第6話 教導者、働く。
追記1 なんか長くなっちゃった(´・ω・`)文章量1.5倍でお送りします。
追記2 1.5倍どころじゃねーな。
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モストル爺さんから頼まれた案件は、ベテラン勢が出払っており手が回らない案件ということだ。
あ、今更だけどモストル爺さんは冒険者ギルドの人間な?
どれくらいの立場かはわからん、部下はいるみたいだから結構上の立場かもしれん。
んで、その内容は「村の近くの山の様子が少しおかしく、様子を見てきてほしい。」
簡単に言うとそういう依頼だ。
言葉にすると普通だがこういうやつは案件としてかなり問題がある。
「調べて原因が魔物なら、倒すなり追い払うなりしといて。」という言葉にされていない意図が含まれているし、他にもいくつかマズい点がある。
まず日数が決まってないのがヤバい。
その上具体的な問題がわかってないので、原因を突き止めることが難しい。
また、この手のは「何も見つかりませんでしたー」と報告すると「ならカネ払わねえよ!」となりがちである。
気持ちは分かるが対価は払えよ、何もなくても経費は掛かってんだぞ。
あんまりカネカネ言ってると品性を疑われそうだが、冒険者として生活している人間にとっては最悪である。
金で品性は買えないが、金がないと人は品性を保てないのだ。
脅威がわからないから難度も上手く設定できない、結果として依頼料も控えめになる。
まぁ、辺境の村ってぇのは金がないからわざとやってるんだろう。
俺も辺境出身だから心情としては理解できるんだがな……。
解決後に依頼料と難度が釣り合ってないと冒険者ギルドから判断されたら、あとで追加での支払いも請求できるが大体雀の涙だ。
いや、払われるだけマシかもしれん。
俺は何度か踏み倒された。滅びろ。
救いに行ったのに、なんで滅びを願わなければならんのか。
おっと過去の恨みつらみが出てしまった。
こういう依頼は大きな事件に繋がることも多いため、多少いい加減でも冒険者ギルドは受け付けざるを得ない。
大丈夫だろ、でほっといて国を揺るがす大事件になった案件を何件か俺も知っている。
つまり、冒険者ギルドにとって断ることが難しいが全く儲からないカスのような依頼である。
はい、そのカスのような依頼を受けた冒険者が俺でーす(半ギレ)
本来はパーティ単位で受けるような仕事だが、「おめぇなら、いけるだろォ?たぶんな!」というモストル爺さんからのゴリ押しで問題ないと判断された。
もうちょっと……手心というものを……。
最初の依頼としてはかなりハードである。
恩人からの依頼でもあるし、辺境の苦しい生活を知っている俺としては少し思うところもあるし結局は受けたけど。
立身出世を夢見て村からでたんだけど、人様の役に立ちたいって思ってたのも本当なんだぜ?
数日の休息と準備を済ませて依頼された村に着いたのはいいが、外国人である俺はあからさまに警戒された。
ちょっと髪の色が違うくらいなのにすごい遠巻きに見られる。
子供も隠された。
俺は人さらいか何かか?
お前らが呼んだ冒険者だよ。
食事も宿も断られた。
……やはり滅んだほうがいいのでは?俺は訝しんだ。
正直食事も用意されない可能性は予想の範囲だったので、空間拡張鞄にしこたま用意してた。
元々この国ちょっと外国人に排他的なところあるしね……。
こんな予想当たってもうれしくねーよ。
村はずれにテントを立てる許可だけは何とかもぎ取り、簡単な野営の準備をして見えづらい縄を使ったブービートラップを張って仮眠をとった。
こんなとこで夜に眠ったら何されるかわかんねーよ。
夜になった。
入れ食いである。
村の若い奴が徒党をくんで荷物を盗もうとしてきたので、ぶん殴って村はずれに捨てておいた。
多分明日騒ぎになって俺が悪いってことになって、リンチに掛けられるんだろなあ……。
もうやだこの村。
俺の村もアレだったけどここまでひどくねーよ!
もうかなりやる気はなくなっていたが恩人からの依頼だし、翌朝太陽が出るとともに問題の山に入ることにした。
とりあえず異変が本当にあるかどうか調べる。
冒険者おびき寄せて荷物奪う依頼の可能性も出てきたからな……。
今回はついでに狩猟もするつもりでメインウェポンに弓を持ってきた。
こう言う時色々使えると便利だよなぁ。
とりあえず調べて何も見つからなかったら速攻で帰るわ。
金も要らない、こんな村にいられるか!俺は一人で帰らせてもらう!
