第2話 教導者、決心する。

 

 今度の遠征はゴブリンの魔王らしい。



 冒険者ギルドから提供された資料は、参加メンバーに入れなかった俺に見る権限がなかった。



 以前は参加しなかったときもアドバイスを求めてきていたが、もう必要ないということなのだろう。



 ジークは成長した。



 リーダーとしても、人間としても冒険者としても成長した。


 初めての魔王討伐で得た勇者スキル「魔王殺しジャイアントキリング」が、彼の地位を不動のものにした。



聖騎士パラディン」のジョブスキル「カリスマ」での全員の能力底上げ幅も俺の「補助アシスト」の完全上位互換となり、ますます俺の価値がなくなった。



 もうクランは当分新人を採用することも無いとなると、いよいよ俺は不要な存在となる。


 俺の成長はほぼ限界まで行っているように感じる、行き詰まりを感じる。


 己のスキルが自分に適用されない以上、大きく成長することは難しいだろう。


 どこまで行っても「教導者」は他人に働きかける力しかないのだ。







 自分の部屋に戻り、壁に掛けられたクラン設立時のメンバーの絵画を眺める。





 初めは二人だった。





 すぐに三人になり・・・そして今は冒険者150人を数える大所帯だ。



 このままこのクランに残っていても、たまに来る新人を教育するだけで俺は苦労することなく生きていけるのだろう。


 クランメンバーからも表立っては悪く扱われないだろう。


 なにせ幹部だからな。


 だが、俺はまだ20歳だ。




 なんでそんな死にかけた爺みたいな生き方をせねばならん?



 必死に身に着けた技術と知識をドブに捨てるような生き方をせねばならん?





 俺だって、冒険者だ。





 強くなりたい。




 ここにいたら俺はもう強くなれないだろう。



 目をつぶり、深いため息を吐く。










 潮時だ。








 そう思った。


 もう、ここにはいられない。


 もちろん一から作り上げたこのクランに愛着がないとは言えない。


 苦労して得たこのクランハウスにも思い出が沢山ある。




 なにより一緒に駆け落ち同然に逃げてきたモニカがいる。


 村で泣きながら結婚したくないとすがりついてきた、愛しい幼馴染。


 はちみつ色の髪で青い綺麗な瞳を持つ、俺の初恋の人。


 冒険者になって3年目には恋人になっていた。


 お互い頼る人も居なく共依存に近いものだったろう。


 正常な関係ではない。


 それでも俺は彼女を愛していたし、きっと彼女もそうだったはずだ。


「治癒士」のジョブを与えられた彼女にも、俺はできる限りの教導を行った。


 知識は少ない収入の中から本代に費やし、身に着けたものだ。


 俺からの教導を受けた彼女は上級職「白魔導士」にもなれた。


 彼女は喜んだ、俺ももちろん喜んだ。


 こんな日々がずっと続くと思っていた。








 様子がおかしくなったことに気付いたのは2年ほど前だ。


 なかなか会えなくなった。


 俺も新人の教育が忙しかったし、交渉もほぼ俺がやっていたこともあってなかなか時間が取れなかったのは確かだ。





 だが、明らかに避けられていた。





 攻略メンバーでも彼女は第一パーティでおれは大体第五パーティで、一緒に戦うこともなかった。


 ちょっと強引にでも話をしようと考え、ある夜に彼女に会いに行こうとしたときに俺は見てしまった。










 風呂上がりの格好で、ジークの部屋に入るモニカを。







 あぁ、そういうことかと納得してしまった。








 もう彼女は俺の恋人じゃあなかったのだ。







 問い詰める気もなかった。


 彼女が幸せならそれでいいんだ。











 嘘だ。









 俺は逃げたのだ。


 見て見ぬふりをした。


 対外的には、まだモニカと俺は恋人同士だ。


 しかし、きちんと話をしたのはいつだかもう思い出せない。




 俺は遠征で騒がしくなったクランハウスの騒動を他人事のように感じながら、部屋の片づけと旅に出る準備を始めた。


 正直、金はうなるほどある。


 全部は持っていけないが、かさばらない換金しやすい宝石などを中心に持っていこう。


 仕舞い込んでたダメージを肩代わりしてくれる「スケープ・ドール身代わり人形」も幾つか持っていくか・・・。


 最近はパーティ単位で動いていたから、ソロで動くのは久しぶりだ。


 準備は怠れない。


 クランのひよっこどもに昔教えた内容を思い出しながら、一人旅の準備をする。


 冒険者ギルドで移籍の書類ももらわんとな・・・いや、他所で一から始めよう。


 あぁ、一応仕事の付き合いには手紙を出して・・・いやめんどくさいな、もうクランから出るわけだからそういう後始末はリーダーのジークがやるべきだ。


 あいつは俺に頼りすぎだ。


 ジークにだけ手紙をささっと書いて部屋に残した。


 恋人を寝取られたことに対する意趣返しとしては優しいほうだろう。







 空間拡張鞄を使っても結構大荷物になってしまったが、「教導者」のスキル「儀形」で「荷運び人」のスキル「重量軽減ウェイトコントロール」も模倣して難なく持ち上げた。


 気付いたらもう深夜で明かりもなかったため、これまた「儀形」で「魔術師マジシャン」の「灯火トーチ」を模倣して足元を照らした。


 さらに「儀形」で「斥候スカウト」の「気配察知ディテクト」を模倣し、誰もいないことを確かめて部屋を出た。





 やっぱり便利だよなぁ、「教導者」のスキル。


 ───────────────────────────────────

 簡単な用語説明

 ・魔王

 簡単に言うと突然変異で、近くにいる魔物を従えてしまう。

 時間がたつとどんどん強くなるから速やかに抹殺することが推奨される。

 倒すと勇者スキルと呼ばれる強力なスキルが誰かから与えられる。


 ・スキル「儀形」

 みほん、お手本って意味。

 教えるにはお手本見せないといけないからね、基本職と呼ばれる職のスキルは大体模倣できる。

 ただ、スキルをきちんと見て理解して学ばないとダメ。

 もちろん本職よりは劣るし、使い続けても成長はしない。

 あと、あくまでもお手本だから5分程度で効果は切れるし、動きはすごくわかりやすい。重ね掛けもできないし、同時発動もできない。

 便利に使ってるのは主人公くらい。






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る