出かけられないけどデートがしたい! 2人台本
サイ
第1話
悠人:うーん……。
玲奈:…難しそうな顔して、何見てるの?
悠人:『夏に行きたいデートスポット10選!』。
玲奈:ふうん。ようやくいい人と巡り会えたんだ。
悠人:何言ってんだよ。俺は玲奈以外のやつとデートなんて行ったりしない。
玲奈:まだそんなこと言ってたの?
悠人:玲奈!俺と一緒にデートしてくれ!
玲奈:いや、無理なんだって!
悠人:もしかしたら、気合いでなんとか行けるかもしんないじゃん!
玲奈:だからぁ……、
勢いよくドアを開けた玲奈は、外へと手を伸ばす。しかし手は見えない壁に阻まれる。
玲奈:どうやったって無理なの!私はここから出られないの!
悠人:なんで?!
玲奈:私が幽霊だからだって何回言わせんのよ!!!!
ひとりでに開いたドアを隣室の住人が化け物を見るような目で見ている。
悠人:あ、すみませんお隣さん!空気通るかなと思ってドア少し開けてたら風圧でガッと開いちゃいました〜。
悠人:へへ、失礼しまーす!
そっとドアを閉める。
玲奈:ご、ごめん…お隣さん、びっくりしちゃったかな…。
悠人:まぁ、最近じゃうちの部屋は「出る」って噂になってるね。
玲奈:普通さぁ、幽霊は物を触れないって言うじゃん。でも私触れるじゃん。触れたら触りたくなるんだよね…。
悠人:こないだ俺の洗濯物代わりに取り込もうとしてくれて、向かいのマンションの住人に見られたんだっけ。
玲奈:だって…雨降りそうだったし…。
悠人:その前は下の住人から「掃除機の音がする」って。
玲奈:ずっと家にいるだけじゃ暇なんだもん!
悠人:……。
玲奈:……。
玲奈:…なんで私、成仏できないんだろう。
悠人:やっぱ、デート行きたかった?
玲奈:そりゃあ、ね…。まさか待ち合わせ場所に行く途中で車に轢かれるなんて思わなかったし。
玲奈:行きたい気持ちは山々だけど…この部屋から出られない以上、デートは無理だよね…。
悠人:……わかった。
玲奈:え?
悠人:デートしよう!
玲奈:…いや、話聞いてた?出かけられないんだよ?私。
悠人:どこかに出かけるだけがデートじゃないよ!
悠人:家の中で!デートしよう!!
玲奈:家の…中?
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翌日、ホームセンターから大量の荷物を買って悠人が帰ってくる
玲奈:おかえ…何その荷物?!
悠人:実はまだ車の中にもある。
玲奈:昨晩遅くまで調べ物してたけど…それってこの買い物するため?
悠人:玲奈!
玲奈:は、はい。
悠人:おうちデートプランその1!
玲奈:そんなたくさん考えたの?!
悠人:…の前に疲れたので休憩します。
玲奈:…麦茶入れてくるね。
しばらく涼んだ後、悠人が立ち上がる。
悠人:よし、作るぞ!
玲奈:お、やるのね。
悠人:これは玲奈にも協力してほしいから、もう先に内容を言っちゃうんだけど、流しそうめんをやりたいんだよね。
玲奈:あー、いいね。夏っぽい。何したらいい?
悠人:俺はそうめんを流すための竹のあれを作るから、そうめん茹でといて欲しいのと、おつゆと、付け合わせの準備を。
玲奈:え、流しそうめん機みたいなやつじゃなくて?!そこから作るの?!
悠人:もちろん。
玲奈:アパートの一室で、そんな本格的な流しそうめんを…?
悠人:もちろん。
玲奈:…わかりました、そちらはお任せします。
キッチンにはそうめんと、冷蔵庫にめんつゆ、卵、ハムやきゅうりなどが無造作に放り込まれている。
玲奈:うわぁ、きゅうりまで同じ冷蔵室に…。あ、そういえば。
玲奈:悠人ー?そうめん何束食べるのー?
悠人:(遠くで作業しながら)2束食べるー!