おうちかえる!
などと意気込んで入ったのだが。
確かに様子が変だ。
静かすぎる。
その上、生き物の気配が一切ないのだ。
なるほど、これなら依頼してもおかしくない。
あの村はカスだが。
滅びろ。
虫も見当たらないし、木々すらも息を潜めているように感じる。
……これはもしかしてとんでもない何かが起きているのではないか?
過去に書物で学んだ事象どれにも当てはまらない。
何らかの天災の前触れか……?
付近の生き物が居なくなるような現象……。
地震の予兆で小動物が逃げるという話は聞いたことがあるが、ここまでいなくなるというのは……。
いや、まさか……
もしかしてこれは・・・まさか!
まさかまさか!
魔王生誕か!?
その可能性に行きついた瞬間、ぶるりと背中に怖気が走った。
もしそうならば決して見逃すわけにはいかない。
少しでも情報が必要だ。
それに本当に魔王が生まれたのなら、どれだけ村の人間にムカついても避難指示は必要である。どれだけムカついてもな!
あいつらは報告しても信じない気もするが、それはそれで義理は果たすことになるからいいのだ。
滅びないかなーとか思ってはいるが、積極的に滅びてほしいというわけではない。
模倣した隠密スキルを使いながら、より一層慎重に探索していると山頂付近のちょっとした広場に行き当たった。
多分あの村の猟師が使ってる広場なのだろう、隅に粗末な山小屋が見える。
その広場の中心に一つの人影が見えた。
そう、生き物が一切いない山中にである。
目に入った瞬間、全身の毛が逆立った。
あれは・・・!
ざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわざわ……
音は聞こえないはずなのだが、空間がざわめいている。
膨大な魔力に空間が軋んでいる!?
あぁ…今、今まさに!アレは魔王になろうとしている!
アレが魔王として完成すれば、どれだけの被害が出るかわからない。
被害を出したくないならば、生まれたばかりの一番力が弱いタイミングで討伐するべきだ。
しかし本来魔王は数PTで協力の上、作戦を立てて戦うもの。
斥候を出し、威力偵察を行った上で何が効果あるのか何をしてくるのかを確かめて戦わねば、無用な被害が出る。
なめてかかると思わぬ痛手を被る、どれだけ弱そうな魔物の魔王でも王を冠する存在なのだ。
カネも時間も命さえもすべて吐き出して、ようやく手が届く偉業。
だからこそ倒したときの名声が得られる。
おそらく今逃げ出して冒険者ギルドに報告に走っても責められないだろう。
むしろよく情報を持ち帰ったと褒められることは間違いない。
しかし・・・しかしだ!魔王を倒せば!
普通に手に入らない勇者スキルが手に入る!
俺が切望した強さを得ることができるかもしれない!
生まれたばかりとは言え、魔王に一人で戦いを挑むのは自殺と同義である。
普段なら絶対やらない判断だ、鼻で笑って否定する自信がある。
魔王を倒すのは一人きりである俺には無理だと諦めていた。
だが今!目の前にチャンスが転がっている!
魔王討伐から外されて不貞腐れて逃げた先で、こんな機会に恵まれるなんて!
ジークはネズミの魔王「
正直あの魔王戦は偶発的なものだったし、運が良かった。
あの場には俺もいた。
とどめを刺したのがジークだっただけだ。
だからこそ。
ずるいと思った。
うらやましいと思った。
欲しい。
欲しい、欲しい、欲しい!!!
たとえ命を懸けてでも!
育て上げた教え子も!苦労して作った居場所も!大切な恋人も!
俺にはもう命しか残っていないのだ!
失敗して死んだとしても!
俺は!
笑って!
死ねる!
背中に背負っていた弓を震える腕で引き絞り、狙いをつけた。
この一撃にすべてをかける。
スキル「儀形」
模倣!勇者スキル「
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簡単な用語説明
・「魔王生誕」
魔王が生まれる現象。
基本的に人里離れた場所で起きる。
原因は不明。
近くの生命を奪い尽くす。
この現象に遭遇した人間はほぼ確実に死ぬ。
魔王とはそれほどの存在なのだ。
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