいなくなった。ここからがお楽しみだ……!!」



 その整った顔付きが台無しになるような、悪い笑顔を彼は浮かべた。




(……えっ)



 お楽しみとは一体どういうことか、莉々子が考える前に――



(……えっ!?!?)




「グオオオオオーーーッ!!!」



 青年は莉々子の身体によじ登り、鱗を剥がし始めた。

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