第八章 ダンスパーティー

第123話 二学期の終わり

 期末試験だ。

 今回は余裕である。なぜならば最低でも中級魔法の一つを習得していれば良いのだ。


 現時点でクラスの全員が中級魔法の一つ以上は習得済みである。


「ふっふっふ、ちょうどよい。中級魔法でも最も破壊力のあるヘルファイアを披露しようじゃないか」


 ルーシーはみるみる成長する自分の魔力に、つい調子に乗ってしまったのだ。


 魔法を放つものの、巨大な火球は的を大きく外れ訓練場の外壁に命中。

 魔法耐性のない普通のレンガの壁に大穴を空けてしまった。


 当然だが魔法の試験に使う射撃場には人がいないため怪我人はいない。

 だが、中級魔法はコントロールを失敗するとそれなりに被害が出るのだ。


 イレーナの顔が青くなる。責任は生徒だけではなく教師も同罪だからだ。


「ふ、ふふふ。ルーシーちゃん。調子に乗りましたね。今日中に反省文を書いて先生まで提出なさい!

 それに、不用意に未完成な魔法は使わない。最初に教えましたよね。貴女のしたことは叱られて当然です。今月のお小遣いは減額しますからね!」


「……はーい。イレーナ先生、ごめんなさい」


 イレーナに叱られたのは初めてだ。さすがに深く反省するルーシーであった。



 ◇◇◇



 午後は闇の魔法に対する防衛術の試験だ。


 試験内容は筆記のみで実技はなかった。


 さすがに闇魔法の実技を試験内容に入れるのは学園としては許可できないのだ。


 内容は魔法文明の歴史における闇の魔法が使われた様々な事件や、使われた魔法道具などを穴埋めしていく筆記試験である。


 ルーシーは午前中にあったことは忘れて試験に集中する。


 点数は合格点、満点ではないもののそれなりの高得点である。


 もっとも筆記試験の内容は毎年同じであり、過去問という物が存在する。ようは暗記すれば良いだけだった。


 教師としてどうなのかと思うところがあるが、それぞれに教育方針があるため学園としても黙認せざるを得ない。

 それにマーガレットは教授としての地位が高い。先帝陛下の信頼が厚い彼女に文句を言える教師などいないのだ。


 手際よく採点を終えるとマーガレットはお茶の準備を始める。


「ふむ、よろしい。皆合格。そういえばルーシーよ。お主、調子に乗って反省文を課せられたそうだのう、はっはっは」


「むー、マーガレット先生、笑い事じゃないです。反省文なんて書いたことないから、正直なんて書いていいか分かりません」


「そうですわね。私も経験がありませんし、ルーシーさんのお役に立てませんわ。先生なにかアドバイスを貰えないでしょうか? ルーシーさんは既に反省してらっしゃいますし……」


「ふむ、まあ気持ちは分かるがのう。だが私とて、学園側の人間だしのう。それに手伝っても、おそらく文体でばれてしまう。まあ、素直に反省していると書けば良いんじゃないか?」


「……それはそうですけど、ごめんなさいの続きの文章が浮かばないんですよ。うーむ、ひたすら、ごめんなさいって紙に書くしかないかな……」


「ルーシーさん、それだと怪文書になる。ここは反省文が得意な人に教えてもらうしかない。時間はまだあるし私達も手伝う。案外ジャン先輩なら適任かも」


 セシリアの言葉にマーガレットは何か閃いたのか、ピンと人差し指を伸ばし、ルーシーに答える。

「いるぞ! 反省文が得意な奴を私は知っておる。しかも部外者で、今はこの街に滞在している暇人がのう」



 ◇◇◇



 カルルク帝国の首都ベラサグンのとある邸宅。

 外にはすっかり雪が積もり子供たちが楽しそうに遊んでいるのが見える。


「ハーックシュン!」


「おや、ルカ様、風邪でしょうか。最近、雪が降ったのか気温が一気に下がりましたし、ルカ様もお歳ですから気を付けてくださいね」


「ふ、セバスちゃんよ、吾輩は風邪などひいたことないわい。おそらく誰かが吾輩の噂でもしているのだろうて」


「まったく、そんなベタなことある訳ないじゃないですか……」


「いや、案外あるやもしれんぞ? 吾輩の勘じゃが、この後すぐお客さんが来るじゃろう。セバスちゃんよ、外は寒い、温かいお茶の準備をしておくれ」

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