始祖の俺はファンタジーを生きる
@yakisyake0214
第1話 ありきたりな転生
ごく普通に俺は死んだ。
言うこともない、ごくごく普通の死に様…だったのは覚えてる。
でも自分が誰で、どんなふうに生きてどんなふうに死んだのかは覚えていない。
けれど、ごく普通に死んだんだという記録は覚えてる、そんな奇妙で言葉では言い表せない状態。
…うーん、自分でも不思議な状態だと思ってる。
エピソードについては忘れてるけど、情報だけは覚えてるというか…変な感じだな。
「必要な事ですから」
…目の前の存在はそんな事を言う。
暗くも明るくもない、天も地もないこの場所で俺は誰かに会っている。
多分、神様か天使か、それにあたるなんか。
「エピソードというものは恐怖と困惑、そして混乱を生み出す元ですから。
言い換えるのなら、常識を機能させる物であります。
アナタの正気に保ちつつこうして目の前に現れるにはエピソードは不要ですし…何より、これから転生するアナタには不要でしょう?」
転生と来たか。
転生、それを俺は知っている。
元いた世界から別の世界へと生まれ変わる事…それを主題とした小説や作品もあるってことも知っている。
で、大抵こうして上位存在っぽいのが目の前に来てわざわざ会話するってことは…
「ええ、形を失い魂だけとなったアナタをこうして、転生させる…。
その理由は勿論あります。
理由があり、必要性があり、そして…意味がある。
故にこそ、こうして現れました」
…何をさせられるんだ?
大抵こういうのは拒否権もない、拒否したって押し付けられる、ただただ受け入れるしか無い。
いくら俺に記憶が無かろうと、そういうもんだってのは分かる。
とはいえ、あんま無理難題を言われると困るんだが…
「心配しないでください。
アナタに与えられる役割は、さして重いものではありませんから」
ってことは『そういう』やつらもいるってわけだな…俺は違うみたいだが。
「アナタの役割、それは単純で明快で簡単な事です。
…ああいえ、生きることは簡単ではないので転生する以上簡単と言い切ってはいけませんね。
では、簡単に見えて少し難しい事を、アナタに」
………。
おう、なんだ?
「始祖になってください」
……始祖?
ってのは、つまり…なんかの始まりなわけだが。
「その通り。
アナタは始まり…種の始祖、最初の一匹となり、子孫を残してもらいます」
なんつーか、十分重い任務じゃねえの?
始まりってことは、周りも似たような状況なんだろ、てことは混沌なわけだ。
安全も治安も何もねえ修羅の世界、ただ生きるだけでも大変だろそれ。
つか子孫を残すって…相手はいんの?
「ご安心を。
その辺りも含めて世界の説明を致しましょうか」
そういうと、俺の目の前に球体が現れて浮かび上がる。
青と緑…海と自然が溢れた豊かな世界。
「この星こそアナタが生きる舞台であり、種を残す場所。
名は複数あります。
この星の言葉は複数ありますしその中でさえ分かれていますから」
…ってことは、ある程度発展した状態なのか。
少なくとも言葉ができてるぐらいには。
「その通り、そして言葉だけではなく種族もまた、この世界には溢れております」
今度は人形のような…チェスの駒のような物が複数現れる。
デフォルメチックというかなんというか…つか数多いな。
一体幾つあるんだこれ。
「人族、魔族、魔物、動物、虫、魚…
この星の者達はお互いをそう分けておりますが、我々からすればそれら全ては『種』
そしてそれらの種こそが私達の……そうですね、私を、私達を神と定義するならば。
種は眷属、神の子供達でありましょうか」
で、俺はその数ある種の、始まりの一体になるわけだ。
…アンタみたいな存在は複数あるみたいだが、何かを競ってたりしてるのか?
「ふむ、そうですね。
例えるならばゲームのような。
或いは共通の舞台を利用した小説の執筆のような。
…そして私はさしずめ、そこに現れた新人のような物…でしょうか」
なるほど?
つまり俺らは盤面に置かれた駒と、置いた新米プレイヤーってわけか。
「そうなりますね。
まあ己を管理人だと呼称したりただ世界を荒らすことを目的としたりこの世界を己だけの物にしようとしたり…
様々なスタンスはありますが、私はただ混ざりたいだけの者。
この世界にアナタという個を通じて歩み、見て、干渉したいだけの…プレイヤーです」
て、なると気合いれなきゃな。
いいぜ、なら俺は始まりの一つとして頑張ってやるよ。
どうせ拒否もできねえなら、張り切って生きるさ。
「ありがとうございます。
さて、幸運なことに正真正銘最初の…初めて得た駒のやる気もたっぷりなようですし、準備を始めましょう」
駒……いやうん、間違ってはねえな。
それに無理に隠されたりするよりはマシ…か?
