仲良くなりたい
第7話 押し問答
紗奈が悠に淡い恋心を抱いた次の月曜日。
悠は放課後を待ってから菖蒲に話しかけた。
「ねえ、白鳥くん」
「ん? え…小澤」
今まで接点の無かった相手に声をかけられ、菖蒲は驚いた。紗奈に言った通り、多少の苦手意識もあったので、菖蒲は気まずそうに悠を見る。
悠は地味な見た目をしているが、身長はなかなか高い。成長期の菖蒲よりも少し高いので、自然と悠を見上げる形になった。目元は見えないが、鼻筋や口元はすっきりと整っているような気がする。
それが逆に不気味に思えてしまって、菖蒲はしり込みをした。
「ちょっと、いい?」
「別にいいけど…何? 俺ら話したことないよね」
軽く抵抗してみるものの、悠は全く気にする様子はなかった。
「ああ、うん」
と小さな声で返事をしているだけだ。仕方が無いので、菖蒲は大人しく悠の用事を聞き出す事にした。
「どうした? てか、帰りながらでいい?」
「あ、いや。大したことじゃないから。ただ……」
そう言った悠は、鞄からラッピングの施された包みを取り出して菖蒲に渡す。当然、菖蒲にはどういう状況か分からない。
接点の無い、しかも同性からプレゼント用の包みに入った何かを差し出されたのだ。すぐに反応できなくても仕方がないだろう。
「何これ?」
「これ、君の幼なじみに渡して欲しいんだ」
「は……はあ?」
幼なじみとは紗奈の事だろう。事情を何も知らない菖蒲は、驚いたし憤る。
自分を仲介役に使うな。そう思った。
小学生の頃にもそういう役回りをさせられた記憶がある。その度に、紗奈と菖蒲はお互いに文句を言っていた。
そもそも紗奈は余程の事情がない限り、人伝いに物を貰って喜ぶような性格でもない。菖蒲は当然、断るつもりだ。
「やだよ。プレゼントくらい自分で渡せよ」
「俺が渡したら、また嫌な噂をされるし……」
「なら、あいつの事は諦めたらいいじゃん。少し話しかけられただけなんだろ?」
それだけで好きになったのか? なんて思ったが、それは誤解である。
「あ。ごめん……。そうじゃなくて、この前ハンカチを汚したから、お詫びに。渡して貰えないかな」
「は? 何したの?」
幼なじみの私物を汚した。なんて聞いたら、彼への印象は更に悪くなってしまう。
紗奈に何か嫌なことをしたのだろうか。とまた誤解をして、菖蒲は訝る。
「怪我の手当を」
それを聞いて、菖蒲はプレゼントを差し出してきているその手をちらっと見た。
確かに包帯を巻いている。その手の怪我を、紗奈が手当てしたということか。菖蒲はそう思って、視線を悠の怪我をした手から前髪に隠されて見えない瞳の方へ移動する。
「…それなら、尚更自分で渡してお礼を言うべきなんじゃないか?」
それが誠実と言うものだ。菖蒲はそう思って、悠にそう提案した。
しかし、悠はその言葉に肩を竦める。
「そんな事をしたら、逆に不快な思いをさせるに決まってる」
「でも」
「また噂にでもなったら、彼女だって迷惑するだろ」
あれから数週間が経って、やっと噂話をされなくなったのだ。
廊下で色々なクラスの男子達に絡まれる紗奈をよく見かけていた悠は、紗奈の迷惑そうな表情を思い出してそう言った。
優しくしてくれた少女が不快な思いをするのは忍びないと思うから。
しかし、お礼やお詫びだと言うのならば、やはり直接紗奈に伝えるべきだし、渡すべきだ。菖蒲はそう思って、頑なに考えを変えない悠に対して苛立ちを覚える。
「……人目がなければいいんだな? お前、今日付き合えよ」
菖蒲はいきなりそんなことを言って、睨んできた。
※これまでの話で作品フォローを下さった方、応援ボタンを押して下さった方、ありがとうございます!
これから暫くは毎日夕方頃に一本の投稿になると思います。これからも、こんな拙い作品をよろしくお願い致しますm(*_ _)m
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます