第126話 恋愛脳

「イレーナ先生、反省文が書けました!」


「そんな元気よく反省文を提出するなんて初めて見たわよ。まあいいわ、どれどれ……」


 反省文のプロから直接指導を受けたルーシー。もはや反省している様子はない。


「ルーシーちゃんよ、減点じゃ。提出する前には雰囲気が大事じゃ、吾輩の場合はレモン果汁を目に吹き付けて数回目をこすったりしたもんじゃ……」 


 ……だが、イレーナは反省文を一読すると、涙を流しながらルーシーの両手をやさしく包む。


「そうだったのね、……ぐすん。ルーシーちゃん。そんな気持ちで魔法を学んでいたなんて、先生は言い過ぎたわ、そうねお小遣いの減額は無しにしましょう」


 アイスを食べながらウインクをするルカ。

「良かったのう、お主の先生は随分とちょろいようじゃな、逆に心配になるほどにのう……」


 なぜだろう、ルーシーは罪悪感を覚えた。そう、二度と反省文を書くようなことはしまいと誓ったのだ。

 そして減額を免除されたお小遣いでイレーナに何かプレゼントをしようと思ったのだった。




「さてと、皆さまお揃いですし、そろそろ本題に移るとしますか。オリビア陛下、無名仙人から得た情報と、ホーカムが自白した情報、それらから今後の対策について意見を出し合いましょう」


 まったりした空気はセバスティアーナの言葉で少し緊張感が増した。


 セバスティアーナは無名仙人から聞いたヘイズという男についての考察を述べる。


 オリビアもホーカムから聞き出した情報を出し、今回の事件の情報を共有する。


 情報を精査した結果。


 呪いのドラゴンロード・ルシウスは生きている。それは少女のふりをしてカルルク帝国に潜んでいる。


 ルシウスは無名仙人ですら感知できないほどに、その能力は弱体化している。


 ヘイズはかつてルシウスより能力を授かっているため、ルシウスの存在が感知できるらしい。


 そしてヘイズはハンスという男に成りすましていたが、無名仙人に感づかれたために体を放棄し、現在は新たな人物に成りすましている。


 今のところ誰がヘイズなのかはホーカムですら知らない。そしてヘイズの性格からしばらくは何もせずに捜査が緩むのを待っているだろうこと。 



 故に導き出した結論。


「ならば我々としてはヘイズよりも先に呪いのドラゴンロードを確保する必要がありますね」


 オリビアの発言に、一同は頷く。



 ◇◇◇


 寮に帰るとルーシー達は軽く夕食を済ませる。

 アイスやお菓子を食べたので夕食は控えめにする。


 冬は寒さに適応するために太りやすくなるらしい、そういう同級生の女子達の噂を真に受けたわけではないが少しだけ気にする年頃であった。


 明日から冬休みに入る。

 ルーシーにとって初めての冬。いろいろと遊ぶ約束をしている。

 雪遊びに思いを馳せながらベッドに横になると睡魔が襲う。


 今日はなんやかんやで疲れた。


「ふあぁー。ソフィアさんおやすみー」


「ルーシーさんってほんと寝つきがいいですわね。うらやましいわ」


 読書をしているソフィアはこの寝つきの良さが少しうらやましかった。

 ルーシーは既に寝息を立てていた。 



 ………………。


 …………。


 ……。 



『おい! ルーシー、我の声が聞こえぬか?』


「うーん、気持ちよく寝ていたというのに……またお前か。そうだ! お前、何やら少女の姿に化けているそうだな。悪趣味だ、まったく、見損なったぞ!」


『うん? お前は何を言っているんだ? ……ふう、そうであった、お前は頭が悪い。その少女とはお前の事だぞ?』


「頭が悪いだと! 失礼な奴だ……うん? あっ、そっか。ならヘイズが狙っているのは私ということになるのか……なら皆に伝えないと」


『ふふ、そうできればよいな。だがお前は起きたら忘れるだろう……まったく、どうしてお前は頭が悪いのか』


「なにをー! さっきから私を馬鹿にして。そういうお前だって頭が悪いだろうが。

 なんでヘイズにあんな力を授けたのだ、結局お前は奴に狙われてるんじゃないか、飼い犬に噛まれる馬鹿はお前だ!」


『むー、言ってくれるな。だが我は覚えておらん。ヘイズとやら……、どこで力を授けたのだろうな。

 まあ我としては当時は面白そうだったのかもしれん。うーむ。思い出せんな、そんな奴もいたかもしれんし……まあ結果からしていたのだろうが……』


「やっぱ、お前の方が頭が悪い。そんな大事なことを忘れるとは、お前の方が馬鹿だ!」


『……ふ、まあ、安心しろ。我の力で我を殺すことなどできぬ、ヘイズとやらはせいぜい道化を演じるだけだろう。くっくっく、愚か者の末路よな。お前もその過程を楽しめばよいではないか』


「それだと迷惑だと言ってるんだ! ヘイズが生きている限り犠牲者が増えるんだぞ」


『ふむ、ならば頑張るしかないだろうな。まあ安心しろ、我がいる限りお前は無敵なのだからな、はっはっは』


「むー、そう言う割にはお前は夢にしか現れないし、守ってくれる訳でもアドバイスをくれる訳でもない。お前の目的はなんだ」


『ふむ、目的か。まあ、当面は生き残ることよ。そうだ、そんなに守ってほしいならルーシーよ、さっさとつがいを持て。ほら、ニコラスというやつはお前に惚れているようだしな。

 皇子の妻になれば守ってもらえるぞ?』


「むー、またそれか。お前、呪いのドラゴンロードの癖にその話ばかりじゃないか。恋愛脳か!」


『ふ、恋愛脳、結構じゃないか。言わせてもらえば、そう言うお前は恋愛に無頓着すぎるぞ? お友達同士もいいがもう少し大人になるんだな、わっはっは』

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