あつあつな冬休み

第50話 リベンジクリスマス

 クリスマス当日。今日は悠の希望で、東京の大きなショッピング街に行くことになっている。


 待ち合わせは相変わらず駅前で、紗奈は時間の五分前に到着した。


 既に到着していた悠を見た紗奈は、悠が紗奈の編んだマフラーをつけて来てくれたことに、照れくさそうにはにかんだ。


「暖かいよ。紗奈がくれたマフラー」

「良かった」

「ふふ。行こうか」


 東京のショッピング街は、紗奈にとっては初めて行く場所なので、乗り換えも道順も、悠にほとんど任せっぱなしになってしまう。


 悠は何度も来ているようで、慣れた様子で東京まで紗奈を案内してくれた。


「ここ、色んなお店があるから……気になるところがあったら言って」

「うん。ありがとう」


 パンフレットをくれたので、紗奈はそれに軽く目を通す。


「紗奈。何時頃に家に帰れば大丈夫? 家族でも過ごすんだよな?」

「うん。お父さんが今日も研究室を空けてるから、帰りは六時頃だと間に合うかな」

「わかった。それならこっちも間に合うかも」

「え? 何が?」

「楽しみにしてて」


 紗奈は首を傾げるが、何かを用意してくれたことは明らかなので、素直に楽しみにしておくことにした。


「気になるところあった?」

「この服屋さん気になるけど……女の子向けだし」


 聞かれたので素直に答えるが、悠も楽しめる場所の方がいいだろう。と思って、遠慮ぎみになってしまう。悠はマップを覗き込むと、こくんと頷いて「行こう」と言った。


「いいの?」

「俺は可愛い洋服を見て可愛い顔をする紗奈を見てるから、いいの」

「…もう。悠くんの言葉は甘すぎるよ」


 紗奈はずっと赤面させられっぱなしになるので、軽く拗ねてしまう。髪を下ろしてくれば顔を隠しやすいのに…と唇を尖らせた。あの告白の日と同じく、今日も紗奈はポニーテールである。


「ごめん……」


 紗奈を可愛がるのはほとんど無意識だ。付き合っているのだから、愛情表現くらい自然に出てくる。と言うより、付き合いたてで浮かれているせいでもある気がした。


 目的の店につくと、紗奈は早速店内を見て回る。悠はその後から着いていき、軽くどんな服が置いてあるのかを把握した。確かに紗奈が好みそうなガーリー系の服が多かった。


「あ、これ似合いそう」


 独り言のつもりで呟いたものだが、紗奈はその服をサッと手に取って、試着してみてもいいかと聞いてくる。


「それでいいの?」

「うん」


 悠が選んだのは、白で丸襟のレースがあしらわれたブラウスワンピースとショート丈のピンクカーディガンだ。


 試着室から出てきた紗奈は、悠に感想を求める。


「どう、かな?」

「うん。やっぱり似合う」


 褒められたのが嬉しかったらしく、「ふふっ」と小さな声が漏れている。それがまた可愛いので、悠も自然と笑みが零れた。


「でも、紗奈が自分で選んだ服も見たいな」

「私? 私が好きなのは……。あそこの服とかかな?」


 試着した服では店内をうろつけないので、目に付いた中で一番好みの服を指さした。


 袖にボリュームがあるクリーム色のブラウスに、ブラウンのチェック柄のミニワンピースだった。ワンピースはノンスリーブなので、ブラウスの袖がゆったりと見える。


「持ってきてもいい? 紗奈が着てるところが見たい」

「うん。じゃあ、お願いします」


 悠の期待通り、紗奈はその服を試着して見せてくれた。


「可愛い。今日付けてるリボンに合ってるね」

「そうかも」


 紗奈はまた「ふふっ」と笑って、元の服を着るために試着室に戻る。


 そんな紗奈が元々着ていた服も可愛らしく、クリスマスらしい赤のワンピースに、それと同じ赤色のボレロを羽織っている。ポニーテールを結っているのは黒のリボンだった。


「悠くんは行きたいところある?」


 沢山試着して満足したらしい。紗奈がそう聞くと、悠は少し間を置いてから答えた。


「ゲームセンター行ってもいい?」

「うん! さっき通ったとこだよね」


 来た道を少し戻ればゲームセンターがある。二人でゲームセンターに入ると、悠の誘導でクレーンゲームを見て回る。


「これこれ」

「わあっ……! 可愛い」


 紗奈が好みそうなウサギのぬいぐるみが数種類並んでいる台がある。それに迷いなく近づいて、悠はとあるぬいぐるみを指さした。


「あのリボン付けてるやつ。紗奈とお揃いだな」


 クリスマス限定らしく、サンタ帽と赤いボレロを身につけていて、つけているリボンは黒にも見える深緑色だった。


「確かに似てる」

「あれくらいのサイズは持って帰れる?」


 ウサギのぬいぐるみはちょうど片手では足りず、両手なら乗るかも。といったサイズ感だ。


「うん。ベッドの上がスペース空いてるから。そこに飾ろうかな!」

「よしっ! じゃあ取るか」


 宣言通り、悠はたったの二百円でぬいぐるみを落としてしまった。


「凄い。悠くん、上手だね」

「父さんに教えて貰った」

「私のお父さんも得意なんだけど、もっと得意なのは菖蒲くんのお父さんなんだよ。機械に強いんだって」

「へえ。白鳥くんもこういうの上手いよな」

「うん。なんで知ってるの?」


 紗奈へのクリスマスプレゼントを選ぶ時、余った時間に付き合え。と言われてクレーンゲームをやったのだ。


「こないだ少しね」

「ええ? いいなあ……」


 と、紗奈は菖蒲を羨んだ。


「今一緒にいるじゃん」

「そうだけど。私より菖蒲くんの方が先だった……」


 可愛いヤキモチだ。と微笑ましい気持ちになったが、きっと「可愛い」と言えば拗ねた顔をするのだろう。それも見たいが、あんまりいじめては可哀想なので、慰めるように優しく紗奈の頭を撫でてやる。


「今度は白鳥くんともしてない事、一緒にやろうな」

「うん……。約束だよ?」

「わかった。約束する」


。。。


 その後はプリクラを撮ったり、カフェに入ってパフェを食べたり、また服を見たり、雑貨を見たりとショッピング街を楽しんだ。


 悠は腕時計で時間を確認すると、文字盤を紗奈の方に向けて言う。


「紗奈。そろそろ帰ろうか。五時を過ぎたし」

「え! もうそんな時間!?」


 楽しい時間はあっという間に過ぎる。それを体感して、紗奈は少しだけ寂しくなった。悠にもそれが移り、まだ一緒にいたい。と思ってしまう。しかし、家族との時間も大切にして欲しい。約束でもあるから仕方がなかった。


 悠は寂しさを心の奥にしまって、優しく微笑む。


「また来よう」

「うん」

「さて、ここから出たらさっき言ってたお楽しみだよ」

「あ。そうだった。何があるの?」

「いいから、進んでみて」


 ショッピング街を抜けると、駅の周りの並木道がイルミネーションでライトアップされているのが、紗奈の瞳いっぱいに映った。


「うわぁーっ! 綺麗ー!」

「あそこ程の規模は無いけど…イルミネーション。こないだは楽しませてあげられなかったから」

「凄い……。素敵なサプライズだよ。ありがとう!」


 満面の笑顔が見れたから、悠はここに連れてきて良かった。と思う。


 紗奈の満面の笑みは、イルミネーションよりもキラキラと綺麗に輝いて見え、悠の胸がいっぱいになった。

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