おじいちゃん、クレーマーになる
壁色が薄い青から赤に変わる。
中層までは、幅の広い迷路のような道中にモンスターが出現しておったが、下層からは構造が違う。
分かれ道はあれど、その先が必ず一キロメートル四方ほどの広い部屋になっておる。仏の岩窟では、おそらく
周囲状況に注意を払いながら戦わねばならぬ。
「コメントの
「私も答えますよ?」
"怖くてムリw"
"ブラックワイバーンが邪魔すぎるんよ……"
"お久しぶりです。自分は、ミノタウロスがきついですね。戦闘が長引き、他のモンスターが寄ってきてしまい、逃げるしかありません。何かいいやり方があるなら直接教えていただきたいくらいです"
"ビースト北村キター!w"
"こいつもジジイのファンになっとるやんw"
"コラボくるか!?"
ビースト北村か。
今度はワシが何かしてやりたいんじゃが、どうしたもんかのぉ。
"イシスというパーティで活動しているエリカと申します。下層のモンスターを相手にすると、あたしの火力が低くて仲間に迷惑をかけてしまうんです。活動を休止しようかって話もでちゃって……。あたしもおばあ様に教えてもらいたい!"
"イシスのエリカって、
"すげえことになってきたぞw"
"言うほどか? イシスって、下層でも全然狩れてると思うけど"
「……そうじゃ! 北村もエリカとやらも茨城に来たらええ! それなら一緒のダンジョンに行けるじゃろ? ワシ……天才かもしれん……。自分が怖い……」
「かまいませんよ? お二人とも、観光ついでにいらっしゃったら?」
「おじいチャンネルのマナティです。スレッダーの方で打ち合わせをしましょう。DM送りますね!」
"うおおおおおおおお!"
"いや、俺らずっと前からコラボしなよって言ってたよな?w"
"このじいさん、自分の世界に浸ってるから何も聞こえてねえよwww"
"トリプルコラボじゃん! 楽しみすぎる!"
"さすがのマナティ!"
ワシが北村に教えて、ばあさんがエリカを鍛えてやれば、視聴者からしても分かりやすい内容になるじゃろう。悪魔の頭脳が導き出した最適解じゃ。
若いもんとパーテーを組むのは、ワシとしても楽しみじゃわい。
今日はなるべくブラックワイバーン以外のモンスターは避けたいところじゃが、部屋があったとしても奴がおるとは限らない。
中層同様に、出現するモンスターはランダムじゃからな。
……
かわいい後輩のためじゃ。背に腹は変えられんからのぉ。
「そうと決まれば、今日はブラックワイバーンを倒して終了とする! ばあさん……
「じゃあ、お願いしようかしらねぇ」
血を思わせる赤い通路を進んでいくと、最初の部屋にたどり着いた。予想通り、大小様々な石の柱が突き出しておる。
部屋とはいっても、扉があるわけではない。通路と通路の間が開けておるだけじゃ。
通路の地面は
そんな中で戦闘しておる最中に、空からブラックワイバーンに襲われては最悪じゃ。
だからこそ、まず最初に倒すべきモンスターでもある。
部屋に入り、一番手前の石柱周辺にモンスターがいないことを確認する。
そのまま柱に背を預け、広い室内に向かって盾を構えれば準備完了じゃ。
「一つの部屋で、二体以上のブラックワイバーンを見た者はおらんじゃろ? 奴は縄張り意識が強いからのぉ。その特性を逆手に取れば、簡単におびき寄せることができるんじゃ。……まあ見ておれ。ア"ア"ァ"ァァァァァ! ア"ア"ァ"ァァァァァ!」
ブラックワイバーンの鳴きまねじゃ。ワシの声を聞いた奴らは、同種がおると勘違いして探しに来る。
ダンジョンの外にモンスターがあふれておったとき、ブラックワイバーンどうしが
「……ァァァ! ア"ア"ァ"ァァァァァ!」
来よった来よった!
