おじいちゃん、肉を食う

「これは大発見! 四人だと宝箱も四つ出るんじゃな! ……残り物には福がある。ワシは最後にしようかの。タイツマンから開けてみい」

「え? 自分が開けていいんですか?」

「命を賭けたじゃろ。お嬢もな。一人一つずつじゃぞ?」


 "新しいタイツ出ねえかな?w"

 "ワロタwww"

 "後で石板の数字も確認して欲しいです!"

 "これでジジイのだけハズレだったら笑うw"

 "あのボスから出た宝箱……期待しちまうな!"


 まずは、北村。西奥の魔物を倒したときのみ現れる白い宝箱に触れる。飛び出した光は形を変え、ベヒモスのたてがみを模したカツラとなった。


「さっそくかぶってみます! ……うおっ。なんだこりゃ! 張り付くぞ?」


 居ても立っても居られない様子でカツラを装着すれば、顔の周りをもっさもっさと長い毛が覆う。頭頂部がモヒカンのように尖り、背中の中央あたりまで伸びている。

 正直なところ羨ましい……が、誰がどう見ても変人じゃな。


 "ダサッ!www"

 "狙って変なのばっか出してんのか?w"

 "ダサムラやんけw"

 "吹いたわwww"

 "呪いの装備みたいだな!w"


「ダサムラの次はエリカでええか?」

「……あたしなんかがいいんでしょうか?」

「これ以上変な物を出されても困るんじゃが、お嬢が開けないならダサムラに……」

「や、やります!」


 続いてエリカ。宝箱から出たのは……ハルバードじゃ。赤い柄の先に白い刃。金色の装飾が施されている。

 運命めいたものを感じるのぉ。


「これ……。おばあ様、使ってください!」

「エリカさん、それはあなたの武器ですよ。私とおじいさんは、一度引退した身ですからね。これから強くなりなさい」

「そんな……。いえ、頑張ります! 弟子として、世界最強の探索者になってみせます!」

「日本で一番ダサい探索者と、最強の探索者か。将来が楽しみじゃな。よし、ばあさんの番じゃぞ!」

「へ? 自分はそんなつもり……」

「開けますね!」


 ばあさんの宝箱からは、背負いカバンが現れた。ベージュ色の革素材で、ベヒモスとは関係なさそうじゃ。

 ワシのポーチも、同じくボスの宝箱から出た装備。このカバンもたくさん入るじゃろうな。


「これはエリカさんにあげます」

「いやいや、多分マジックバッグですよそれ! そんな高価な物、頂けません」

「年寄りのお節介は素直に受け取るものですよ?」

「……では、お言葉に甘えます。おばあ様、何から何まで本当にありがとうございます」


 さて、ワシの番じゃな。

 残る最後の宝箱に触れると、中から現れた光は誰よりも大きい。大当たりの予感じゃ。

 うにょうにょと形を変え、二つに分かれる。そして、ベヒモスを思わせる白い革鎧となった。

 首から肩にかけて、さらに、腰の周りに黒い毛皮がついている。デザインは悪くないが、少し野蛮な感じがするのぉ。

 

 "うおっ! じいさんの防具いいやん!"

 "普通にかっこいい!"

 "これ四つ全部売ったら、一生遊んで暮らせるなw"

 "五億は軽く超えるだろうねw"

 "カバンの容量めっちゃデカそう!"


「どれ、最後に石板の数字を見て、配信を終わろうか」


 北村とエリカは変わらず。ワシの数字が『1269』で四つ増え、ばあさんが『980』と一つ上がっておった。

 モンスターを倒すことで増えるのは確定かもしれん。


 "やっぱレベルかもな!"

 "その石板、協会に売るとか寄付するとかって考えてる?"

 "協会にあると嬉しいよね。ランク判定よりよっぽどいいわ"

 "おじいちゃんの家にも何個かあるんでしょ?"

 "ゲンジの家の倉庫、宝の山なんじゃね?w"


「この石板はエリカの物じゃからのぉ。ワシの家にある分は、後日探索者協会に持っていくとしよう。では皆の衆、さらばじゃ!」

「あたしのもいいですよ。ご視聴ありがとうございました!」

「今日も熱い戦いだった! ゴーフレイム!」

「ごきげんよう」


 "今日も面白かったぞー!"

 "暴れ納豆最強!"

 "北村もエリカも配信したら見るようにするわ"

 "ゲンジおつー"

 "協会から案内出たらレベル測定しに行こw"


 配信を終了し、北村が持っておった帰還の羽で地上に戻る。ワシとばあさんは軽トラで、若い二人にはタクシーを呼んでもらって、ワシの家へと向かう。


「帰ったぞーい!」

「今戻りました」

「おじいちゃん、おばあちゃん、お帰りー!」


 帰宅すると、夕飯時を少しすぎておった。

 それにしても麻奈……可愛すぎるじゃろ!