玲奈:けっこう食べるのね…じゃあ2束茹でればいっか。どうせ私は食べられないし。
玲奈:…そうだ、私食べられないんだ。せっかくの流しそうめんなのに。
鍋の中の水がふつふつと小さな泡を浮かべ始める。
玲奈:流しそうめんってやりたいって思っても気軽にできるものじゃないし…生前にやりたかったなぁ…
玲奈:やっぱり、普通に食べるより美味しいのかなぁ…。
大きな泡を立て始めた鍋にそうめんを入れた。
そうめんは絡まりそうになりながら、鍋の中をさまよっている。
そうめんとつゆ、付け合わせを用意して部屋に戻ると、脚立に竹を通して高さをつけた、お手製のコースが作られていた。
玲奈:すご。けっこう本格的だ。
悠人:自信作だよ。すごいだろ。
玲奈:すごいすごい、早くやろうよ。私流す方やるからさ。
悠人:よし、俺の華麗な箸(はし)さばきを見ろ!
腰を落とし、竹にかじりつくんじゃないかというほど近寄り、上流を見つめる。
悠人:よっしゃ来い!!
玲奈:行くよー。
悠人:来い来い来い…よっ!取れた!…うん!うまい!!
玲奈:茹で加減ちょうどいい感じ?
悠人:いい!つゆもいい感じだな!
玲奈:表記通り薄めただけだよ。
悠人:いいんだよ。玲奈が用意してくれたからおいしいの。
玲奈:あっそ。これだけでそんな喜んでくれるなら、作った甲斐があったわ。
あっという間にそうめんはなくなった。
悠人:よし、次は玲奈が取る番だぞ。
玲奈:え、いいよ、私は食べられないし、もうそうめん残ってないし。
悠人:そう、食べられない玲奈でも楽しんでもらおうと、一生懸命考えたんだよ!いいから箸もってここで待ってろ!
玲奈:えー、何…?
上流からコロコロと何かが流れてくる
玲奈:いや、何これ!
悠人:ちっちゃいUFOキャッチャーみたいなやつに入ってる透明な石ころ!
玲奈:ははは!なんでよりによって石なのよ!
悠人:綺麗だろ?あとこれならギリ箸でつまめるかと思って。
玲奈:いや難しいって!だめだ、笑っちゃって手元が…ははは!
悠人:これ転がすためにあえてこの高さにしたんだからなー!
玲奈:おかしいと思ったのよ!そうめん流すだけならそんなに角度つけなくても流せるのにって…お!取れたー!!
悠人:やるじゃん玲奈!まだまだあるぞー!
玲奈:いやどんだけ用意してんのよ!
悠人:(m)その後も、ガチャガチャで取ったフィギュアやビー玉など、とにかく流せそうな物を色々流して遊んだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
次の日
悠人:よっこいせ。
玲奈:でっかいブルーシートと、生地をのばすときのめん棒だ。
悠人:夏といえばやっぱこれでしょ。
玲奈:これは、もしや。
悠人:レッツ、スイカ割り大会ー!!
玲奈:おおー!!
悠人:ちゃんと2個買ってきたんだよ…ふへへ。
玲奈:…食べ切れるのかなぁ。
悠人:とりあえず冷蔵庫にぶち込んどけば大丈夫!よし!やるぞー!
玲奈:てか、この狭い部屋でスイカ割りして大丈夫かな?いろいろぶつけそう…昨日の竹も、たけたて…たて…立てかけて…あるし?
悠人:噛んだ玲奈さん、最初どうぞ。
玲奈:噛みたくて噛んだんじゃないし!くそー…
悠人:はい、目をつぶって、3回ぐるぐる回ってー。よし、始めるぞー!
玲奈:お願いしまーす。
悠人:まず、2時の方向向いて。そうそう、あとちょっとだけ、もう10分進めて。
玲奈:た、短針?長針?
悠人:短針ね、ちょっとだけ…そうそう。で、3歩前に進んで。あ、ちっさ。
玲奈:家の中だから慎重に進んでるんですー!
悠人:はいはい。じゃあもう3歩…あー行き過ぎ…か?いやいけるかもしれないな…
玲奈:ど、どっちよ。
悠人:いこう!思いっきり振り下ろして!3、2、1!!
玲奈:おりゃー!!
ぽすっ
玲奈:…ぽす?
玲奈:悠人、これ何…?
悠人:ち◯かわのぬいぐるみ。…え、ハ◯ワレ派だった?
玲奈:え、そうじゃなくてさ…スイカは?
悠人:馬鹿力の玲奈のことだからきっとスイカが粉々になって片付け大変かなと思ってこっそりぬいぐるみにすり替えておいt…痛い痛い俺の頭をスイカに見立てて叩かないで!!
