おじいちゃん、レイドに参加する
ワシが戦っておった当時よりも、茨城県内のダンジョンは増えておる。街にモンスターが
まずい状況じゃ。ワシだけでは守りきれん。
「そうじゃ! 麻奈、配信の準備をしてくれ。眠っておる獅子を叩き起こす! スレッダーでも呼びかけてくれんか?」
現役の探索者だけでは対応しきれんじゃろう。街が地獄と化すのは目に見えておる。
あの頃にだけは戻りたくないからのぉ。呑気に隠居中のジジババ達を働かせようというわけじゃ。
麻奈に頼んで、文章を作成してもらった。
『ダンジョンからモンスターが溢れておる。
投稿した瞬間から、リスレッドという機能でどんどん拡散させていく。……どれだけの戦友に届くじゃろうか。
あとは、声を直接届ければよい。打てる手は全て打たねばな。ワシが配信を始めたのは、今日という日のためじゃったのかもしれん。
運命めいたものを感じるわい。
「近くにダンジョンは無いが、何が起こるか分からん。ばあさんは家の周りを守ってくれ。では、行ってくる!」
「自分もお手伝いします!」
「あたしも!」
「
ベヒモスの鎧に着替える。動きを
家を出て、軽トラックに乗り込む。時間との勝負じゃ。法定速度を少し超えるくらいは許してくれるじゃろう。
アクセルを踏み込み、車を走らせる。二十二時を過ぎているというのに、いつもより道が混んでおるな。県外へと避難しておるのじゃろうか。
最初の目的地に到着。ダンジョンではなく、とある
かつて秘孔突きの三島と呼ばれた旧友の自宅じゃな。
「おーい三島! おるかー?」
乱暴に玄関のドアを叩く。ついでにチャイムを連打。この時間にはもう寝ておるじゃろうからな。
いい夢を見ておるかもしれんが、悪夢の中へと招待してやろう。
「
「うるせえぞ
しつこく叫び続けておると、ようやく顔を出しおった。
ツルッパゲ頭に白髪混じりの太い眉、口元とアゴにはニョロニョロと長い白髭。優しげな細いタレ目が特徴的で、整体師らしいゴツゴツと
今日はベヒモスを倒して疲れたからのぉ。このパジャマ姿の男――
「モンスターが街を襲っておる。……どういうことか分かるな? さっさと着替えてこい」
「おいおい……そらまずいでねえか! 装備なんて、どこさしまったべ。ちょっと待っとけ」
三島の着替えを
「麻奈、聞こえるか? 配信を始めてくれい!」
「とりあえずフロントビューでいいんだよね? ……じゃ、スタート!」
"このタイミングで配信キター!"
"ゲンジ、大丈夫か?"
"掲示板とかスレッダーとか、ネットが凄いことになってるぞ。もう怪我人が出てるらしいよ"
"スレッダーを見て、茨城の友達には連絡しました。周りの人にも伝えてくれるみたいです!"
"今回のモンスターの
「コメントの衆、よくぞ集まってくれた。今、茨城県が大変なことになっておる。皆の協力が必要じゃ」
開始を告げる軽やかな機械音。それに続いてコメントが流れる。大勢の視聴者が集まってくれよった。ありがたいことじゃ。
すぐに話を始めたいが、なるべく多くの者に聞いてもらいたい。もう少しだけ待つべきじゃろう。
「何だっぺ源ちゃん、変な玉なんて浮かべてぇ。手品でも始めたんか?」
三島の準備が終わったようじゃ。
右手に鬼鉄の剣を持ち、左腕には鬼鉄の盾が。
頭だけはツンツルテン……あの頃のままじゃな。
「もたもたしおって。ほれ三島、これを耳につけろ」
ワシの左耳を見せながらイヤーチップを手渡すと、三島は文句を言いながら装着する。
"三島って、あの秘孔突きの三島!?"
"タコみたいwww"
"どんな戦い方するんだろうね?"
"茨城を救ってくれー!"
"三島さん可愛いw"
"昔の人は、みんな頭を守らないの?"
「機械に馬鹿にされてんだけどよぉ?
「肩もこるしのぉ……」
「んなもん、
「それもそうじゃな! だーっはっはっは!」
"この緊張感のなさ……w"
"仲良さそうw"
"早くモンスター倒しに行けよw"
"ふざけてる場合か!w"
いかんいかん。そろそろ本題に入らねば。
決して遊んどったわけではないぞ?
「マナティです。話の途中にすいません。おじいちゃん! 今ね、スレッダーにテレビ局の人から連絡があって、この放送を流していいかって聞かれたの!」
「今から大事な話をする。協力してもらえるならありがたいのぉ。すぐに返事をしてくれ!」
これは願ってもない展開じゃ。最高の舞台が整ってくれた。
……あとは、ワシの本気を届けるだけじゃ。
「
"当たり前だろ!"
"私達は、配信を切り抜いて拡散すればいいんですかね?"
"っしゃ! 任せとけ!"
"大先輩に敬意を
"ランサーズも、仲間と一緒に移動中だよん"
"ダンキン!?"
"風神きたああああ!"
"すごいことになってきたぞ……(小並感)"
何度か聞いた名前じゃな。たしかSランク探索者じゃったか?
正義感の強い若者じゃのぉ。昔を思い出すわい。
ワシも負けてはおれん!
「ワシの名前は工藤源二。かつて、茨城の暴れ納豆と呼ばれた男じゃ。こっちの
「俺がタコなら源ちゃんは落武者だっぺよ」
「……真面目な話をしておるというのに。ワシらは、茨城のために再び戦う。元探索者の老人ども、お主らはどうする? 家族の命を他人に預けて、隠居を続ける気か? ……違う。今が立ち上がる時じゃ。貴様らの両手には、力がある。ワシに続け! 命を懸けろ!
"うおおおおおおお!"
"暴れ納豆! 暴れ納豆!"
"三島さん頑張れぇええええ!"
"おう!
"孫に聞いたよ。大洗のデスタクシーも営業を開始する。モンスターを地獄に送ってやろう"
"日の丸弁当の高橋。参る!"
"俺の命もくれてやる。マタギのマサヨシ、最後の大花火だ"
"わしゃ
……みんな、まだ生きとったか。
心強い味方が次から次へと。懐かしい名前が聞こえよるわい。
同窓会の始まりじゃな!
「
「心配
三島を助手席に乗せ、軽トラを走らせる。
向かうは仏の岩窟。モンスターの姿が見えたら、そこから戦闘開始じゃ!
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