『きみどりいろの骸骨』

やましん(テンパー)

『きみどりいろの骸骨』



 お盆の夜です。



 きみどりいろの骸骨が、


     闇から現れて、踊っている


 楽しそうに


     ぬらぬらと、踊っているよ。


 白い骨は、きらきらとかがやき


 頬には、ちょっと赤みが注している。


 健康そのものの骸骨さんだ。



 『やあ、ひさしぶり、元気?』


 骸骨さんは言う。


 『あの、あなたはどなたでしょう?』


 骸骨さんは、小さく笑った。


 『なんとまあ。あれほど、生きているときは、悪口言ってくれたのに。いまは、知らん顔かい?』


 『だって、あなたが誰か、判らないから。』


 『なるほど。そうなんだ。でも、君も骸骨になれば、すぐにわかる。骸骨あいみたがえさ。』


 『そんな、いまさら、いやがらせを、わざわざ、言いに来たのですか。』


 『いやあ。お盆だからな、近くだから寄ってみただけさ。君の最後は近そうだから。』


 『よけいなお世話です。悪口言われるだけのことをしたのでは?』


 『おやおや。ふふふ、まあ、いい。すぐにわかるさ。』



 すると、窓から、さらに深い緑色の骸骨がおりてきた。


 『ここにいたか。探していたぞ。やっと、骸骨になったな。』


 『あや、せんぱい。』


 『ふふふ、判るようになったか。では、いっしょに、地獄へ参ろう。』


 『ちょっとまって。こいつを、呪い殺さねば。』


 『ばっかもん。まずは、自分の後始末が先だ。この先は、それ次第だ。まずは、俺に対する挨拶を済ませることだ。ああ、あなた、邪魔したな。まあ、世の中順番だからね。しばらく待っているが良い。』


 緑色の骸骨は、きみどりいろの骸骨をぶら下げて、虚無の闇夜に去っていこうとした。


 身に覚えがないとはいえないが、言い分はある。


 みなそうだろう。


 ならば、安楽などは、人類には無縁だ。



 そこに、ロ長調の、長い長い終結和音が来た。


 Hは、始まりの音だ。終末の音でもある。


 その和音は、全てを浄化し、終わりに変えてゆく。


 きみどりいろの骸骨も、緑色の骸骨も


 安心したように、空間に飲み込まれ


 静かに溶け込んでゆく。


 流れるのは、深い安堵。安らぎ。


 許し。


 妥協。あきらめ。


 全てが、安らぎに終わるときには、


 宇宙は、役目を終えるだろう。


 しかし、始まりが終わりかどうかは


 たぶん


 永遠にわからないだろう。



 骸骨さんにも、わからない。

 

 きっと。それだけのことだ。

 


 


 


 


 


 


 


 


 


 

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『きみどりいろの骸骨』 やましん(テンパー) @yamashin-2

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