悠人:(m)その後ちゃんとスイカ割りをしたあと、お騒がせしたお詫びに周り近所にスイカを配った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
悠人:玲奈って、ベランダは出られるよね。
玲奈:そうだね、洗濯物取り込めたし。
悠人:じゃあ今日はベランダで花火大会だな。
玲奈:え、さすがにベランダで花火はやばくない…?火薬の匂いけっこうすごいし、ベランダって一応共用部でしょ?
悠人:そう、そう思って昨日スイカで挨拶回りしといた。大家さんにも確認取った。
玲奈:大家さんのOK出たの?
悠人:「かわいい玲奈ちゃんのためならいいよ!」ってOKしてもらった、特例で。
悠人:でもやっぱり周り近所のこともあるから、一応線香花火だけにしておこうかな。
玲奈:そ、そう…まぁ、許可が出ているのであれば…。
悠人:よし!じゃあこれ燃え殻用の水いりバケツね。で、これが花火と、ライター。
2人は並んでベランダの入り口に座る。
悠人:はいこれ、玲奈の分ね。
玲奈:ありがとう。花火なんていつぶりだろう…。
線香花火に火を灯す。
玲奈:悠人、あのさ。
悠人:うん?なに?
玲奈:おうちデート、ありがとう。
悠人:楽しい?
玲奈:うん、すごく、楽しかった。
ぶら下がった雫から、光が弾けだす。
玲奈:覚えていてくれたんだね、昔私がデートでしたいって言ったこと。
玲奈:A県の山中に流しそうめんのお店があるってテレビで見て、いつか一緒に行きたいね、って話したよね。
悠人:遠すぎて、行くなら泊まりがけになっちゃうから、しっかり計画練ってから行きたいね、って言ってたね。
玲奈:海でスイカ割りしたいって話もしてた。
悠人:楽しそうだけど、片付け大変だよねって言って、実現せずじまいだった。
玲奈:そう、準備も片付けも大変で。しかも2人ともそんなにスイカ好きじゃないっていうね。
悠人:メロンのが好きだなぁ。
玲奈:メロン割りは、ちょっと難しいかもね…。
音を立てて、光が咲きみだれる。
玲奈:浴衣着て、花火大会にも行きたいね、って言ってた。
悠人:…ごめんね、浴衣までは準備できなかった。
玲奈:いいの、これはこれで、すごく好き。
玲奈:…ねぇ、悠人。
悠人:なに?
玲奈:私、悠人の恋人でよかった。こんなにも幸せな思い出、たくさんくれて。
玲奈:楽しかったし、嬉しかった。
悠人:……行っちゃうの?
玲奈:そうね、もう思い残すこともないし、行けると思う。
悠人:…そう。それならよかった。
玲奈:ありがとうね、悠人。
悠人:こちらこそ、楽しい夏をありがとう。
玲奈:来年、また帰ってきてもいい?
悠人:いいよ、今度は何したい?
玲奈:うーん…プールで水遊びしたいからなぁ…プール付きの家に住んでおいてくれる?
悠人:ビニールプールで勘弁してもらわないとだなぁ。
玲奈:ちぇ。まぁいっか。
光の雫が水面に落ちて、消える。
玲奈:そろそろ行くよ。
悠人:気をつけて。
玲奈:また来年。それまで元気でね。
悠人:うん、待ってる。
ドアを開けて、玲奈が外へと出ていった。
悠人:(m)開いたままのドアを閉めに行った。外には誰もいなかった。
悠人:(m)ドアを閉めて部屋を見渡した。
悠人:(m)竹と、透明な石ころ、ややへこんだぬいぐるみが転がっている。
悠人:(m)火薬のにおいが、やけに寂しく感じさせた。
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玲奈:ねぇ、悠人の馬、下手すぎるんだけど!乗り心地最悪だったよ!?
悠人:精霊馬(しょうりょううま)に上手とか下手とかあるの?
玲奈:あるある。足の長さが全部バラバラだったから、もうガッタガタだったよ!!もうちょっと故人のこと思って作ってよ!!
悠人:はいはい。そんなのことより、昨年のご希望通り、ビニールプールご用意いたしましたよ。
玲奈:私が頼んだのはプールであって、ビニールプールじゃないけどね。
悠人:いいだろ。…そういうことだから、玲奈。
玲奈:なぁに?
悠人:俺と一緒に、デートしてくれ。
出かけられないけどデートがしたい! 2人台本 サイ @tailed-tit
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