楽園遊戯

べっ紅飴

第1話 焼き肉奢るって?和牛特選盛りなら考える

「サプラーーーーーイズ!!!」


そんな掛け声と共に玄関から満面の笑顔で登場したバカ2人。


「なんと今日はっ!!トウヤ君に誕生日プレゼントをご用意させて頂きましたー!」


ぱちぱちぱちとオーパーリアクションで拍手をする2人のノリについていけず、思わずため息を付いた。


「いや、オレ誕生日半年後だけど」


俺の的確な指摘に動じることなくバカAはドヤ顔で口にした。


ふわぁ〜ぅふハーフAnniversaryアニバーサリー…」


何故かアニバーサリーの部分だけ上手に発音しようとしているのが妙にイラッとして、俺は彼の左頬をつまんで引っ張った。


いひゃいいたいです。」


「それは良かった。コーメイ、君も早く要件を言わないと此奴のように痛い目を見ることになる。」


「相変わらずノリが悪いなぁ~。そんなんだと彼女に愛想つかされるぞ☆」


パチリと飛んできたコーメイこと孝明たかあきのウィンクを躱しつつ、バカAことジャックのもう片方の頰をつまんだ。


いひゃひゃひゃひゃいいたたたたい


「俺に彼女がいると思うか?」


「まぁ、冗談はここまでにして、これを君にプレゼントしようと思ってね。」


俺の質問を華麗にスルーしてみせたコーメイが、ラッピングされたそこそこ大きな物体に指をさして見せる。


「ナニコレ?」


「開けてみれば分かる。」


コーメイに開けるように促され、ジャックの両頬から手を放してから、俺は渋々包装紙を剥がし始めた。


「プレゼントの度に包装紙を無駄にするなんて全くどうかしている。環境活動家が破壊できなかった負の遺産の一つだ。」


かつて地球に存在したという環境活動家と名乗ったあらゆる文化の破壊者に思いを馳せながら、ビリビリと大雑把に包装紙を破く。


そうして無惨な包装紙の残骸の上に現れたのはヘルメットのようなデザインが印刷された真っ白な箱であった。


「開けてみたけどわからん。何だこれは。」


「マジ?知らないのか?」


ジャックが信じられないと、驚いたような顔で言った。


「まぁ、僕はそんな気はしてたけどね。トウヤは流行に疎すぎるからね。」


「そんなことはない。この前タピオカ抹茶カカオラテを飲みに行ったからな。」


「それが流行ったのはもう3年も前だよ!」


ガビーンっとジャックは驚きから驚愕へと表情を一段階変化させた。


「一応説明すると、これはゲーム機だ。」


「ゲーム機?どう見てもヘルメットだろ。」


「VRゴーグルは知ってるでしょ?」


「まぁ、流石にな。」


使ったことはないが、妹がそれらしきものを持っていたのを思い出した。


「アレが進化するとこうなるんだ。」


「はぁ?」


「所謂フルダイブ型VRマシンって奴だな。ちなみに流通するようになってもう一年以上経ってるからな。話したことあったよね?」


「あ、ふーん、なるほどね?俺が知っているやつよりだいぶ小さいな。」


「それは多分医療用とか業務用に使われているやつ。こっちは家庭用で、小型化されてる。」


ようやく理解が及んだと俺は何度か深々と頷いた。


「ゲームのことになるとどうにも記憶が鈍る」


「ようやく理解してくれたみたいだね。」


「まぁな。それでコーメイ、プレゼントは有り難いところだが、俺はゲームが苦手なんだけど。」


いい加減要件を話せと言外に告げると、コーメイの隣でやれやれとジャックが肩をすくめて首を振った。


「プレゼントって言ったけど、実は1つお願いがあってね。」


「お願い?」


「そう。僕とジャックでゲームの大会に出る予定なんだけど、参加条件が3名以上なんだよね。」


「で、俺に出てほしいわけか。他に頼めるやついただろ。」


「みんな先約があってね。トウヤが思ってるよりもこのゲーム流行ってるんだよ。」


コーメイは苦笑いをすると、ショルダーバッグの中から長方形の物体を取り出して俺に手渡した。


「うるとらばとるひーろずねお。」


どうやらゲームのパッケージのようだった。


「ジャンルは格ゲーってところかな。厳密には違うんだけど。」


「めっちゃ面白いぜ!」


「うん。面白いから返事を断る前に一度プレイしてみてもらいたいんだよ。」


「うーん。ゲームはなぁ…。」


「まぁ、そういうと思ったよ。」


「悪いな。」


「いいよ。でも、もし出てくれたら焼き肉奢ったのに、残念だよ、トウヤ。」


「待て、今なんて?」


「焼き肉。」


「焼き肉?」


「そう。焼き肉だよ。好きなもの何でも頼んでよかったのに。」


「待て待て待て、まだ断るとは言ってない。言ってないが…。」


「まだ何か不満が?」


「和牛特選盛り…。」


言葉にした途端、口内が大量の涎で満たされた。


「山嵐亭の和牛特選盛りなら考える…。」


「好きなだけ頼むと良いよ。」


ごくりと自然と喉が鳴っていた。


コーメイは満足げに頷くと、そっと手を差し出した。


俺が握り返すとコーメイは


「交渉成立だね。」


と言って固く手を握り返した。


それに応えるように俺は


「和牛特選盛り」


と、再度つぶやいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る