巷で有名なペッタンおじさんの秘密の部屋。
深夜にピンポンダッシュ
第1話 自由研究の題材って結構困るよね
私はこの春からのダンジョン探索者養成学校に通う16歳。
小学生の頃から憧れてた探索者に漸く一歩近付けた感じだ。
養成学校の授業は主に体育が中心で、一般教養は1学期が過ぎる頃には殆どやらなくなる。
基本的に探索者は肉体労働者なので、卒業と同時に即戦力となってダンジョン探索をする訳だから、ある程度の常識と法律を持ち合わせていれば、問題無く働ける。
体力が資本なんだから、体力の無い者は自然淘汰されて授業から遅れ始め、結局辞めるか編入して居なくなる。 今時高校中退では仕事なんて限られてるから、編入して一般高校に入り直すけど、最初から探索者は過酷な仕事と分かっているので、毎年編入するのは一人居るか居ないかって感じ。勿論、男女共にね。
まぁ、中には魔法を使える子が居たとしても基本的な体力が必須だから、学生時代の今のうちに頑張ってる子は多い。 そもそも、ダンジョンの中を歩くんだから、体力無いとか無理だから。
延々と飛べるならいーと思うけど、飛んで進むという事はそれだけ魔力を無駄に使う分けで、いざ攻撃ってなった時に使えないんじゃただの魔物の餌だ。 自殺願望でも無ければとっとと体力つけやがれって、話になる。
まぁ、体力はあるけど戦うスキルがショボいから探索者には成るけど、働く場所は一般職って人もいる。
私の様に。
小・中と頑張って肉体改造に勤しみ、学年一二を争える程の体力馬鹿に私は成った。 で、幼稚園児の遠足で初めて入ったダンジョンで、仮スキルというお試し的な物を授かり、それを育てては来たものの、余りうまく馴染まなかったスキルの変更をこの学校に入ってから行った。
スキルというのはダンジョンが初めてこの惑星にできた頃、『神の慈悲深き愛を授ける』って言葉が地球全土に住まう全ての人類の頭の中で聴こえ、試しにダンジョンへ入った最初の人がそれを証明した。歴史の教科書にもその人の名は載っていて、
人類初のダンジョン探索者で、人類初のダンジョン行方不明者になった人。
これが、私のお爺さんの弟だって言うんだから世の中は本当に狭いよね。
まぁ、それを知ったのは、小学に入ってからだったけど。
自分の親戚が教科書に載ってるってだけで、憧れて自分も探索者に成る!って、なったんだけど……。
幼稚園児の時に貰ったスキルは体力向上スキルだったのよね。
それでガンガン鍛えて体力馬鹿の異名も授かったんだけど、いくら体力有っても戦えないのよ。
だから一塁の望みを掛けて最終儀式に賭けたんだけど、これが大ハズレ。
で、結局辞めるか編入するしか道が無いと悟ったんだけど、ずーっと体力しか上げてこなかった私は意外と馬鹿だったのよ。 まぁ、当然と言えば当然なんだけど……。
で、辞めるくらいなら探索者免許だけでも欲しいじゃない?
色々潰しも効くし。
そして迎えた一年生の最初の夏休み、自由研究の宿題が出た訳だ。
『将来成りたい自分の夢』を研究して、提出しろって事なんだけど。
普通にみんな探索者だからそれに付いて書くから楽な宿題だと言ってたけど、私は違ったのよ。
ある意味夢が潰えたわけで、真っ先に考えるのは、自分の夢探しというね。
因みに私の最終スキルは忍者。
一見使えそうに思うでしょ?
だけれども、これが大ハズレな不遇スキルで、忍者と言っても魔法使いとは違うのよ。 だから魔力ってのがそもそも無くて、火遁水遁とかいう術ってのが有るんだけど、これは道具が無いとそもそも使えないのよ。 火遁なら火薬、水遁は水に潜って姿を隠すとか、水に飛び込んだふりして隠れるとか? そんな感じの術なの。 これっぽっちも攻撃的な術じゃないのよ! スキルが忍術なら違ったのよ? 忍術になると、妖力っていう魔力と似通った力にも目覚めるらしくてね、アニメとかに出てくる忍者みたいに超攻撃的なスキルが使えるから人気なんだけど、忍者はただの人なの。 ただちょっと足音がしないとか、気配を消せるとか? それしかないの。
それにね? 手裏剣とか使うと思うでしょ? あれも毎日投げる練習をして身に付く物で、特にスキルで強くなるわけじゃないの!
刀もそう! 毎日手豆潰して振り続けないと強くならないし、短刀っていうの? ダガーみたいな感じで扱うんだけど、普通に考えて傷を付けた程度で魔物と何て戦えないのよ!
刃に毒を塗れ? 無理無理! そもそも毒って今の世界でも手に入らない物だし、手に入れるには危険物取扱免許は必要だし値段も高いし、いちいち国に許可を申請しないと買えないし? そもそも魔物の肉って食べられる物だから、それに毒を使って倒してたら大赤字よ? 魔石を売れば良いとか思ってる? 魔石なんて物を体内に蓄えてる魔物なんてダンジョンの下層にでも行ってめちゃめちゃ強い魔物を倒して漸く手に入る代物なのよ? 短刀如きで倒せる相手じゃないの! 体力があるだけの不遇スキル持ちのペーペーが倒せるわけ無いでしょーがっ!
ハァハァ……。
まぁ、そんなこんなで探索者免許は取るけど、仕事は別な事を探してる訳なのよ。
で、家にいたって五月蝿く言われるだけだから、こうしてダンジョン一階層で人間観察しながら夢に付いて考えてる所よ。
ベンチの周りでは家族連れがスライム追い掛けて和気あいあいと楽しんでたり、老人がゲートボールの道具片手にスライムを玉代わりに使って遊んでたり、何処かの幼稚園児が遠足で遊びに来てたりと、普段と代わり映えの無いダンジョン一階層で、私はぼーっと眺めてた。
延々と眺めてると、いつの間にか老人達は露店の惣菜を肴に一杯やってるし、家族連れは露店のたこ焼きを買ってと泣き喚く子供に手を焼いて、半ば引き摺るように帰宅しようとしてるし、園児達は既に居なかった。
「はぁ、私も帰るかな……」と、腰を上げて立ち上がると、遠くの方にぺったんおじさんが見える。
──ああ、あの人まだ居るのか。
ぺったんおじさんは、私が園児の時からダンジョン一階層でスライム狩りをしていたおじさんで、年齢不詳、住所不定、氏名不詳なのにも拘わらず、何故か有名人でそこに居ないと不安になるくらい風景に溶け込んでる人で、歌まである。
朝から晩まで(ペッタンペッタン)
何時でも何処でも(ペッタンペッタン)
あなたと一緒に(ペッタンペッタン)
僕も私も(ペッタンペッタン)
皆の友達(ペッタン)おじさーん!
()は合いの手
誰が作ったのか知らないけど、昔からある歌(笑)、殆どの人が知ってる。
一見不審者に見えるんだけど、話し掛けても気さくに返答するし、人生相談にも乗ってくれるし、遊び相手にもなってくれる不思議な人。
ペッタンおじさんを見てたら、そのままダンジョン奥にペッタンペッタンしながら消えてったので私もそのまま帰ることにした。
もう見る物ないしね。
どーせ明日も此処にくるだろーし……。
あ~もう本当に自由研究って困るわ〜。
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