で、準備って何すんだ?
「アナタが何になるのか。
アナタを始まりとする種がどのような存在となるのか。
更に言うならば、私が何を司る存在となるのか。
それを決めなければこの世界に入れません」
…結構大切なもん決めるんだな。
いや、世界の神の一人になるようなもんだから当然っちゃ当然なんだろうけど…
なんか決めてることってあんの?
人型かどうか〜とか属性的なもんとか。
「ありません」
…………。
「…………。」
………はっ?ねえの?マジで?
「このようなものは一人で決めるより…
アナタ、ひいては始まりたる祖と決めたほうが楽しい、そう聞いております」
…なるほど?
ま、俺もよく分かんねえもんに急にされるよりはある程度決めれるならそれでいいか。
で、なんか…コレにしたいとかそういうのあるか?
「ありません」
…………。
「…………。
…不思議です、呆れの感情が伝わってきます」
当たり前だよ…なんで始めよう!って決めたくせに希望ねえんだ…?
「私は上位の存在でありますが、自我を得たばかりの世界のピースでしかありません。
権限と自我を獲得はしましたが、それだけです。
強いて言うならば、混ざりたい、交流したい、発見したい…そのような感情を持った程度の者。
それが私です」
つまるところ…神様の赤ちゃんみてえなもんか。
マジモンの新米じゃねえかよ…
「不安ですか?」
そりゃあな…
つかどうすんだよ、このままなりたいもんが分からないじゃどうしようもなくねえか?
「……ふむ。
ではこのマニュアルに従いましょう」
マニュアルあんのか…
「有志の方が作成した物です。
ええと…ふむ、まずは属性を決める、とのことです」
属性…火とか水とか?
「そのようですね。
これを決める事によって司る物も絞り込みやすくなるのだとか。
………うむむ、しかし…ピンとくるものがありませんね」
まさか俺に決めろとか言わねえよな…?
俺だって希望とかねえぞ記憶ねえんだし。
なんかオススメの属性とか書いてねえの?
「ありますが…
とはいえ、オススメの属性に決めてもある程度被ることは考慮しなければなりません。
あの世界は種も上位存在も、全員が有効的とは限りませんし有り触れたものを取得すれば…」
…被ってるからって事で攻撃されるかも、か。
アンタらがどんな感じで存在を保ってるかは知らねえけど信仰だとか宗教だとかは多分あるだろうな。
で、主神と被ってるって判断されたやつらは…
「…目障りになるでしょうね。
難しいところです…うむむ…
いっその事ランダムに決めてしまいましょうか…?」
はっ?
えっ、ちょ、は?それでいいの?
「アレコレ決めた所で想定される脅威はいくらでもありますし、それに我々は希望する物も無い…となればどれを選ぼうと変わりません。
ならば天運に任せましょう、なにもかも」
ちょいちょいちょい!?
それで頑張らなきゃいけねえの俺なんだけど!?
「頑張りましょう」
頑張りましょうじゃなくてさ!?
ああコイツサイコロみてえの出しやがった!
「安心してください、これでも運には自信があります。
なにせ0に近い可能性の中より産まれ出た存在ですから」
その存在が蔓延る場所に今から行くんだけど!?
ああサイコロが…!
「……結果が出ました。
属性は――〘毒〙〘生命〙〘火〙」
ああ…複数決められるのか…つか…こう…
ランダムで決めただけに微妙っつうか…大丈夫なのかコレ?
「分かりません、分かりませんが…このまま進みましょう。
とりあえず司る物も適当に決めてしまいましょうか」
お前賢そうな口調の割に結構大雑把だな?
もうこうなったら付き合ってやるよ最後まで……で、今度のダイスの結果は?
「……………。
…………」
えっまって何怖っ。
お、おい?一体何引いたんだお前!?
「……〘状態異常〙〘慈悲〙〘煙〙
それぞれの属性に付き一つ対応した結果です」
あー、だからそれぞれの属性に対応したって待てそれ以前の問題だろ。
しかもまた微妙なもん引いてるし…
「さて、それでは」
このまま進むのか…
「肝心のアナタの形…その姿の在り方、そして特性を決めましょう。
何か要望などはありますか?」
要望…要望ね…うーん……
……。
……ランダムで……
「分かりました、では…
このまま転生させます、勿論生命としての機能は保証されているでしょうが…驚かないように。
それでは、頑張って」
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