やかましい声で鳴いてるおるわ。
相変わらずお馬鹿さんじゃのぉ。
尾の先まで含めれば二メートルほど。カナヘビのように細い体から、巨大な翼を生やしておる。
全身は黒く、濡れているかのように艶やか。まるでカラスのような色合いであることから、カラストカゲと呼ばれていた。
「下層の敵は強い。しかし、中層までのモンスターで経験を積んでおけば、その攻略を応用できるんじゃ。ブラックワイバーンは、メタルリザードとオウルベアを組み合わせた相手じゃと考えればよい。あとは……闘牛と変わらん! ア"ア"ァ"ァァァァァ!」
ワシの姿を確認したブラックワイバーンは、翼膜を広げ、
それほどに奴らは、身の守りに自信を持っておる。
放たれた矢の如き速度で迫るブラックワイバーンが、大きく口を開く。
体が後方に持っていかれそうになるが、無理に
暴れ牛をいなす闘牛士のように腰を回し、左拳を
ブラックワイバーンは全身を強く打ちつけて、だらりと情けなく舌を出しながら地面に転がる。
ワシの左手が、奴の脳を潰したと言っておるわい。
「こんな感じじゃな。外からの攻撃にはめっぽう強いが、内側はやわやわなんじゃよ」
「私の場合は、口の中からハルバードの先端を突き刺して脳を破壊します。そのまま背負い投げて衝撃を殺しますね」
"あのブラックワイバーンが一撃で……?"
"ミスったら死ぬやんwww"
"今日はもう終わりかぁ"
"ブラックワイバーンの鳴きまねクソ笑ったわw"
"おばあちゃんさ、ランク判定したらいきなりSになるんじゃねえの?w てか、適性職業が気になるんだが。後で鑑定してみない?"
"おっ! やろうやろう!"
「……ふむ、それもありじゃな。ワシがCランクじゃったか? ならば、おそらくばあさんは
「鑑定は一度やってみたかったんですよ。さっそく帰還の羽を使ってみましょうか」
パキッと羽軸を折り曲げて地面に投げ捨てると、小さなポータルが出現した。
潜り抜けてみれば、光の空間の中で気持ち悪い浮遊感に包まれる。これは入り口のポータルと一緒じゃな。
視界が戻ると、ダンジョンの外に立っておった。
ワシに続いてばあさんも出てくる。
「こりゃあ便利じゃ」
「そうですねぇ、あの羽にこんな使い道があったなんて」
ポータルは三分ほどで消えるようじゃ。
しばらく眺めておったら、渦巻く青白い光が中心に向かって吸い込まれるように消滅してしもうた。
さて、ばあさんをエスコートするかのぉ。
「頼もう! ばあさんを鑑定してくれい!」
「少々お待ちください」
探索者協会に入り、まずは鑑定課を訪れた。
前回と同じテーブルに案内されると、黒い石板状の魔道具が置かれる。
……さて、職業はなんじゃろう。
ばあさんが血を垂らすと、魔道具に文字が浮かび上がる。
「工藤聖子さんの適正職業は……『バーサーカー』!? 初めて見ましたね……。申し訳ありませんが、データがないので武器のおすすめができません」
"ババアサーカー……"
"あっ!"
"おいやめろ! ハムスターになりてえのか!"
"データがないってさ、もしかして最上級職なんじゃね?"
"ありえる!"
……ワシよりも上の職業じゃと?
この魔道具、壊れとるんじゃないのか?
「ま、まあええわい。ランク判定もお願いしてええかの?」
「はい。では、こちらへ」
おや、鑑定課の人間がランク判定までやるとは。ワシのときとは違うんじゃな。
ひ弱そうな茶髪の男だが、大丈夫じゃろうか。
案内されたのは、大型金庫のような部屋――ワシが遠藤と戦った場所じゃ。
ばあさんは薙刀を選び、茶髪はロングソードを両手に持った。
……二人が距離を取る。
いよいよじゃな。
「いつでもどうぞ! 頭は狙わないでくださいね」
「いきますよ!」
下段に構えたばあさんが、低い姿勢で距離を詰める。
鑑定課の男は、正中に構えて
鋭く踏み込んだばあさんの払い上げ。
半円を描いた刃が剣の腹を叩き、ロングソードが宙を舞う。
さらに踏み出し、ばあさんが突きを放つ。
茶髪の腹部にめり込み、体がくの字に折れ曲がる。
「ぐえぇ……。参りました。工藤聖子様はBランクになります」
「ちょっと待たんかぁああああっ! 遠藤を呼べぇえええええい!」
ワシがCで聖子がBじゃと!?
納得いかんわい!
それにこの茶髪、弱すぎるじゃろ……。
「誰が審査しても同じになりますから……。遠藤さんがやっても、Bランクなのは変わりませんよ?」
「この若造、嘘をつきおって! やり直すまでワシは帰らんぞ!」
「ほら、帰りますよ。……Cランクのおじいさん」
「嫌じゃあああああ! うわぁああああんっ!」
"ジジイ号泣ワロタwww"
"遠藤と比べたら弱かったけどねw"
"泣かなくてもいいのにw"
"ずいぶん老けた駄々っ子やなw"
ばあさんに首根っこを掴まれたワシは、探索者協会から引きずり出された。
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