 これでもかと頭をでてやる。えへへとほころばせた表情もまた天使そのもの。神が地上につかわしたに違いない。


「お邪魔します。あなたがマナティちゃんね? DMありがとう。小さいのにしっかりしてるわ」

「エリカさん、いらっしゃい! 孫の麻奈です! 戦っている姿、すごく素敵でした!」

「きゃああああっ! なんて可愛いのかしら。あたしの妹にならない? 一緒に暮らしましょう!」

「命が惜しくなければ連れて行くがよい」

「じ、冗談じゃないですか……」


 ワシの宝をうばおうとは、不心得ふこころえ者がおったようじゃ。


「麻奈ちゃん、ビースト北村だよ。お邪魔するね?」

「あっ……。あの……こんばんは……」

「ワシの孫を怖がらせるとは! 北村、首を差しだせい!」

「いやっ……。自分はそんなつもりじゃ……」

「……おじいさん?」

「ひいぃ……。さ、さあ、中に入ろうかのぉ」


 げ、玄関で話しておってもしょうがないからな。

 居間に行くと、和樹が客用のテーブルを用意してくれておった。そこに、千枝さんが茶をれてくれる。


 挨拶を交わしながら談笑しておると、ばあさんが台所へ行く。飯の準備じゃな。


「ばあさん! ステーキはやめて、すき焼きと焼肉にせんか?」

「はいはい。すぐに持っていきますからね」

「あたしも手伝います!」

「客は大人しく座っておれ。お嬢と北村、酒はどうする?」

「自分、お願いしてもいいですか?」

「じゃあ……あたしも」


 千枝さんが、つまみにポテトサラダともやしのナムルを用意してくれた。

 乾杯をして、うたげの始まりじゃ!

 ……ワシは飲めんが。


「おじいちゃん、ベヒモスは強かった?」

「まあまあじゃな。ゴブリンと変わらん」

「嘘つけよ親父。ヘロヘロだったじゃねえか!」

「和樹……。まだそこか。あれは、敵を油断させるための演技じゃよ」

「演技で鼓膜破る奴がいるかよ」

「ところで北村、お主はいつまでタイツマンでおるつもりなんじゃ?」

「着心地がよくて、このままでいいかなって……」

「あはははっ! そのタイツマンてやめて下さいよ。あたしマジでツボなんですけど」


 やはり、探索終わりはこうでなくては。昔は、誰かと話したいがために、よく居酒屋に寄ったもんじゃ。何をどうやって倒したか……なんて話題で、あっという間に時間が過ぎたからのぉ。

 懐かしいわい。


「焼肉ができましたよ。どんどん食べていいですからね?」


 聖子がミノタウロス肉を持ってきてくれた。

 ホットプレート二台の火力を最大にして、隙間なく敷き詰めていく。ジューと素晴らしい音が鳴り、ワシの腹もグゥと鳴る。

 オレンジがかった赤から焦茶色に変わる頃には、芳ばしい香りが部屋を満たす。


「ほれ、何をしておる! 北村、どんどん食わんか! タレなんぞと甘えたことは言うなよ? ミノタウロス肉にはコショウも要らん。塩一択じゃ!」

「はいっ、いただきます! ……美味うますぎるぅううううう!」

「お嬢も遠慮は要ら……もう食べておるか」

「旨みが凄いですよね! 油も甘くてとろけるし、いい牛肉の香りがします!」


 焼肉を食べておると、大量の肉と野菜を抱えた千恵さんと聖子がやってきた。すき焼きの準備が整ったらしい。

 テーブルの上がお祭り騒ぎじゃ。


 全員が揃うと、居間がさらににぎやかに。警戒が解けたらしい麻奈が、北村と楽しそうに話し始める。……打首じゃな。


「どうした北村! もっと食えるじゃろ!」

「いや、もうお腹いっぱいですよ。逆に、なぜそんなに食べれるんですか!」


 北村が、大盛りご飯二杯を食べたところでギブアップしおった。ワシはすでに五合は平らげておるというのに。


 その時、地面が揺れた。

 ――でかい!


「すぐに火を消せ! 避難の……ん?」


 地鳴りとともに、縦に大きく揺れたかと思えば、すぐにおさまってしもうた。初期微動もなく、不思議な地震じゃな。


「変な揺れでしたねぇ?」

「麻奈はお父さんの側にいなさい」

「うん!」


 ばあさんも違和感を抱いておる。麻奈には、和樹よりもワシの近くにいて欲しいんじゃがな。

 ……嫌な予感がする。


 しかし、余震もない。首をかしげつつも食事を続ける。

 そろそろワシの腹も限界じゃ。


「ここで、ニュースをお知らせします。水戸城跡に、巨大な城が出現しました。ポータルがあることから、ダンジョンと推測されます。このケースは初めてで、探索者協会が調査……緊急速報です。茨城県内のダンジョンから、モンスターがあふれ出しています。住民は、探索者の指示に従い避難して下さい。繰り返します……」

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