その警報、アナタには聞こえましたか?

くろぬか

第1話 とある心霊スポット


 今年も随分と暑い季節がやってきましたね。

 いやはや、こうも暑くては海だプールだと行きたくなるものですが。

 知っていますか? 山奥って結構涼しいんですよ。

 勿論常に木陰になるからとか、土に含んだ水分が~とか色々ある訳ですが。

 とはいえ、“それ以外”の要因もあったり無かったり。

 今回はそう言うお話をさせて頂こうかと思います。

 あぁもちろん、これは私の与太話ですから。

 事実とは関係ありませんよ? 所謂フィクションという奴です。

 まぁ、私もこの話は人から聞いた話ですから“事実無根”とはいかないかもしれませんが。

 その辺りは、“怖い話”ってヤツには付き物ですよね。

 さてさて、今回お話するのは埼玉県の秩父のお話。

 アナタはゲームって好きですか?

 一時名を馳せたホラーゲーム、警報が鳴り響く不思議な村に足を踏み入れてしまう物語。

 モデルとなった廃村が実際にまだ存在するお話であり、その名を聞けば詳しい人なら「今更何をそんな有名な話」と思うかも知れませんね。

 動画サイトでも取り上げられ、数多くの人々がその地に“心霊スポット”として足を運んでいる訳ですから。

 しかしコレも、結構問題となっておりまして。

 撮影中の誰かが居なくなったり、不思議な声を収録したりと様々です。

 ま、いわば有名な心霊スポットですね。

 では、何故ここはそうなってしまったのか。

 元々は火事が原因だとか、色々言われておりますが……まぁ、地元の図書館などで調べれば少しは事情が分かるかもしれません。

 が、しかし。

 恐怖の対象となる場所には、何故か様々なモノが集まって来る。

 ただの山火事で、多くの命が失われたとすれば……正直、悪い言い方をすれば“昔で言えば良くある話”です。

 関連する地蔵の話なども出てきますが、その火事は偶然なのか故意なのか。

 はたまた神仏の祟りなのか。

 こればかりは、当時を知っている人でないと正確な答えは出せないでしょう。

 ですが、何故でしょうね?

 そんな“よくある”廃村を、ゲームとして器用しようと思ったのか。

 グラフィックを作るのにも、シナリオを作るにもお金が掛かります。

 だが、作ろうと思わせる“何か”があった。

 これは、そんなお話です。


※※※


「これさぁ……場所あってんの?」


 思わず、愚痴を溢してしまう程に“山”だった。

 男3女2という状況で、私達は今山の中を歩いている。

 珍しい事にウチの会社は夏休みがちゃんと設定されており、短いながらもこうして社員同士で旅行に出られる環境にある訳だ。


「夏だし、俺等大人だし。心霊スポットに本気で突入してみようぜ!」


 同期の一人が言い放った一言により、私達は今ここに居る。

 最初は乗り気だったのだ。

 皆でお酒を飲んでいた影響もあり、行こう行こうと騒いだ記憶がある。

 だが実際、皆の予定を合わせて現地に赴いてみれば。


「マジで山、大自然。確かに都心より涼しいかも知れないけど、虫がヤバイ」


「ダハハッ! まぁ田舎に潜入するってのはこう言う事だろ!」


 文句の一つでも溢せば、暑苦しいテンションの同期の一人が声を上げた。

 何でもかんでもしっかり言葉にして、仕事の成績も良い。

 多分私達の中で一番早く昇進するのはコイツなんだろうな、なんて。

 簡単に想像できるくらいにリーダーシップのある男。


「知ってた? ここって有名なホラーゲームの題材にもされるくらい、ヤバイ場所なんだってさ」


「うっへぇ、高レベルじゃん。心霊スポットでも、もう少し優しい所に行きたかったわ」


 軽口を溢す残り二名の男性も、特に気にした様子も無くスマホのマップを頼りに歩いている。

 まだ日も高いし、本当にハイキングにでも来た気分だ。

 そんな事を、思っていたのだが。


「あの、さ。ちょっと寒くない?」


「いや、え? 嘘でしょ?」


 この場では唯一の女友達が、急にそんな事を言い始めた。

 今は真夏、確かに森の中と言う事も含め普段より涼しくはあるが。

 それでも寒いと感じる程ではない。

 いくら何でもソレはおかしいだろと、視線を向けてみれば。


「本当に大丈夫? この先って。私達、ヤバい所に行こうとしてない? それに、この音何? さっきからずっと遠くで鳴ってるけど……」


 彼女は、ガタガタと震えているではないか。

 田舎の山奥、更には慣れない環境。

 しかもこれから心霊スポットに向かおうとしているのだから、恐怖を覚えるのは分かる。

 でもコレは異常な反応な気がした。


「ねぇちょっと! 皆! 何か結構深刻な――」


「おいコレ! ネットに書いてあった地蔵じゃねぇか!?」


 何やら男性陣が騒ぎ始め、歩みを早めてしまった。

 こっちはそれどころじゃないというのに、どうしたものかと友達に視線を向けると。


「違う、私は違う。私じゃない、それは私じゃ無くて、他の人。違うの、私がココに来ようって言った訳じゃない。だから、連れていかないで……」


 普通じゃない感じで全身を震わせ、良く分からない事を呟いていた。

 流石にコレは不味いと感じて、彼女の背中を擦りながら声を上げた瞬間。


「ちょっと! 何か本気でヤバイって! ここ普通じゃな……い? あれ?」


 意識の中から、何かが抜け落ちた様な感覚。

 さっきまでやろうとしていた事を忘れてしまったみたいな、自分でも何を急いでいたのか分からない不思議な状態に襲われた。

 いや、でも、うん。

 私は友達の不調を訴えようとして……あれ? 友達は皆視界の先に居るじゃないか。

 だったら、誰の事を心配していたんだ?

 首を傾げ、視線を手元へと戻してみれば。

 そこには、見覚えのないバッグを抱えていた。

 えと、何?

 私はこのバッグで何をしてたの?

 皆はもう先に進もうとしていると言うのに。


「ちょっと待ってよ! 私一人だけ置いて行くとかあり得ないでしょ!」


 この良く分からない状況が、とにかく怖いと感じてしまったのだ。

 私はさっきまで誰かを心配していた、それは間違いない。

 だというのに、その相手が分からないのだ。

 しかも。


「あぁ……もう最悪。なんであんな気味の悪い“汚い”バッグ触っちゃったのかな」


 先程まで手にしていたソレは、非常に汚れていたのだ。

 まるで何年もココに放置されていたかのように、汚かった。

 なのに何故、私はそんなモノを拾い上げてしまったのか。

 それすら分からないのが、とても気味が悪いと感じてしまったんだ。


「ちょっともう、待ってってば! 私も行くから、置いてかないで!」


 そのバッグをとにかく投げ捨て、私は皆の後に続いた。

 やはり私も緊張しているのだろう。

 こんな遠い所の心霊スポットに来たのだ、それもおかしくはない。

 でもやはり、何故あんな物を胸に抱えていたのかは不明……妙に、気持ちが悪い。

 だって私達は、目の前の同僚三人と私だけでこの場所に訪れた筈なのだから。

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